Dynamics 365とPowerPlatform、最新リリースでAIはどこまで使えるようになったか(MicrosoftのAI編)DX 365 Life(5)(2/2 ページ)

» 2023年04月27日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]
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Microsoftのビジネスアプリケーションに関する最重要イベント

 ここから先日開催された「Microsoft Business Application Launch Event」を振り返ります。

図11 オープニングキーノートに登壇したチャールズ・ラマナ氏

 オープニングキーノートに登壇したチャールズ・ラマナ氏(ビジネスアプリケーション部門 VP)は講演の冒頭で「長い間、業務オペレーションに大きな変化は起きませんでしたが、現在はAIの活用でビジネスアプリケーションを再構築するステージに来ています。今後40年間のユーザーエクスペリエンスは過去40年間のものとは一線を画すでしょう」と話しました。

図12 (出典:同イベントセッションの資料を基に筆者作成)

 ある調査によれば、10人のうち9人が「自動化やAIが業務効率を改善する」と回答しているようです。Copilotを活用すれば、少ない労力でより多くのことを達成できる可能性が高まります。

 「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)においては、CRM領域の「Microsoft Viva Sales」に注目です。「Microsoft Outlook」と統合して商談状況の連携が可能なことに加え、驚くべきは「シナリオ別の自動メール作成・返信」機能です。CRMのデータ登録作業は正確性を求められることから時間を要しますが、この機能があれば時間を節約し他のタスクに取り組めます。さらに顧客への提案活動までフォローします。CRMの導入がうまくいかず結果に頭を抱えている企業には朗報でしょう。

図13 見積もりの自動作成(出典:同セッションのスクリーンショット)

 図13の右上に「Reply to an Inquiry」「Offer a discount」「Make a proposal」「Address a concern」「Suggest your own」といった選択肢があります。値引きに関するディスカッションもDynamics 365の価格テーブルを参照し文章を生成できるでしょうし、営業担当者や管理する立場の方に有益です。送信メールも提案を受けて必要なところを手直しすればよく、業務効率向上につながります。

図14 返答の自動生成(出典:同セッションのスクリーンショット)
図15 Dynamics 365との連携(出典:同セッションのスクリーンショット)

 Dynamics 365 側に更新したメールを反映させます(このアクションは不要なので自動化してもらいたい)。

図16 販売パッケージの自動生成(出典:同セッションのスクリーンショット)

 ミーティング内容も要約してDynamics 365 側の取引先・品目情報にリンクします。これに加え、リリースが予定されている「Microsoft Teams Premium」で「議事録作成」「会議メモ要約」「会議録画チャプター分割」ができれば、ユーザーは顧客との商談に専念でき、営業担当者の働き方を大きく変えられます。

 更に「Microsoft Dynamics 365 Marketing」(ターゲットマーケティングや著作権管理のアシスタントなど)や「Dynamics 365 Customer Service」(反復的なサポートや複雑なサポートのアシスタントなど)においてもCopilotが活躍します。

図17 Copilotはさまざまな場面で利用できる(出典:同セッションのスクリーンショット)

クラウドERPやサプライチェーン管理で使われるAI

 ここでERP領域における2つのCopilot事例を紹介します。まずは中小企業向けERPの「Microsoft Dynamics 365 Business Central」です。通信販売用のWebサイトを容易に構築する仕組みとして「Shopify」との連携機能を備えています。企業は自社製品の品目名やブランディング用のキャッチフレーズなどは持っていますが、他社から購入したものに関してはそうはいきません。中古品などを販売する場合、その特徴などを独自にまとめてWebサイトに公開する作業は手間がかかります。Microsoft Dynamics 365 Business Centralの場合は、商品の品目マスターデータを自動で取得でき、AIを活用して生成した商品説明の詳細をShopifyに自動連携することができます。

図18 商品説明文の生成(「YouTube」のスクリーンショットを基に筆者作成)

