ITベンダーから有利な契約条件を引き出す「魔法の質問」CIO Dive

SaaSの値上げなどが話題に上がることも多い昨今、ITベンダーとの契約交渉を有利に進めるためのポイントは何だろうか。価格高騰に対抗するための4つの戦略をGartnerのアナリストが提案した。

» 2022年11月22日 07時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 ITベンダーとの契約交渉は、IT調達サイクルの中に組み込まれている。企業はERPやCRM、クラウド、「as a Service」のデータ、セキュリティ、BI機能などの契約を定期的に更新し、ほとんどの場合は何事もなく業務を継続している。

 しかし市場が変化して経済的な要因が介在すると、こうした状況は一変する可能性がある。

 Gartnerの分析によると、IT予算は平均5%強増加するとされているが、インフレ率も上昇傾向にあり、支出1ドル当たりの実質的な価値が削られている。同社は、2023年のインフレ率を平均6.5%になると予測している。これは労働統計局が発表した9月までの12カ月間の8.2%よりは良い数字だ(注)。しかし、テクノロジー予算を削減するにはまだ十分な水準であり、1%の下落でも吸収するのは困難である。

 CIO(最高情報責任者)が予算削減の準備を進め、ITベンダーが収益性の維持に努めるこのような状況では、誰かが譲歩しなければならないだろう。

 Gartnerの特任バイスプレジデント・アナリストであるジョアン・ローゼンバーガー氏は「値上げをなくすことは難しく、値下げ交渉が次善の策になることが多い」と述べている。

 ローゼンバーガー氏は、2022年10月18日のGartner IT Symposium/Xpoで、IT調達チームとCIOにとって重要なのは「レバレッジを効かせることだ」と話し、ITベンダー製品やサービスの価格高騰に対抗するための4つのステップを提示した。

ステップ1.適切な質問をする

 最初のステップはITベンダーとの契約書に「更新時の値上げ上限」があるかどうかを確認することだ。ない場合は契約更新の際に上限を設定するようにメモしておき、SaaSや導入、サポート、トレーニングなどの費用を区分けした明細書を要求する。

 次にITベンダーの製品の1つまたは複数を永久ライセンスで使用している場合、サポート費用を支払う必要があるかどうかを確認する。ローゼンバーガー氏は、「企業によっては、サポートなしで何年も永久ライセンスで運用できるところもある」と話す。

 場合によっては、導入やトレーニングなど1つまたは複数のベンダーのサービスをサードパーティーにアウトソースすることが可能かもしれない。これはコスト削減の可能性があり交渉で優位に立つための手段でもある。

 最後に、製品やサービスの定価と正規価格の情報を提供するようベンダーに依頼し、値上げの公式発表を求め、新料金がITベンダーの全顧客に全面的に適用されることを確認する。「ITベンダーはこのような要求に慣れているので、遠慮する必要はない」(ローゼンバーガー氏)

ステップ2.交渉戦略を「ITベンダー化」せよ

 逆提案を作成する前にはITベンダーのことをある程度調査しておく必要がある。

 例えば四半期ごとの決算報告書を見て財務内容を確認するなどだ。財務内容が健全なITベンダーは、収益が低いITベンダーよりも譲歩しやすい立場にある。ローゼンバーガー氏は「ITベンダーと対立するような状況にはしたくないが、自分自身を有利な立場には置きたい」と述べる。

 そのためにはITベンダーの営業チームが新製品の販売とサポートの更新に対してどのような報酬を得ているかを調べてみることをローゼンバーガー氏は推奨する。

 一般的に、サポート更新のコミッションは新製品よりも低く、コミッションの観点からすると新規販売の方が高いインセンティブが得られるとローゼンバーガー氏は指摘する。これはITベンダーが既存製品の更新よりも割引率の高い新製品を提供している場合に有利だ。

ステップ3.案件ごとにコストモデルを作成する

 自社に有利な点を見つけたら、それを首尾一貫した逆提案としてまとめ上げる。

 交渉力を高めるためには、サードパーティーベンダーや競合他社から見積もりを取ることも重要だ。経済指標と労働統計局のデータを使用して人件費や原材料の実際のコスト上昇を把握する。これによってどのサービスが必要で、どのサービスは契約から切り離してもよいかを判断できる。

 ローゼンバーガー氏は「ユーザー企業が下調べに十分な時間をかけているのを見たことがない。基本的にはIT部門や資産管理、ITベンダー管理、経営者などの主要なステークホルダーがITベンダーの製品をどのように使用しているかを報告することが必要だ」と述べている。

ステップ4.プランの実行

 プロセスの最終段階はカウンターオファーの提示だ。

 これはタイミングが重要で、ITベンダーの会計年度末や四半期末に関連するカウンターオファーを提示することは、営業チームにとって取引を成立させ、帳簿に載せるというプレッシャーになることが多い。

 ITベンダーとの契約交渉を調達チームに任せている企業にとって、この段階でCIOやCFO(最高財務責任者)を巻き込んでおくと有利に働く。

 ローゼンバーガー氏は「経営陣の力を利用するのは常に効果的だ」と述べ、特に一定のレバレッジポイントに言及している。「CIOを巻き込んで、CIOかCFOのどちらかが、世界中の顧客に対して値上げを実施するという声明を文書で要求していることをITベンダーに伝えるといい」(同氏)

 厳しい経済情勢の中、交渉が難航した場合には、半ば強引にITベンダーと折り合いを付けることも、ときには必要だ。しかし、厳しい交渉のために時間を投資することは、それに見合う価値がある。

 「求めなければ得られない」とローゼンバーガー氏は言う。

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