「ラクをするのは後ろめたい」? 業務自動化を阻む日本の仕事観とは変わりつつある業務自動化(1/2 ページ)

業務自動化はこれまでコストカットや業務効率化を主な目的として導入されてきた。しかし、多くの企業がデータ活用に取り組み、ビジネスでの活用を模索する中で業務自動化の役割も変わりつつある。業務自動化になぜ取り組むべきなのか。また、今後押さえるべき業務自動化のポイントは。ITRのアナリストの舘野氏が解説する。

» 2023年04月07日 14時00分 公開
[田中広美ITmedia]

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)取り組む企業が増え、さまざまな領域でデジタル化やソリューションの導入が進んでいる。

「ラクをするのは後ろめたい」という日本の仕事観

 その中でも業務自動化を重要課題として取り組む企業は多い。アイ・ティー・アール(以下、ITR)が2022年3月に実施した調査「業務自動化に関する動向調査」によると、DXテーマの中で業務自動化を最重要課題と認識している企業は多い。

図表1 DXテーマの重視度(出典:ITR「業務自動化に関する動向調査」2022年3月調査) 図表1 DXテーマの重視度(出典:ITR「業務自動化に関する動向調査」2022年3月調査)

 ただし、一口に業務自動化と言っても対象となる業務内容やソリューションの種類はさまざまだ。また、企業におけるDXの進展や企業が抱える課題の変化によって業務自動化に期待される役割も変わりつつある。このように移り変わりゆく業務自動化について、「なぜ導入すべきか」「今押さえるべきポイントは何か」をITRの舘野真人氏(シニア・アナリスト)に聞いた(以下、特に断りのない会話文は舘野氏の発言)。

評価されるのは「個人の頑張り」

ITRの舘野真人氏 ITRの舘野真人氏

 まず、現在の日本企業の業務自動化における特徴とは何か。上記のように、DXに取り組む企業の中では業務自動化は重要課題と見なされている一方で、企業全体を見ると、「業務自動化は知っているが、取り入れていない」という企業も依然として多い。

 業務自動化に取り組まない原因として「日本にはラクをすることに対する後ろめたさのようなものを感じる仕事観がある」と、舘野氏は語る。ITを活用している海外の先進的な企業が業務効率を向上させる「仕組み化」を進めるのに対して、「日本企業の多くは個人の頑張りを評価するという仕事観があるからだ」

 もう一つの原因として日本企業のプロセスに対するこだわりを挙げる。「プロセスを重んじるため、企業ごとに異なるやり方で仕事を進める。そのため、海外の自動化ソリューションをそのまま入れても業務を自動化できないケースが多い」

 一方で、こうした日本の仕事観がITツールの選定に影響する場面もあるという。「先ほども指摘したように日本企業にはプロセスを重んじる面が強い。(他の自動化ツールに比べて)RPA(Robotic Process Automation)がもてはやされるのは、事業部門が従来のプロセスに沿って設計できるからではないか」

 そもそも、なぜ業務自動化に取り組む必要があるのだろうか。「顧客に確実に『価値』を届けるためには、ビジネスプロセスの改革が必要だからだ」と舘野氏は強調する。「重要なのは自動化への取り組み自体ではない。ビジネス相手に価値を届けるような自動化をするという意識だ」

業務自動化に対する経営者、エグゼクティブの関心は高い

 ここからは現在の日本企業における業務自動化の取り組み状況について調査を基に見てみよう。

 ITRの「業務自動化に関する動向調査」によると、業務自動化に取り組むきっかけは経営者からの指示が多い(特に人事/給与は54%と過半数が経営者からの指示によるものだ)。事業部長からの指示はIT/エンジニアリングで多い。業務改善(DX)チームや現場からの提案、要望は15〜22%とさほど多くない。つまり、「上」からの指示によって業務自動化に取り組む企業が多いようだ。

図表2 自動化に取り組むきっかけ(出典:ITR「業務自動化に関する動向調査」2022年3月調査) 図表2 自動化に取り組むきっかけ(出典:ITR「業務自動化に関する動向調査」2022年3月調査)

 こうした現状について舘野氏は「業務自動化はDX部門、IT部門に任せきりにして、事業部門にとっては『ひとごと』になってしまう企業も多い。特に大企業はその傾向がある。自動化を統括する担当部署や自動化に特化したチーム、あるいは全体像を把握する人が必要だ」と指摘する。

 大企業に比べて比較的業務自動化に取り組むスピードの遅い中小企業については、「現場中心で進めるのが重要だ」とアドバイスを送る。

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