 AIが作成したテキストを手直しする作業は発生しますが、従来の業務工数を圧倒的に改善します。ここにOpenAIの「DALL・E」が使われているのかもしれません。

 2つ目は「Microsoft Supply Chain Center」です。サプライチェーン管理を担うサービスですが、受給動向に突発的な変化が発生するような緊急時の対策のためにAIツールが備わっています。キーワードを事前に定義する必要がありますが、仮に「洪水でトマトの収穫に影響が出そうだ」ということを事前に把握できれば、供給元とのコミュニケーションを迅速に開始できます。

図19 サプライチェーンに影響があると考えられる情報のアラートが出る(YouTube映像から抜粋)

 調達先から商品供給が難しい場合は、AIが即代替案を検討するといったガイドを行います。

図20 影響範囲を自動的に把握して代替案を提示(YouTube映像から抜粋)

 メールも自動的に提案するため、担当者はそれを送信し先方からのフィードバックを待ちます。

図21 関係者への連絡メール文面を自動生成(YouTube映像から抜粋)

 イベントでは、2022年度に発表された「Microsoft Digital Contact Center Platform」にも補足がありました。このソリューションは、Dynamics 365、「Microsoft Power Platform」「NUANCE」、Teams、Azureを統合し、「1対複数」の予見的かつスマートなコンタクトセンターサービスを実現し、オペレーターと顧客の双方にストレスが生じないコミュニケーションを支援します。

図22 Microsoft Digital Contact Center Platform(出典:同セッションのスクリーンショット)

 「Power Virtual Agents」はテキストまたは音声ベースのチャットbotをスピーディーに作成するローコードソリューションです。ChatGPTと「GPT-3.5」を組み込めるため、Power Virtual Agentsを活用したAI機能の可能性が広がりました。

 Power Virtual Agentsは生成AIを使ったチャットbotの作成を容易にしました。問い合わせ対応の手引書やサポートWebサイト、独自のナレッジベースなど、企業固有の情報ソースを学習させるだけで、botは企業独自の回答を生成できます。イベントのデモンストレーションではMicrosoftのWebサイトを利用しました。

 botは事前定義したトリガーでトピックの参照やチェックを実行しますが、利用可能な回答が見つからない場合は新たな探索を開始し、Webサイトの異なる複数ページから関連するコンテンツを識別し、さまざまなデータソースから正しいと推定される回答を探します。

図23 ECサイト右がPower Virtual Agentsで作成したチャット画面(出典:同セッションのスクリーンショット)
図24 Power Virtual Agentsの設定例(出典:同セッションのスクリーンショット)

 GPTはWebサイトからコンテンツを収集した上で、分かりやすく正確な回答を実現します。botに1つのWebサイトのアドレスを提供しただけで以下の図25のようなことができます。

図25 (セッションのスクリーンショット)

 GTPの活用でbot開発のスピードを圧倒的に改善し、即座に回答する仕組みも簡単に作成できます。また、特定のユースケースに対しては、手動で設定したトピックとGTPが持つ膨大な知識を組み合わせて対応すれば、特定の顧客や従業員のニーズを満たすようにbotの能力を拡張できます。顧客対応のエスカレーション率を削減できるため、結果的に大幅なコスト削減やユーザーエクスペリエンスの向上につながります。

 CRMやERPなど、情報系、業務系システムの開発はローコード開発ツールの登場で大きな進化を遂げましたが、それでも実際の業務とシステム間のギャップを埋めるにすぎません。一方、GPTの登場は時間を要する人材育成や導入時の個別カスタマイズへの保守、複雑なFAQなどにおいて大幅な時間やコスト削減の可能性を高めます。

 イベントの最後、ラマナ氏は以下のように話しました。

 「現在、ビジネスにおけるタスクやプロセス処理は多くの人間が担っています。しかし、将来的には人間がAIと共創する世界になっていくでしょう。昨今のITの進化を考えれば、その未来はわずか2〜3年先かもしれません。MicrosoftのビジネスアプリケーションはAIとbotエージェントが人々の労働力をまとめ、加速度的に利便性を高めます。この利便性を活用すれば想像的かつ効率的な働き方を手にいれるでしょう。IDCによれば2026年までに85%の組織で人間とAIが共創し、生産性が25%向上します。これは10年ごとや世代ごとに起きるわけではなく、今まさに起きています。2023年におけるビジネスアプリケーションのアップデートはMicrosoftがこれを実現する最初の第一歩です」

