スーパーエンジニアでなくても自力でCoE組織は構築できる――セゾン情報システムズの場合リーダーに聞くCCoE活動の実際(1/3 ページ)

システム内製化を進めるに当たってはナレッジを集約するCoEないしCCoEを組織して挑むことも増えてきた。だがその取り組み方は各社各様であり、自社リソースや人材のポテンシャルによっても取り組み方が異なる。人手不足を嘆く向きもあるが、自薦を基に社内人材だけでCoE組織を作り上げ、成果を上げつつある企業もある。

» 2023年05月18日 08時00分 公開
[ITmedia]

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 セゾン情報システムズがCCoE(Cloud Center of Excellence)を活用したDX推進を加速させている。取り組みをリードしているのはテクノベーションセンターで、クラウドを専門に技術支援や教育を担当している河原慎吾氏だ。

 「CoE活動に取り組み、自社IT施策の内製化や組織風土改革に取り組む企業の話はよく聞きます。でも、その多くは成功した成果の話です。成功の手前で皆さんがどうもがいたかを聞く機会は実はあまりありません。私たちも試行錯誤を繰り返しながら進んでいます。きっと日本中にこういう課題を抱えている人がいるはず」――。本稿取材のきっかけとなったのは河原氏のこの一言だ。ならば河原氏の場合はどうもがいているのだろうか。

組織内でクラウド知識のナンバーワンを目指すポジションに立候補

 セゾン情報システムズは、「HULFT」「DataSpider Servista」などのデータ連携ソリューションを得意とする企業として知られる。特にシビアでパフォーマンスも求められる業務領域での実績が多く、金融機関での採用例も多い。同社ソリューションを自社DX推進の基盤に利用するケースもある。

 DX推進に向けたデータ活用環境整備を支援する一方で、同社自身もR&D機能を強化し、スペシャリスト育成と社内教育環境の充実を図っている。その組織をリードするのが河原氏だ。

 「先端技術開発に従事しつつも、社内の技術的な困りごとの解決も担うテクノベーションセンターに所属し、全社的な技術支援や教育をメインに担当しています。CCoEは仮想的な社内横断組織で、そこでリーダーを務めています」(河原氏、以下同)。

 河原氏が現在のキャリアに至るきっかけとなったのが2016年の社内公募だ。「2016年に、当時CTO(最高技術責任者)だった小野和俊氏の発案で技術に特化したR&D部門の新設(現テクノベーションセンター)に伴う人材公募がありました。特定の分野でナンバーワンといえる人材を自社内に置くことを目的としたものです。技術特化型のエンジニアになりたいという思いから公募に応募して登用されたことがきっかけです」(河原氏)

 特定の技術においてナンバーワンになるとのことだが、河原氏はもともとスーパーエンジニアだったわけではない。

セゾン情報システムズ テクノベーションセンター センター長の河原慎吾氏

10人の専任有識者に手を挙げ、コミュニティーで学ぶ「T字型人材」

 「2012年にセゾン情報システムズに入社してからインフラエンジニアとしてVMware製品関連の技術を中心とした自社クラウドサービスの構築と運用を学び、スキルを付けてきたので、実は情報系の専門としてのルーツを持つわけではありません。とはいえ技術情報を収集して何かを検討すること自体は苦手ではなかったので思い切って立候補したのがきっかけです」(河原氏)

 2016年の公募では社内から10人が採用された。

 「新組織には、Javaに詳しい人、FinTechに詳しい人、AI(人工知能)関連の技術動向に興味がある人……と、いろいろなバックグラウンドを持つエンジニアが集まりました。立ち上げの際に当時の技術トレンドも考慮してAIやブロックチェーンなどを含む担当分野を定めて、それぞれが専門分野を持ちつつ、社内で一番詳しい人材になることを目指しています。そのときに私が選択したのはクラウドです。『クラウドで会社のトップになる』という道が見えてからは、あとはミッションに向かってまっしぐらに活動できたと思います」

 社外コミュニティー活動やSNS活動、資格の学習にいそしみ、身に付けた知識やスキルを社内勉強会の講師などとして社内に還元していった。「分野のトップ」として人に頼られると、期待に応えたいという気持ちが高まり、さらに意欲的に取り組むようになった。

 「それまでは社内にしか目を向けられない、いちエンジニアとしての意識が強かったと思います。新組織への応募は間違いなく大きな転機になりました。まずは『Amazon Web Services』(AWS)のユーザーグループであるJAWS-UGに飛び込み、IaC(Infrastructure as Code)に関するミートアップに参加、ライトニングトークへの登壇などのチャレンジから徐々にコミュニティーに参加するようになりました」

 ユーザーコミュニティーは参加するだけでなく、自身の経験や検証結果を広く参加メンバーと共有する場面も多い。参加して先駆者の知識を得れば、チームに持ち帰って展開する責任もある。登壇するとなれば数分のライトニングトークセッションであってもその準備を含め責任もある。

 「コミュニティー参加をきっかけに知見やスキルが自分のものになるのが目に見えて分かりました。時間内で内容を的確に伝えるための資料作りのノウハウ、資料の見せ方は、社内業務にも生かせます。うまい人のやり方を盗みながら身につけていきました」

 テクノベーションセンターのゴールは、全社のDX推進にある。河原氏は当初一人でクラウド全般のナンバーワンを目指して主要クラウドを掛け持ちで見ていたが、1年ほどたってからは、主要クラウドのうち、自社で利用の多いAWSと「Microsoft Azure」(Azure)のそれぞれに選任を付ける形に体制を強化した。この時から河原氏はAzureの専任となっている。そしてその後2021年にCCoEチームを立ち上げた。

 CCoEは、AWSとAzureを@中心に各種クラウドサービスの標準やガイドラインの策定、スキル獲得、教育・普及などを集中的に行う。

 「もともとAWSとAzureを担っていましたが、領域が広範になるため、1人で担当することは難しくなりました。そこで同僚を1人引き入れ、2人で専門を分担するようになります。社内では『T字型人材』と呼んでいますが、1つの専門分野を持つ人材が専門を生かしながら他の分野に枝葉を伸ばすように知識やノウハウを獲得していく人材成長のかたちを目指しています」

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