サッカーワールドカップは"決済技術"の世界大会でもあるPayments Dive

FIFAワールドカップと提携したVisaは、今回のワールドカップが同社の決済技術を普及させる「絶好の機会」になると見ているようだ。非接触型決済端末や顔認証決済の導入でこれまでにない顧客体験を提供すると意気込んでいる。

» 2022年12月15日 08時00分 公開
[Tatiana Walk-MorrisPayments Dive]

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Payments Dive

 Visaは2022年11月17日(現地時間)、「FIFAワールドカップカタール2022」で使用される8つのスタジアムと「FIFAファン・フェスティバル」などの公式イベント会場で5300台の非接触型決済端末を導入すると発表した(注1)。FIFA公式の店舗だけでなく、カタール国内の中小店舗はVisaの「Tap to Phone」サービスを通じて非接触型決済を利用でき、FIFAワールドカップカタール2022の期間中はタクシーの支払いにも利用可能だ。

サッカーワールドカップへの思惑

  2022年のワールドカップは約100万人のサッカーファンがカタールに集まると予想されている。大会開催に当たってはさまざまな論争があるが、それでもVisaは同イベントを大きなマーケティングチャンスと捉えている(注2)。

 米サンフランシスコに本社を置くVisaは、FIFA公認のペイテック企業だ。同社はワールドカップに対して「新しい技術を発表してより多くの顧客に体験してもらい、忘れられない印象を残したい」と述べる。

 忘れられない印象を残すための取り組みの一つに、カタールで初めてとなる「顔認証技術を用いた決済手段」がある。この新たな支払い方法は、カタール国立銀行とカリフォルニア州パサデナを拠点に事業を拡大するPopIDとのコラボレーションにより実現たもので、Visaのトークン化技術が使われている。現地では3つのコーヒーショップで試すことができる(注3)。

 Visaのシニアバイスプレジデントを務めるサエダ・ジャファル氏は「VisaはFIFAのパートナーとして、世界中のサッカーファンに最高の支払い方法を提供する。また、Visaの『Masters of Movement』の会場ではアートやサッカー、テクノロジーの融合といった画期的かつ先進的なイノベーションを実現する。数千にも及ぶ非接触型決済端末があり、今大会はこれまでで最も多くの決済に対応した大会になる」と述べる。

 Visaは、今大会を通して暗号通貨取引所運営会社Crypto.comとのコラボレーションも継続している。カタールの首都ドーハで開催されるVisaは「FIFAファン・フェスティバル」で、参加者が作成したデジタルアートをCrypto.comと共同でNFTを付けて発行できるサービスを提供した。

 Visaは2021年3月に初めてCrypto.comと提携し、その後イーサリアムとUSDコインを使った暗号通貨取引決済のテストを実施していた(注4)。VisaがCrypto.comと関係を継続したのは、Crypto.comが他の取引所と同じように低迷している渦中の出来事だった。DecryptはJPMorgan Chaseのアナリストのデータを引用し、FTXの破綻後に投資家がCrypto.comや他の取引所から資金を持ち出していると報じている(注5)。

ワールドカップを好機と捉えているのはVisaだけではない

 他の決済企業もワールドカップへの参画を検討している。Coindeskによれば、VisaのライバルであるMastercardはブラジルサッカー連盟のパートナーであり(注6)、暗号資産取引所のBinanceはアルゼンチン代表チームのスポンサーだ(注7)。

 英国のFinTech企業Revolutは、1人の当選者にワールドカップを観戦できる旅行をプレゼントするキャンペーンを実施した(注8)。FIFAによれば、Visaのみならずホスピタリティパッケージを購入する際、必要であればアメリカン・エキスプレスカードも利用可能だ(注9)。

 世界中からの旅行者に備え、カタールはデジタル決済機能の強化に努めてきた。2022年8月にはGoogle Payを導入し、カタール中央銀行は初のデジタル決済ライセンスを発行した(注10)。

 また、カタールに拠点を置くFinTech企業のSpendwisorはFIFAワールドカップがもたらすチャンスに注目し、米シンシナティに拠点を置く超音波通信を使った認証技術を持つベンチャー企業LISNRと提携して非接触決済の認証を強化している(注11)。

 VisaがFIFAワールドカップと提携したのは、カード会社各社が個人消費や新しい決済フロー、付加価値サービスによる成長を視野に入れ始めているからだ。同社のアル・ケリーCEOも以前行われたアナリストとの電話会議で、四半期業績と2023年の見通しと共に同社がFIFAと正式に提携したと強調した(注12)。

 提携の成果はあったようだ。

 2022年10月に発表された第4四半期決算では、売上高は19%増の78億ドル、純利益は前年同期比10%増の39億ドル、通期だと売上高は22%増の293億ドル、純利益は21%増の150億ドルとなった。

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