ロックダウンで「致命的ダメージ」を負った中国企業のDXが進む理由中国人アナリストが切り込む「中国DX事情」(2/2 ページ)

» 2022年09月30日 12時00分 公開
[周 逸矢野経済研究所]
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1.中国政府の強い「デザイン力」

中国は1949年の建国以来、5年間にわたる中期の国家の発展目標「五ヵ年計画」(The Five Year Plan)に基づく経済運営を実施している。2021年からは「第14次五ヵ年計画」(注2)を土台にさまざまな産業促進政策が制定され、各種先端技術の発展を後押ししている。

図3 2022年の中国における先進技術制度政策の全体像(出典:公開情報を基に矢野経済研究所が作成) 図3 2022年の中国における先進技術制度政策の全体像(出典:公開情報を基に矢野経済研究所が作成)

 構造は「四大国策」「細分化科学技術発展計画」「各政府機関の科学技術政策」の3段に大別され、一般的には5年に1回アップデートされる。四大国策「細分化科学技術発展計画は主に国務院が、各政府機関の科学技術政策は科学技術部と工業和信息化部がそれぞれリードしている。

図4 政策策定における各政府機関の役割(出典:公開情報を基に矢野経済研究所が作成) 図4 政策策定における各政府機関の役割(出典:公開情報を基に矢野経済研究所が作成)

 特に「14次五ヵ年計画」では数字化転型関連政策が多く取り上げられている。

 産業促進政策のほとんどは、中国政府の国家財政部および地方政府から補助金が支給される「2重補助体制」が構築されている。中国政府の政策については、次回以降詳しく説明したい。

2.政府による大型のITインフラ投資

 中国政府は2018年末から、「新型インフラ構築」と題する数十兆元規模(注3)の大型ITインフラ投資を実施している。汎用(はんよう)的なデジタル技術の土台を作り、企業のハードルを下げることで、中小企業から大企業まで企業全体のIT競争力を上げる狙いだ。

3.法整備の進展

 中国はデータ漏えいやデータ乱用、個人情報の不正収集、サイバー攻撃などのセキュリティ面が問題視されてきた。グローバル市場における「中国DX」のイメージアップを図るため、近年はデータ統制を規制する一連の法律が公布されるなど、法律が整備されつつある。

4.米中貿易摩擦など外部環境の変化への対抗

 2018年7月以降、米中間において貿易摩擦や先端技術封鎖など、相互不信が深刻な状況が続く。特に、半導体チップの製造装置や製造技術、設計ソフトウェアなど半導体産業という“弱み”を握られている中国は、他国への技術依存度を下げて、逆に中国の先進技術の流出を防ぐ「産業や経済の内部循環」という政策を打ち出した。筆者は外部環境が激変した状況下でも、デジタル経済規模が拡大したのはこの政策の寄与が大きいと考えている。

5.盛んな民間投資

 中国には、投資ファンド(中国ローカル系が主流。外資系も一部存在する)が1万社強存在するといわれている。エンジェル投資家やベンチャーキャピタル、プライベートエクイティファンド、銀行系などの民間の投資ファンドが、先端技術活用が進む状況の一翼を担っている。

 これら投資ファンドは多かれ少なかれ、AIやビッグデータ、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、5G、量子コンピュータなどの先端技術のサービスプロバイダーに投資している。どの投資フェーズにおいても複数社が共同投資するのが中国では一般的だ。

6.コロナ禍の影響

 COVID-19の拡大を受けてロックダウンが実施された影響で多くの中国企業が致命的ダメージを負った。状況を挽回するため、中国政府は数字化転型による経済活性化政策を前倒しして進めている。政策に関連する取り組みを通して、中国企業は数字化転型への認識をより深め、コロナ禍による影響からの迅速な脱出を進めている。

中国企業のデジタルアーキテクチャの理想像

 いくら政府の支援が強力だったとしても、企業が数字化転型推進に当たってはさまざまな課題にぶつかり、容易に実行できるとは限らない。業界や事業形態などによって課題は千差万別だ。矢野経済研究所による中国企業におけるデジタルアーキテクチャの理想像をまとめた(図5)。

図5 中国企業のデジタルアーキテクチャ理想像(出典:矢野経済研究所の作成資料) 図5 中国企業のデジタルアーキテクチャ理想像(出典:矢野経済研究所の作成資料)

 もっとも、中国における数字化転型は今後も新たな技術革新(メタバース、6Gなど)の導入に伴ってその定義はさらに進化すると考えられる。その時はデジタルアーキテクチャの理想像も上の図から大きく変わるだろう。

 次回は、アンケート調査から、中国企業の数字化転型推進動向を紹介したい。

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