Nikeは自社のデジタルチャネルと実店舗に多額の投資を行っている。そして、さらに卸売パートナーにもエコシステムを広げようと試みている。
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「オムニチャネルの買い物客はシングルチャネルの買い物客よりも価値が高い」と小売企業の幹部たちはよく言う。Nike Directのバイスプレジデントであるダニエル・ヒーフ氏によると、Nikeではオムニチャネルの買い物客はオンラインのみの買い物客の少なくとも2倍の価値があるという。
これはWebサイトやさまざまなアプリを通じて、デジタルに多大な投資をしてきたNikeだからこその結果だ。ヒーフ氏は2023年5月3日に行われたNikeのダイレクト戦略に関する説明会の中で「過去2年間でNikeのデジタルビジネスは2倍以上に増加した」と述べた。増加の主な理由は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックを受けてだが、同氏は「成長していない企業がある中でNikeは成長を維持している」と指摘する。
「Nikeは『どんな手段を使っても成長する』ことよりも、『確実に大きな成長を実現する可能性がある分野へ注力すること』を大事にしている。だから成長を維持している」(ヒーフ氏)
その中には女性用向けのフィットネス製品やアパレル、ジョーダンブランドのアパレル、ランニング製品などの分野が含まれている。
ヒーフ氏はNikeのデジタル戦略について「顧客がNikeのアプリで商品を購入する際、それが“単なる購入体験”にならないように、画像やコメント、UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)など、あらゆる要素を盛り込みユニークな体験を構築している。まさに感情に訴えかける体験だ」と語る。
Nikeのデジタル戦略は対面のイベントや実店舗と連動している(注1)。同社は「Nike Live」や「House of Innovation」のようなハイテク技術を店舗に組み込むことで、デジタルと実店舗の統合を推進してきた。一方、最近は消費者に直接販売しながらも、自社店舗だけでなく主要な卸売パートナーのロイヤルティー会員などをどのように取り込むかに注目している。
Nikeは2021年にDick's Sporting Goodsとロイヤルティープログラムを締結し(注2)、顧客が両小売業者のリワードアカウントを利用して特典を受けられるようにする実験を開始した。商品の拡充やイベントの開催に加え、顧客はNikeのアプリで注文した商品をDick's Sporting Goodsの店舗で受け取ることも可能だ。
ヒーフ氏は「消費者がどこで接点を持っても構わないと考えている」と指摘する。Nikeは自社のエコシステムを多くの卸売パートナーに提供し、顧客にさまざまな体験を提供したいと考えている。
「直接売買と卸業のどちらなのかと聞かれることがあるが、私たちはその両方だ。そうすることで市場の中で差別化されたユニークなサービスを提供できるからだ」(ヒーフ氏)
Nikeの流通拠点は卸売りを通じて約3万カ所あり、直営店は約8000カ所だ。
また、同社はスニーカー販売でも実店舗とデジタルを組み合わせるアプローチを取っている。約8年前に開始した「SNKRS」というアプリで購入できることはもちろん、多くの卸売パートナーや地元のスニーカーショップと連携し物理的な商品の引き渡しも行っている。「SNKRS Pass」という機能で買い物客は欲しいスニーカーを予約し、店頭で受け取れる。
一方、オンラインでのスニーカー購入体験は完璧とは言い難く、小売大手にとっては改善すべき点だ。
SNKRSとNEIGHBORHOODでバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるルーシー・ラウス氏は「われわれは悪質な業者やbotが人気のある市場でオンライン購入を行っているのを目の当たりにしている。これは非常に残酷な現実だ」と指摘する。
ラウス氏は「Nikeにおけるスニーカー発売では、購入エントリーの最大50%がbotの可能性がある」と指摘する。
「これは旅のようなもので、われわれは常に“学びの旅”をしている。その中でわれわれが本当に熱意を持って取り組んでいるのは、同じ過ちをいかに繰り返さないかということだ」(ラウス氏)
(注1)How Nike is using DTC and data to expand its empire(Retail Dive)
(注2)Nike and Dick’s tie loyalty programs together(Retail Dive)
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