DXを成功させるために、企業はそれぞれのツールに対する理解を深める必要があります。本稿はMicrosoftのビジネスアプリケーションを効率的に学ぶ方法を解説します。
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「学ばない日本人」――。昨今耳にするようになったこの表現を皆さんはどのように感じていますか。これまで海外の方々は「日本人はとても勤勉」という印象を持っており、筆者もそのような評価を誇らしく感じていました。
しかし、「アジア諸国の中で最も大人が学んでいないのは日本」というデータも出てくるようになり、これは個人レベルではなく日本が抱える社会課題の一つだと思います。このような状況になった理由はさておき、日本の労働生産性(従業員1人当たり、もしくは1時間当たりの労働に対して得られる成果)が低いことは多くの読者の方々が知っています。
日本生産性本部が2022年に発表した「労働生産性の国際比較 2022」によると、日本は1時間当たりの労働生産性でOECD加盟38カ国中27位、1人当たりの労働生産性はOECD加盟38カ国中29位です。スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2022年に発表した「世界デジタル競争ランキング 2022」では、韓国が8位、台湾が11位、中国が17位、日本は過去最低の29位です。IMDの「世界人材ランキング 2022」では日本は63カ国中41位です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進において、ビジネスを熟知した人材は不可欠です。一方、外部からIT人材を調達するのは困難になってきており、「IT人材の内製化」の重要性を意識する経営者も増えています。実際に日本政府も2022年の秋に「社内のリスキリングに対して今後5年間で1兆円を投じる」と発表しています。しかし、経済産業省が2022年9月に発表した「経済産業省の取組」の中の「企業の人材投資や社外学習の国際比較」を見ると、日本企業におけるOJT以外の人材投資(GDP比)は諸外国と比較して最も低く、減少傾向にあります。社外学習や自己啓発を行っていない個人の割合は半数近くになっており、諸外国と比較しても不十分です。
働き方や社会構造が変わろうとしている今、われわれはどのようにIT人材を育成し、ITを内製化するべきなのでしょうか。DX 365 Lifeの第6回となる本稿は、Microsoftのビジネスアプリケーション領域の学び方について解説します。
本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。
約20年にわたって日本を含む31か国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任。
Microsoft Regional Director
Microsoft MVP for Business Applications
Blog:DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog
全ての業種で労働生産性が低いわけではありません。基本的には人材不足が課題になっている業種で労働生産性は低くなります。1つの成果を出すのに多くの労働量が必要なIT業界やIT部門はその代表例です。米国のようにIT人材を非IT企業に増やす事が解決策の一つになり得ますが、時間軸を考えると当面の間は別の作戦が必要です。労働生産性の高い国はプライベートタイムを確保し就業時間内で成果をあげる従業員を評価する一方、日本の人事評価制度は年功序列制度で優秀な若者の成長を止め、長時間労働者を評価する傾向もあります。
企業は従業員のモチベーションを向上させる研修に加えて、スキルアップにつながる福利厚生や支援、適正を見極めたタスクアサインが重要だと認識しなければなりません。また、スペックの十分なPCをIT部門に使ってもらうことも大切です。働き方なども含めて取り組みが進んでいる企業を参考に、あなたの企業に適した対策で労働生産性を向上させましょう。人事部門は思い切った改革に踏み込む必要があります。筆者は数十年間にわたりグローバルで働いてきましたが、企業を救うのは人事の気概や努力のような気がします。
多様性のある働き方を目指す日本マイクロソフトのハイブリッドワークへの取り組みには目を見張るものがあります。ハイブリッドワークはテレワークとオフィスワークを柔軟に組み合わせ、最高のパフォーマンスを出せる職場環境を作り上げる仕組みです。日本マイクロソフトによれば、従業員の約3分の2はハイブリッドワークを、3分の1はフルリモートを理想的と回答しています。時代の流れを考えるとハイブリッドワークは主流になっていくでしょう。
ここで筆者が注目したいのは「働き方が柔軟になった一方で会議やチャットの時間、時間外労働が増加し、デジタルオーバーロード(過負荷)のリスクがある」「ハイブリッドワーカーの3分の1以上が『いつ』『何のために』出社するのかを知ることが最大の課題と回答しており、新しい働き方にチーム内のルールを設定している企業は3分の1に満たない」という事実です。
明確なルールを定義するには、現場の長(場合によっては部長や人事部)によるKPI設定に加え、いつどこでどのような仕事をしたのかを可視化する仕組みが必要です。筆者は前職でこのような課題を解決するためにソリューションを実装しました。管理者は「現場が必要な時間を必要なタスクに振り向けられたのか」などを把握する必要があります。
Microsoftのビジネスアプリケーション領域を効率よく学ぶために、まず取り組むべき学習サイトは「Microsoft Learn」でしょう。
2023年5月7日時点で「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)と「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)で1400近いトレーニングコンテンツがあります。
ツール導入を担当するパートナー企業は、製品やサービスのセッションを一通り見るとよいでしょう。ただ、半期に一度のペースでSaaSアプリケーションがアップデートされるため、一部のセッションはアプリケーション側の方が新しいことがあります。セッションを見たら実機で確認すると間違いありません。また、ERP側の「Business Central」や「Finance & Supply Chain」などは機能が多いので、導入を担当するモジュールに限定して理解を深めましょう。ユーザー側も同様に、関係のあるモジュールにフォーカスして学習するのが効果的です。以下の図2のように、業務フローなどもラーニングコンテンツの中にあります。
利用方法も記載されており、学習を始めるハードルも低くなっています。
以下の図4のように実機画面の閲覧も可能です。画面の一部が英語でも日本語字幕が出るため、理解促進には問題ありません。
筆者がコンサルタントだった頃に重宝したのが図5の演習問題です。基本的な質問からちょっとした応用問題まで幅広く用意されており、受講したコンテンツを効率的に復習できます。また、図5の「サインインしてサンドボックスをアクティブにする」をクリックすると事前に作成した環境を立ち上げられます。
Microsoft Learnは進むにつれてとポイントが追加されていく仕組みなので、ゲーム感覚で学習を進められます。結構なボリュームがあるので、期限を決めて効率よく進めるようにしましょう。
続いて環境構築について解説します。Dynamics 365には無償のトライアル環境があります。
ほとんどのモジュールで無償試用版の環境を数分間で構築でき、Microsoft Learnを活用で実機の理解度を高められます。最近、Microsoft LearnのWebページが更新され、Docs(ドックス)と呼ばれる単独のWebページからMicrosoft LearnのWebページに統合されました。このサイトからは試用版も入手できます。
認定資格を取得することで、業務に生かすことはもちろん、知識を証明することも可能です。
今回のサイト改編で情報が一元管理され、使いやすくなりました。
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