「Microsoftは“ゼネコン”になる」の真意 Microsoft Inspireで語られたこと

MicrosoftがMicrosoft Inspireを開催した。同イベントの基調講演で語られたこととは。

» 2023年07月25日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 Microsoftは2023年7月19〜20日の2日間で、パートナー向けのグローバル年次イベント「Microsoft Inspire」を開催した。

 初日の基調講演にはMicrosoftのCEO(最高経営責任者)であるサティア・ナデラ氏に加え、同社のCPO(最高パートナー責任者)のニコル・ディーゼン氏、CCO(最高顧客責任者)のジャドソン・アルソフ氏などが登壇し、MicrosoftがAI(人工知能)でいかにビジネス変革を起こすかについて説明した。

「Microsoftは“ゼネコン”になる」の真意とは

サティア・ナデラ氏

 ナデラ氏は基調講演の冒頭で「今、AIによる大規模なプラットフォームシフトが起きている」と話し、以下のように説明した。

 「過去30年間で人類は『PC/サーバ』『Web/インターネット』『クラウド/モバイル』という3つの変化を経験した。今後はAIによってさらに大きな成長機会がもたらされる。将来的に、AIをはじめとする技術で各国のGDP(国内総生産)は10%成長すると予測されており、市場規模は7〜10兆ドルが見込まれる」と述べた。

図1 過去30年間で起きた変化(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 ナデラ氏はまず「Bing Chat Enterprise」に言及した。企業向けのAIチャットツールとして「GPT-4」を搭載したBing Chat Enterpriseを使えば、企業はデータ保護を実現しながらAIチャットを利用でき、ナデラ氏は「『機密データを社外に流出させたくない』という理由から、企業が従業員のAI活用を禁止するといったことがなくなる」と述べた。

図2 Bing Chat Enterpriseのイメージ(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 「Microsoft 365」では、Microsoft 365 E5、Microsoft 365 E3、Business Premium、Business Standardのいずれかのライセンスがあれば、Bing Chat Enterpriseを追加コストなしで利用できる。今後プレビュー版を提供する予定で、月額5ドルで利用できるスタンドアロンサブスクリプションも用意する。

 ナデラ氏は「Microsoft 365 Copilot」の価格も発表した。一般提供の時期については言及しなかったものの、前述の3つのライセンスのどれかを持つユーザーであれば、月額30ドルで利用できるという。

 「Microsoft 365 Copilotを通して何千ものスキルを提供する。文字起こしやコピーライティング、ドキュメント作成、カレンダー管理、チャット、会議設定、連絡先追加など、その幅は今後も広がっていく」(ナデラ氏)

 Microsoftは招待制の有償プレビュープログラム「Microsoft 365 Copilotアーリーアクセスプログラム」を実施しており、これまでにGoodyearやGeneral Motors、Avanadeなどをはじめとする約600社が参加している。これらの取り組みから得られたフィードバックに基づいて、MicrosoftはMicrosoft 365 Copilotを進化させる予定だ。

 ナデラ氏は新たに「Microsoft Sales Copilot」を発表し、以下のように述べた。

 「Microsoft Sales CopilotはAIによって顧客サービスを強化するもので、『Dynamics 365 Sales』で利用できる。AIは営業案件の概要の把握や電子メールなどを担う。営業担当者は生産性の向上や顧客関係管理タスクの自動化、リアルタイム分析などを実現できる」

 基調講演では「Power Automate Process Mining」の一般提供開始も発表された。同サービスはAIを用いてプロセスの最適化や自動化の提案を行う。

 ナデラ氏はMetaの大規模言語モデル「Llama 2」を「Microsoft Azure」(以下、Azure)と「Windows」でサポートすることも発表し、「アプリケーション開発者はOpen AIやMetaの革新的なモデルを利用でき、これはあらゆるソフトウェアカテゴリーに変革を及ぼす」とした。

ニコル・ディーゼン氏

 ナデラ氏は新たなパートナー施策として「Microsoft AI Cloud パートナープログラム」を発表した。ディーゼン氏は同プログラムについて「同プログラムはパートナーのライフサイクル全体に対応したものだ。パートナーはMicrosoftが提供するAIサービスやその他特典を利用できる。ユーザーは従来のパートナープログラムから自動で移行する予定で、既存の特典も維持できる」と述べた。

 Microsoftは同プログラムの一環として、「『Microsoft Customer Engagement Methodology』(MCEM)をパートナー向けに公開」「産業用メタバースにおけるパートナーへのサポートを強化」する予定だ。

ジャドソン・アルソフ氏

 アルソフ氏はMicrosoftのクラウドおよびAI事業の軸となる「モダンワーク」「ビジネスアプリケーション」「クラウドインフラストラクチャ」「データ&AI」「セキュリティ」について、“家”を比喩に以下のように語った。

 「MicrosoftはAIを活用し、全ての“部屋”を改装している最中だ。各部屋には新たなソリューションがあり、改装した家を販売する。その家を購入した全ての組織や人々の進化を支援する。数カ月前まで顧客は『生成AIとは何か』が分からなかった。現在は顧客が『100のやりたいことリスト』を持っている。家を建てる人がさまざまなアイデアを持っているのと同じだ。われわれはその期待に応える優秀なゼネコンになる」(アルソフ氏)

図3 Microsoftが目指す家の姿(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 同氏はモダンワークに関連するとして、Microsoft 365 CopilotとMicrosoft Sales Copilotを、データ&AIでは「Microsoft Fabric」を紹介した。セキュリティについては「Microsoft Defender for Endpoint」を使っている顧客が「Microsoft Security Copilot」を体験できるように、早期アクセスプログラムを2023年秋に開始するとした。

 ナデラ氏は最後に「私たちはテクノロジーのためにテクノロジーを構築しているのではなく、世界中のあらゆる地域や国、分野、業種、人、組織に力を与えることが目的である。それが、Microsoftをユニークな存在にしている理由である」と話し、講演を終えた。

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