いよいよアイデアを基に試作を行います。試作では「時間をかけない」「お金をかけない」「完璧を求めない」ことを意識します。ゴールが動き続けているような状況で手間暇かけて長いトンネルを掘り続ければ、「向こう側に出てはじめて大失敗に気付く」ということが起こる可能性もあります。
小さな成功と失敗を繰り返しながら前に進めば、顧客の期待値とのズレを小さくし、顧客の興味が離れないようにつなぎ留められます。変わりゆく顧客の興味に合わせて軌道修正することで、顧客自身が想像できなかった新たな価値を提供することもできるでしょう。
このような取り組み方は「Quick and Dirty」「Rapid Prototyping」「Lean Innovation」といった考え方にも表れています。試作の進め方はさまざまですが、例えば模造紙やダンボール、玩具のブロックや油粘土を使った工作、想像で操作説明書やチラシを作るという方法もあります。
Webサービスの開発でも、まずはプログラミングではなく模造紙で画面イメージを作り、即興の劇でユーザー体験を再現するというやり方があります。そこからモックアップを利用した人数限定のイベントや試作品を利用したβテストプログラム、クラウドファンディングと段階を踏めば、徐々に完成度を高めながら規模を拡大できます。
試作の目的は、次のプロセス「検証」でフィードバックをもらうことにあります。「これは試作品です」言えば、ストレートなフィードバックをもらっても傷つきにくく、正直な意見をもらいやすくなります。
プロセス5では試作したものを顧客に試してもらい、率直なフォードバックをもらいます。フィードバックがあれば前のプロセスに戻ったときに完成度をさらに高められます。
検証の方法はアンケートやヒアリングなどがありますが、漠然と聞くと答える側から意見を引き出しにくくなります。まとめやすい方法として、「良かった点」「改善できそうな点」「追加アイデア」「疑問・質問」という4象限を書いた「フィードバックシート」を大判模造紙で用意し、そこにコメント入りの付箋紙を貼ってもらうものがあります。
検証で重要視すべきことは自分のアイデアの売り込みではなく、フィードバックをもらいそれを基に改善することです。売り込みが強くなると良質なフィードバックを得にくくなります。
フィードバックは「贈り物」です。
フィードバックをする側は贈り物を贈るような気持ちで臨みましょう。相手を傷つけたり嫌な気持ちにさせたりして「投げっぱなし」にならないように、言いにくいフォードバックであってもポジティブな言い方にするよう留意が必要です。
受け手側も、耳の痛いフィードバックは嫌な気持ちになりますが、それにより「改善のヒントをもらえる」と前向きに受け止めましょう。
ここまで5つのプロセスを紹介しました。
デザイン思考には他にもさまざまなバリエーションがあり、例えば英デザイン協議会の「Double Diamond」やGV(Google Ventures)の「Design Sprint」などもよく知られています(図2)。
Double Diamondはデザイン思考の手順を4つのステップで定義し、2つのひし形を並べたような図形で表現しています。一方、Design Sprintは手順を6つのステップで定義し、ひし形を3つ並べたようにして表現しています。
これらはいずれも発散と収束のプロセスを1組のひし形にしています。これらから読み取れるように、デザイン思考は「発散と収束」の繰り返しであり、「共感と試行錯誤」が重要な考え方であると分かります。
本稿はデザイン思考で議論を進めるときのプロセスとその勘所を解説しました。これらのプロセスを最初から最後まで実行するのは大変で、読者の中には「自分には関係ない」と感じた方もいたかもしれません。しかし、各プロセスの議論の方法には「議論過程での納得感の醸成」や「自分事化」につながるさまざまなノウハウが詰まっています。
そこで第3回は「問題を可視化し共有する方法」「ブレインストーミングの方法」など、日々の業務に簡単に取り入れて役立てられる幾つかの方法を紹介します。
注1:ブレインストーミングについて優れた解説が日本産業規格(JIS)の「JISQ31010」(リスクマネジメント−リスクアセスメント技法)に収録されています。ご興味ある方はぜひご一読ください。
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