シリコンバレーバンクの危機で分かったペイメント系スタートアップの明暗Payments Dive

スタートアップが頼りにしていた金融機関の破たんはペイメント系スタートアップ企業の経営にも大きな影を落とした。一方でこれを商機と見る企業もある。

» 2023年04月04日 08時00分 公開
[Lynne Marek, Caitlin MullenPayments Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 シリコンバレーバンク(以下、SVB)の経営破たんがペイメント系スタートアップ企業の資金繰りを苦しめている。資金の引き上げが相次ぐ中、これをビジネスチャンスととらえる企業もある。

巻き込まれた金融機関、救済した銀行の不運

 金融サービスを提供するBairdのエクイティリサーチは、大手の決済処理業者であるフィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービシズ(以下、FIS)について、シグネチャーバンクとファーストリパブリックバンクの2行から年間2000万〜2500万ドルの融資を受けていることから「拡大する銀行危機の影響を受ける可能性がある」としている。

 2023年3月14日(現地時間、以下同)、シグネチャーバンクはニューヨークの規制当局によって閉鎖された。ファーストリパブリックバンクの株価は連邦規制当局が2023年3月10日にSVBを買収した後の13日に急落している(注1)(注2)。

 決済業事業者のパイオニアグローバル、ビルホールディングスもSVBに預金していたことを公表した。連邦政府は2023年3月第2週の週末に、一般的な連邦預金保険公社の25万ドル分の保護枠を超えて預金者を保護すると発表した。

 他の決済企業もこうした一連の騒動に反応した。経費管理会社のBrexは影響を受けた企業への融資を提案し、デジタル決済会社のStripeは「SVBへの直接的なエクスポージャーはないが(注3)、顧客の資金アクセスを保護するために同銀行の口座への支払いを一時停止している」と述べた。

SVBの破綻がFinTech系事業者に与える影響

 Bairdのアナリストは、「FISに対する影響に加え、決済処理業者の競合であるFiservもSVBのエクスポージャー(リスク資産)は減少するだろう」と予想している。両社とも銀行に決済処理と技術サービスを提供している。

 FISにとって、銀行危機の広がりは年間収益に合計5000万ドルの影響を与える可能性があるが、「それでもFIS全体の収益の1%未満である」と、Bairdのアナリストは2023年3月13日に顧客向けリサーチノートで述べている。同社はまた、FISが特定の顧客に大きく依存しているわけではないことを指摘し、懸念を払拭(ふっしょく)するよう努めた。

 「われわれは、FISがその顧客基盤の中で十分に収益を分散していると考えている」と、Bairdのアナリストはメモの中で述べている。FISはPayments Dive編集部のコメントの要請に応じなかった。

 Bairdのアナリストは、FiservのSVBの状況に対するエクスポージャーは限定的で、年間売上高の1500万〜2000万ドル程度になるだろうと話す。さらに2023年3月10日の顧客向けメモで「求人情報によればFiservはSVBにコア処理を提供しているようだ」とも述べている。Fiservも同様に、コメントを求めたが応じなかった。

 SVBと直接取引している企業にはPayoneerとBill Holdingsがあるが、両社ともその影響を軽く捉えていた。SVBは、多くのベンチャー企業やその投資先企業にサービスを提供していた。

 現在上場しているPayoneerは、2016年の1億8000万ドルを含め(注4)、過去にベンチャー企業から多額の資金を調達している。「2022年12月31日現在の当社の総現金残高約64億ドルのうち、SVBに預けているのは2000万ドル未満だ」と同社は2023年3月10日に規制当局へ提出した書類の中で述べている(注5)。また、「現金残高の大部分は、グローバルなシステムを持つ10以上の大手銀行で保有している」とも主張している。

取り付け騒ぎの裏で融資先を大急ぎで拡大する企業、規制強化の動きも

 ビルホールディングスは2023年3月10日のプレスリリースで「ここ数日で銀行から資金を持ち出した」と述べた(注6)。同社もSVBに資金があることを認めたが、「当社のキャッシュと処理された支払いの大部分は、多数の大手多国籍金融機関にある」と述べている。また、「SVBを通じて行われる支払いを、多国籍銀行の処理機関の1つに移動した」とし、顧客の支払い処理にSVBを利用することはなくなったという。

 大手カードネットワーク会社は銀行と密接な関係にあるが、ベアードは銀行の信用リスクがVisaやMastercardに移行することは考えにくいと予想した。「その可能性はあるが、銀行が買収され、新しい銀行が信用リスクを負うことになるため、遠い未来の話だ」と、同社は2023年3月12日の投資家向けメモで述べている。

 決済監視ソフトウェア会社レッジのCEOであるタール・カーシェンバウム氏は、SVBがテック業界の金融基盤と見なされていることに触れつつ、この状況がFinTechに与える影響について説明した。

 「本業をSVBに依存し、SVBの決済レールを使って資金を移動させ、その上に事業を構築しているFinTech企業は、その運営能力に大きな制限がかかるかもしれない。これはエコシステム全体に波及し、給与計算ベンダー、買掛金や売掛金の自動化、運転資金ソリューション、健康保険ベンダーといったミッションクリティカルなサービスに影響を与えるだろう」と同氏はPayments Dive編集部宛の電子メールで述べている。

 このような銀行危機がどのように広がっていくかを示すために、カーシェンバウム氏は、「企業はこれらの課題に対処し、リスクへのエクスポージャーを最小限に抑えるために、迅速に行動することが重要である」とも警告を発している。

 一方、この危機をある種のチャンスとして捉えている決済企業もある。Brexは、給与や事業資金を必要とするFinTechの新興企業に対し、緊急融資を行うと発表した。同社は、2023年3月第3週中に資金を調達できるよう、第三者の資本提供者と協力し、新興企業が資金を要求できるようなシステムを提供すると述べた(注7)。

 「できるだけ早く口座を確認し、承認が得られ次第、顧客の口座に緊急資金を融資する」と、同社は2023年3月10日のプレスリリースで述べている(注8)。

 金融エコシステムの決済企業を代表するElectronic Transactions Association(ETA)は、連邦規制当局によるシステム強化の動きを支持した。同協会の広報担当者は、「銀行システムが弾力的かつ安全であることは極めて重要である。連邦および州の銀行規制当局による2023年3月第2週の週末の対応は、この2点を満たすために適切なものだった」と述べた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