AWSとGoogle、Microsoftはそれぞれが共存しながら運用できるクラウドを目指している。しかしKyndrylのようなMSPなくしてその設計は実現できない。
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ITインフラサービスを展開するKyndrylは、親会社のIBMのスピンオフ企業として設立されてからたった1年で、Amazon Web Services(以下、AWS)、Google、Microsoftという3大クラウドサービス事業者全てと戦略的パートナーシップを締結した。
2022年10月下旬には、ハイブリッドクラウドのMSP(Managed Service Provider)としての役割を強化し、クラウドとオンプレミス双方のIT資産の統合管理する「Kyndryl Consult」を設立すると発表している(注1)。
KyndrylをはじめとするMSPの目的は何なのだろうか。
こうしたKyndrylの戦略的パートナーシップは単なる形式上のものではない。双方にとって利益につながる見込みがあり、互いに一定の収益を上げることを目的としている。
Kyndrylの役割は、ハイブリッドクラウドの導入に伴う特有の摩擦や不確実性を軽減し、導入に失敗したり、顧客にとって不具合が生じたりする可能性を下げることだ。
ハイブリッドクラウドが注目されている昨今、多くの企業がMSPとの提携を検討している。こうした企業では、複雑な環境でシステム同士を調整する必要があるだけでなく、サイロ化したアプリケーションやデータストリームを相互運用できるようにすることが求められている。だが、現在のハイパースケールのサービスだけでこれらの課題に対応するのは難しい問題だと言える。そこで重要なのがMSPの協力だ。
マーケティング会社Spiceworks Ziff Davisの年次調査によると、IT予算全体に占めるMSPへの支出は2022年が15%だったのに対し、2023年には18%に増加すると予測されている(注2)。
こうした傾向は、CSP(Cloud Solution Provider)とMSPの提携件数にも現れている。AWSは現在、北米だけでAccenture、IBM、Infosysを含む50のMSPと提携している。また、Googleが提携しているMSPは36社、Microsoftは70社近くにもなる。
Kyndrylのクラウド技術を統括するハリシュ・グラマ氏は、「クラウドサービスは非常に複雑でさまざまな情報を処理しなければならないため、導入時にうまくいかないケースもあります。だからこそ、こうした協力が不可欠です」と話す。
2021年のGartnerのレポートによれば、テクノロジー分野の意思決定者の3分の1近くが、過去3年間で「クラウドの導入に失敗した」と回答している(注3)。失敗の理由は、統合の問題やベンダーの選択ミスや不正確なコスト見積もり、予想外のコスト増など多岐にわたる。
2016年から2018年まで商業銀行JPMorgan Chaseでクラウドサービスのマネージングディレクター兼CIO(最高技術責任者)を務めたグラマ氏は、「クラウドサービスの導入に成功するためには、事前に確認することがある」と述べている。
それは、「銀行内の数千にも及ぶアプリケーションのうち、どれを休止し、どれを移行し、どれを作り直すか」をあらかじめ考えることだ。
グラマ氏は「これはアプリの移行に入るよりもずっと前に検討する必要がある。この工程を誤ると、実装段階に入ってからその誤差が大きくなる」と警鐘を鳴らす。
MSPが介入することで利益につながる企業は銀行だけではない。Gartnerの調査では、クラウドサービス購入者の3分の2近くが、「クラウドの導入と管理のためにMSPやそれ以外の業者と連携している」と回答している。
Gartnerのアナリストであるシッド・ナグ氏は、「MSPは計画や設計段階から実装、移行、そしてアプリの最適化やサポートに至るまで、多くの有益な専門知識を提供してくれるはずだ」と話す。多くの組織が抱えている技術的欠点やスキル不足を補完する存在になるのだ。
「MSPはパブリッククラウドとオンプレミスシステムを統合し、顧客に合わせたソリューションを提供する。一方、CSPはその会社独自のサービスを提供しているため、自社にマッチした提案を求めても対応してもらえない可能性が高い」とグラマ氏は述べた。
ナグ氏は「ハイパースケーラーは、顧客のクラウド導入を支援するためにKyndrylのようなMSPを頼りにしている」と話す。
「特にマルチクラウドの世界では、ハイパースケーラーとMSPのどちらを信頼して管理を任せるかが重要です」(ナグ氏)
企業によっては、マルチクラウドのエコシステムでセキュリティやデータ統合、自動化機能など、アプリケーションを管理するためのリソースを持っている場合もあるだろう。
Gartnerの調査によると、クラウドMSPの市場規模は2025年までに1000億ドルを超えると予測されている。これは、企業のシステム導入に当たり同時に2社以上のパブリッククラウド事業者が絡んでいる場合、クラウドとオンプレミスが共存する複雑な状況の管理に向け、Kyndrylのような企業に注目が集まるためだ(注4)。
「オンプレミスと複数のクラウドにまたがって複雑で大規模なシステムを保有している場合、クラウドは無数のメッセージをそれぞれ発信するため、企業はどれをどう解釈すればいいのか分からなくなるだろう」(グラマ氏)
ナグ氏によれば、ハイパースケーラーはエコシステムにおける運用を容易にするためのツールを構築している。一方で、パブリッククラウドとオンプレミスの統合に対応したサービスは提供していないため、メインフレームとクラウドの経験を持つMSPに任せるのが最適だ。
「クラウドサービス事業者はハードウェアやIaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)などのソリューションを持っている。しかし、世の中がパブリッククラウドに完全に移行するわけではない。こうしたソリューションだけで完結するのは難しい」(ナグ氏)
しばらくはクラウドとオンプレミスが併存するハイブリッドクラウドの状態が続くことが予想される。ハイパースケールがMSPと提携してクラウドの利用を促進することになるだろう。
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