図26 (セッションのスクリーンショット)

 Microsoft Business Application Launch EventではAIを搭載したイノベーションのデモンストレーションや顧客事例はもちろん、9つのボーナスコンテンツも用意されています。イベントは登録が必要ですが、興味のある方は視聴してみると良いでしょう。

図27 Business Application Launch Event -Bonus Track(出典:MicrosoftのWebサイト)

 ChatGPTという大規模な言語モデルの活用は私たちの働き方をどのように変えていくのでしょうか。また、この新しい時代に見合ったビジネスアプリケーションを活用することで私たちはどこまで生産性を高め、価値創造に挑戦できるのでしょうか。きっと数えきれないイノベーティブなビジネスシナリオがこの数年で生まれるでしょう。

図28 (Microsoftのセミナー資料を基に筆者作成)

Microsoftの全製品にAI機能搭載

 これまでの連載でも守りのDXでは「Microsoft Dynamics 365 ERP」、攻めのDXでは「Microsoft Dynamics 365 CRM」を紹介しました。そしてDX(Developer Experience)を加速化するツールとしてのAzure、Power Platform、Mixed Reality(複合現実)に加え、OpenAIとタッグを組んだことで、「全ての企業がソフトウェア企業になる」というMicrosoftのサティア・ナデラ氏(CEO(最高経営責任者)兼会長)が数年前に発信したメッセージの真の意味が具体的になってきた気がします。

図29 (Microsoftの資料を基に筆者作成)

 先日、全てのMicrosoft製品にAI機能が搭載されると発表されました。ビジネストランスフォーメーションで大きな役割を担っているのがAzureです。さまざまな領域の機能を組み合わせて利用でき、ユーザーのビジネス変革を強力に推進します。

 Microsoft Cloudがカバーするソリューションエリアでは、既に革新的なAIモデルが実装された製品も登場しています。Microsoftがクラウドに続きAI領域のマーケットを独占しつつある状況を目の当たりにし、企業のIT担当者が他社のビジネスアプリケーションを選択するのは「リスクが高い」「勇気のいる」ことなのではないかとさえ感じます。

 現在、世界は「ChatGPT」などの登場で大きな転換期を迎えようとしています。Microsoftの創業者であるビル・ゲイツ氏は『GatesNotes』で「AI(人工知能)による新時代の幕開け」について話しました。日本でもAIをビジネスチャンスだと捉えるIT賢者は新たな取り組みに挑戦しています。2045年とされていたシンギュラリティ(人間の知能と同レベルのAIが誕生する時点)が早まる期待感もあります。

 一方、「AIにホワイトカラーの仕事が奪われる」「軍事技術開発に利用される」「2〜3次情報を参照した信ぴょう性の低いインサイトが提示される」「世論操作に悪用される」などのリスク提起も後を絶ちません。実業家のイーロン・マスク氏は「AIが人類の脅威になる」と声を上げています。筆者も今後は「人間とAIの価値観・期待値の調和」が必要になると考えます。

 「GPT-4」が出ると、一体どれ程の知能を持つAIが誕生するのでしょうか。あらゆるソースを学習したAIは、既知の問題に解答する能力は既に人類を超えつつあります。トークンあたりの課金もAIがコモディティ化すると安価になり、あらゆる業界で活用が進みます。世界中でイノベーションが起きることが現実的になってきました。このような流れを考えると、Microsoftが提唱する「Do more with less」 (少ない労力でより多くのことを達成する)は、労働供給制約社会の一助になる可能性を秘めています。

 皆さまの企業ではAIを活用し労働供給制約社会へ備え、他社との差別化に向けてどのようなイノベーションを起こしますか? 

 本稿の前半部分では、「Microsoft のAI」について、そして後半では「Microsoft Business Application Launch Event」を振り返りながらCopilotについて解説しました。ITを単なる支援ツールから感情を持つチームメイトに進化させ、AIと共創していくための選択肢としてMicrosoftの製品、サービスの活用は有益だと感じます。

 次回は、MicrosoftのビジネスアプリケーションのラーニングツールやITコミュニティーについて解説していきます。

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