ドムドム「3期連続黒字」に見る「人がついてくる組織、意見を出す組織」【リテールDX】心理的安全よりもまえに「そもそもそれはなぜ?」

いまいる人材のポテンシャルを最大限に引き出して成果につなげるには、組織全体の風通しの良さが重要。言葉ではわかっていても、どう行動すれば風通しが良くなるのかは成功した人に聞かなければ分からないことも多い。危機的な状況から一転、3期連続の黒字達成を実現して躍進する企業に、組織の変え方を聞く。

» 2023年06月05日 08時00分 公開
[ITmedia]

 「普通のフードチェーンではこのメニューは絶対に出せないでしょうね。本部が指示しただけではスタッフがついてこないはず」――。そう語るのはドムドムフードサービス社長の藤﨑 忍氏だ。業績を急回復させ、3期連続黒字を達成した敏腕経営者としても注目を集める。フードチェーン未経験から経営に携わったキャリアのユニークさも相まって「時の人」としてマスメディアで見かけることも多いだろう。ドムドムフードサービスとしては2022年に銀座(東京)に新業態の店舗を出店したことも記憶に新しい。

2022年に銀座にオープンした「ドムドムハンバーガーPLUS」(出典:ドムドムフードサービスのプレスリリース)

 自身は「マネジメントの方法論を学んだ経験があるわけではない」というが、心理的安全やウェルビーイング、組織活性化の手法など、数々の経営者や企業研究の中で論じられてきた手法を地で実践している。

なぜ「普通の外食チェーンではできないメニュー」を提供できるのか

 本稿の読者は「日本初のハンバーガーチェーン」といったときにどのフードチェーンを思い浮かべるだろうか。「黒船」のようにやってきたマクドナルドに先んじて日本で最初のハンバーガーチェーンを立ち上げたのは、ダイエーグループ創業者である故中内 功氏が肝いり事業だった「ドムドムハンバーガー」だ。

 全盛期には全国に約400店舗を構えるまでに成長。独自のメニュー開発にも力を入れており、筆者もファンの1人だったが、ファストフード群雄割拠の時代にあって業績は悪化。関連ブランドの店舗を合わせて27店舗まで規模の縮小を余儀なくされた。2017年にはダイエーグループの事業売却により、レンブラントホールディングス傘下に加わり、新たに出資を受けた「ドムドムフードサービス」がチェーン運営を担っている。

 藤﨑氏は2017年にレンブラントインベストメントに入社。その後すぐにドムドムフードサービスに出向、そこからわずか9カ月ほどで同社の問題点を見抜き、「自分に経営させてほしい」と直談判した。「とにかく風通しが悪い」「なんでそんなことをするのか」といった疑問やモヤモヤが募った結果だと藤﨑氏は当時を振り返る。

 その後はメニュー開発やイベントなど、今までにない取り組みを次々と進めて成果を出している。「ドムドム」が広く一般から注目を集めたのは、生のカニ(ソフトシェルクラブ)を店舗で揚げてバンズに挟む「まるごと!! カニバーガー」を発表したことだろう。絵面のインパクトも相まって「常識では考えにくいトガったメニュー」として話題になった。

 冒頭の藤﨑氏のコメントにあった「普通のフードチェーンではこのメニューは絶対に出せない」は、このメニュー開発に対してのものだ。個人店ならまだしも、多数の店舗を持つフードチェーンとなれば調理担当スタッフがシフトによって変動する中で、生のカニを各店舗がキッチンで揚げ、同じ品質、スピードで提供し続けるのは相当の鍛錬を積むか、専任者を置くような措置がなければ難しい。調理の手間や時間がかかれば店舗スタッフは疲弊し、店舗オペレーション全体が混乱に陥ったり、顧客からの苦情が殺到したり、本部への不満や不信感が高まることになりかねない。調理工程はSNSでも発信しており、いまも『ねとらぼ』の記事「カニ1匹を「丸ごと」挟んだ狂気のハンバーガー、ドムドムで限定販売 豪快すぎる調理シーンが公開」に残っている(最初の発表は2019年、記事が公開された2020年は再販売時のもの)。

組織の心理的安全と組織改革、DX推進への道

 普通はできないことが、なぜ同社では実現したのだろうか。そこには店舗を多数構える組織に共通する、組織活性化の地道な手法がある。藤﨑氏はこの問題を、「組織の心理的安全」によって解決してきたという。

 厳密にいえば藤﨑氏本人は意識的にそれを実戦したわけではない。「純粋に、なぜ? と疑問に思ったことを解決していっただけなのですが、やっていたことを後々聞いてみると、実は組織の心理的安全作りを実戦していたようなのです」

ドムドムフードサービス社長 藤﨑 忍氏

 なぜ顧客の顔を見ないのか、なぜ従業員の声を聞かないのか、なぜ会議は一方通行なのか……。藤﨑氏が「なぜ?」を投げかけた先は「組織の常識」として誰もが気に留めずに従ってきたルールも少なからずあったようだ。親会社と子会社、組織内部の事情が優先されがちな風土、店舗と本部、本部と経営層、経営層と親会社……と組織の壁、問題はどんな企業にも少なからずあることだろう。藤﨑氏が語った「なぜ? と疑問に思ったことの解決」こそが組織の問題を解決し、他で出せないメニュー提供が可能な強い組織づくりにつながっている。

 ITmedia エンタープライズはリテール専門メディア『リテールガイド』と共同で「リテールDX」をテーマとしたイベントを2023年6月15日に開催する。その基調講演として藤﨑氏が具体的にどのように組織変革を進めたのかを語って頂く予定だ。

 DXの本質は、組織の壁などの既存のしがらみを超えて、そもそも必要なものはなにか、よりよくあるにはどうすればよいかを組織全体が問うところに価値がある。独りよがりにならず、人がついてくる、思いを1つにするためのリーダーの取り組み方を学ぶ機会となるだろう。ぜひ参加してほしい。

開催概要:リテールDXカンファレンス 激動する小売・流通業界の働き方改革

  • 開催日時:6月15日(木)13:00 〜15:30
  • 参加費用:無料(事前申込制)
  • 開催場所:オンラインセミナー形式
  • 申し込み参加登録フォームからお申し込みください
  • 主催:リテール総合研究所(開催協力:アイティメディア)

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