「ERPかサイバーセキュリティか」 深刻なインフレの中、企業の優先順位は?CIO Dive

全米が深刻なインフレに見舞われる中、ERPの導入が一部の企業で一時停止になったり延期されたりしている。果たして今はERPのモダナイゼーションを行う時期なのかどうか。あるいは、限られた予算はサイバーセキュリティに振るべきなのか。

» 2023年04月21日 08時00分 公開
[Jen A. MillerCIO Dive]
CIO Dive

 インフレが深刻な問題となっている現在、ほとんどの企業はできる限り予算を削減しようとしている。その中には、ERP(基幹系情報システム)のモダナイゼーションにかかる予算も含まれる。

ERPプロジェクトか、サイバーセキュリティか

 調査会社Forrester Research(以下、Forrester)の最新データによると、テクノロジープロバイダーは2023年も成長を予測している。これは企業が2022年と比較して多額のエンタープライズIT投資を計画していることを示す(注1)。

 ただし、投資の伸びは足踏みしている。金利引き上げやGDP(国内総生産)の低成長、高インフレ、エネルギーコスト増大の影響によって、2022年の7.4%から2023年は5.4%に下落すると同社は予測している。

 ERPのメンテナンスはコストが高く、多くの場合、破壊的なプロジェクトだ。ITリーダーはERPをモダナイズするというプロジェクトに今取り組むか、それとも延期するかのリスクとリターンを検討しつつタイミングを見計らっている。

 Forresterのシニアアナリストであるアクシャーラー・ネーク・ローペズ氏は「企業は大規模なERPやDX(デジタルトランスフォーメーション)のプロジェクトに着手するも、結局は遅延によって支出が増加するというリスクを避けたいのだろう」と述べている。しかし、進行中のERPプロジェクトは、以前よりも厳しい精査と分析が実施されている。

ERPプロジェクトが順調に進まない理由は?

 ネーク・ローペズ氏によると、ほとんどの企業は逆風にもかかわらず、ERP導入のプロジェクトを進めている。

 「彼らはERPをミッションクリティカルなアプリケーションとして捉えている」と同氏は話す。また、これらの企業は既に進行中、もしくは既に計画されているERPプロジェクトを中止すると、後日、より多くの費用が発生する可能性が高いことを認識している。

 このような大きな負担は、次のような理由から生じる可能性がある。

  • 中止や導入にかかる費用
  • 会社のニーズに合わない古いERPに依存することによる機会損失
  • クラウドであればより安くより効率的に利用できるにもかかわらず、オンプレミスサービスにコストをかけている

 しかし、こうした企業はまだ「ERPのモダナイゼーションに対して慎重なアプローチを取っている」と、ネーク・ローペズ氏は続ける。

 「企業はそのコストを“正当化”するために、ITベンダーとの契約を精査し、結果が出ているかどうかを確認している」(ネーク・ローペズ氏)

 この傾向は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行時のように、企業が業務の再構築に奔走して資金を投じる傾向が強かった時期から変化していることを示している。

 「現在、企業は重要な業務に対し優先順位を付けている」とネーク・ローペズ氏は話す。

予算配分の優先順位をどう付けるべきか

 経済情勢が不安定な中、どこの企業も全速力で前進しているというわけではない。

 ERPソフトウェアのソリューションプロバイダーであるVAIのCIO(最高情報責任者)を務めるケビン・ビーズリー氏によると、通常18カ月ごとのアップグレードサイクルで対応していた企業の中には、そのサイクルを24カ月や36カ月に伸ばしているところもある。

 また、「セキュリティ要件の追加によって、企業は危機を感じている」と同氏は付け加えた。特に2023年3月2日に米バイデン政権が発表した「国家サイバーセキュリティ戦略」を考慮すると、ERPのモダナイゼーション費用をサイバーセキュリティに割り振る必要があるかもしれない。「国家サイバーセキュリティ戦略」は、サイバーセキュリティの負担を消費者からテクノロジープロバイダーに転換するものだ(注2)。

 食品製造や製薬など規制が厳しい分野ではサイバーセキュリティの要件が厳しいため、この大統領令が与える影響は少ないだろう。

プロジェクトの円滑な進行に備えてCIOがやるべきこと

 どんなに説得力のあるCIOでも、ERPのモダナイゼーションにかかるコストについて、会社の経営陣を説得できないかもしれない。しかし、だからといってCIOは何もしないでよいわけではない。

 「モダナイゼーションプログラムを開始するための資金がないという状況に陥ったとしても、発見、分析や計画の領域でできることはたくさんある」とネーク・ローペズ氏は述べる。

 やるべきことを進めておけば、プロジェクトにゴーサインが出た後、CIOは準備を整えた状態で先手を打つことができる。

 また、経営幹部は新しいソフトウェアのどこに効率性を見いだすかを探り、AI(人工知能)などの技術がERPのコストをどれほど削減できるかを判断した上で、資金調達のチャンスを強化することもできる。

 「CIOは下調べして予算を算出しなければならない。誰もが自分が管轄する部門のためにその予算の一部を争い、会社全体にとって何がベストかを検討することになるだろう」(ビーズリー氏)

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