eコマースが直面する3つの課題 “破産”と“生き残り”の分岐点は?Retail Dive

eコマースに主軸を置く企業は、小売業界を“破壊”する存在になるはずだった。しかし、コロナ禍の影響が収まりつつある中で破産する企業も出ている。eコマースが直面する3つの課題と、生き残れるか否かを分ける分岐点とは。

» 2023年04月13日 08時00分 公開
[Caroline JansenRetail Dive]

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Retail Dive

 小売業を救うはずだったeコマース(電子商取引)の寵児(ちょうじ)が、破産申請のために法廷に立たされるかもしれない。

eコマースが直面する3つの課題

 金融サービスを提供するS&P Global Market Intelligenceの2023年2月時点でのデータと分析によると、インターネットおよびダイレクトマーケティングの小売業は、企業目標の発表などのマーケットシグナルを出した後の1年間にデフォルトに陥る確率(中央値)が8.1%と、全セクターで最も高かった。

 他のセクターには家庭用品小売やアパレル・アクセサリー・高級品、百貨店、家庭用電化製品などが含まれる。

 2023年1月、コスメブランドのMorpheやBad Habit、Jaclyn Cosmetics、Playa Beautyの親会社Forma Brandsは連邦破産法11条の適用を申請した(注1)。

 インターネットおよびダイレクトマーケティングの小売業者全てがForma Brandsのように倒産するかどうかはさておき、経済的圧力を受ける中でコストを削減するために店舗の閉鎖や従業員の解雇を迫られる企業もある。

 「インターネットに主軸を置くビジネスモデルは、小売り業の在り方を変革するはずだった。実際に彼らは長い間、破壊者だった。しかし、サプライチェーンにおけるコスト上昇といったインフレに加えて、実店舗を持たずに全ての商品を配送するスタイルであるために、数年にわたってサプライチェーンの混乱によって厳しい状況になった」と、財務分析会社RapidRatingsのジェームズ・ゲラートCEOは指摘する。

 小売業者は大規模なサプライチェーンの混乱などの課題に直面しており、消費者はインフレやその他の経済的圧力の中で必需品以外の買い物を控えている。ただし、多くのeコマースが直面している課題は、パンデミック以前に発生していた。

1.他社との差別化が難しい

 家具や家庭用品を扱うWayfairは、幅広い消費者層を取り込むために、さまざまな商品を販売している。問題は、主に家具を扱うOverstockもWayfairと同じような戦略を採っているということだ。同じことがAmazonやTarget、Walmart、それ以外の大手小売業者の大部分にいえる。

 多くのブランドを取り扱うものの、差別化された商品を提供しない小売業者は、顧客に最も「お得な商品」を提供すること、つまり価格で競い合うことになる。こうした企業の中でも、特にオンライン中心の企業は顧客の獲得と維持の両面で課題を抱えている。

 「多様な商品を提供する小売モデルは、消費者が一つのブランドを好むといった偏りがない点が強みだ。一方で、そうした店で買い物する消費者はブランドに対するロイヤリティー(忠誠心)を持たない」(ゲラート氏)

2.顧客維持、収益性改善のための投資が難しい

 インターネットという無限の空白地帯での競争は激化している。消費者を引き付けようとすると、顧客獲得コストは即座に膨れ上がる。時には収益性が犠牲になってしまう。

 Salesforceが市場調査会社のIpsosとデジタルコンサルティング会社Publicis Sapientに委託して2022年に実施した調査によると、純粋なeコマース小売業者は店舗を持つ小売業者に比べて、「採算が取れていない」と報告する傾向が2倍も高い(注2)。純粋なeコマース小売企業が「収益性を改善するために必要な投資を行うのに苦労している」と報告する可能性も2倍近い。

 ゲラート氏は「リピートしてくれる顧客層を特定し、適正なコストで獲得、維持することが課題だ」と指摘する。eコマース小売企業は、消費者を獲得するために多くの費用を費やさなければならない。しかし、本当に独自性のある製品でない限り、顧客を維持することは非常に困難だと同氏は言う。

3.迅速な無料配送という期待に応えることが難しい

 そのため、eコマース企業の中には、実店舗をオープンしてオフライン販売に切り替えるところもある。実店舗は、顧客獲得に役立つ新たなマーケティングチャネルとして機能し、競争が激化する中でブランドを多様化できる。スニーカーブランドのAllbirds、眼鏡ブランドのWarby Parker、マットレスブランドのCasper、そして家具や家庭用品などを販売するWayfairや高級品のリセール(二次販売)を手掛けるThe RealRealでさえも実店舗を持つようになった。

 実店舗は、商品の受注から配送までにかかるスピードを向上させるための助けにもなる。

 AmazonやTargetのような企業は、迅速な配送や店舗での受け取りオプションなど、オンライン注文への迅速な対応を常態化している。これらの企業のようなリソースを利用できない小規模業者にとって、迅速なフルフィルメントを無料で提供してほしいという消費者の期待は大きなプレッシャーだ。

 「全てのブランドはこの問題に直面しているだろう。在庫を備蓄するためのバランスシートや、人々が足を運んで在庫を購入できる実店舗を持たないブランドは特にそうだ」(ゲラート氏)

 eコマース企業が既存の問題に対処し、生産コストの上昇や個人消費の低迷、競争の激化といった新たな課題に直面する中、資金があるかどうかが生き残る企業と衰退する企業の分かれ目になるだろう。

 ゲラート氏は「この難局を乗り切るための資金調達能力や流動性を持つのはどの企業か。資金調達できる企業は生き残るだろう。資金調達が難しい企業やその手段を持たない企業、あるいは金利の上昇につれて資本に多額の費用を支払うことになる企業は、破綻するか、買収されるか、もしくはビジネスの本質を変えるような大きな出来事が起こるだろう」と警鐘を鳴らす。

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