“2024年問題”からIT企業のサステナビリティ経営を考える(Microsoftのパートナーが果たすべき真の役割)DX 365 Life(8)(2/2 ページ)

» 2023年07月28日 08時08分 公開
[吉島良平ITmedia]
前のページへ 1|2       

ユーザーの行動変容

 行動変容は「意識が変わることで行動が変わり、その行動を維持するまでの変化」を意味します。

行動変容について(筆者作成)

 行動変容は「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つのステージに分かれます。関心期までに大変な熱量が必要です。働き方改革においても、この関心期に到達するには「人事を中心とした評価制度改革」や「タイムシートデータの可視性」が鍵になります。

 IT領域におけるユーザーの行動変容で一番大切なのは「内製化」だと筆者は考えます。第4回のDX 365 Lifeではこの内容を取り上げました。デベロッパーとしての経験を深め、自社の強みを発揮できる組織を創り上げましょう。

 コロナ禍を経て、テレワークが維持期に入っている企業も多いでしょう。その結果として良い効果が出ていれば、「商慣行の見直し」「業務効率化」「行動変容」はうまくいっているといえるでしょう。オンラインミーティングやペーパーレス化が進み、取引先やクライアントにもメリットが出ているでしょう。

継続的なデリバリーを実現するために

 Microsoftが掲げているスローガン「Do more with less」(少ない労力で多くを成し遂げる)を実践しているビジネスアプリケーションパートナーを紹介します。

 インテリジェントクラウドコンサルティング(以下、ICC)は、Microsoft Dynamics 365のCRM領域のコンサルティングや導入開発、保守を得意とする企業です。先日、同社でCEO(最高経営責任者)を務める溝道修司氏にインタビューをする機会がありました。以下はその模様の一部です。

筆者 今の会社を立ち上げた理由は何ですか?

溝道氏 会社員として職位が上がり、事業部を預かるようになると、収益を確保するために多くの製品を提案しないといけません。自分たちの強みを生かすビジネスを作りたいという思いが大きくなったのがきっかけです。

筆者 ICCの強みは何ですか?

溝道氏 弊社のコアメンバーはCRM領域の業務に精通しており、日本で初めてMicrosoftのCRMパッケージがリリースされて以降、長きに渡り導入や開発、保守に関わってきました。CRMそのものに対する考え方やDynamics 365に対する知識が強みです。

筆者 サステナビリティ経営を実現するためにはプロジェクトに参画するメンバーの育成がポイントだと思います。ICCではこの点、どうしていますか?

溝道氏 ICCはスピーディーに従業員教育を行うことができる独自のカリキュラムやノウハウがあります。

筆者 機能数の多いDynamics 365のERP領域との比較はできませんが、Dynamics 365のCRM領域も広範囲に渡りますし、年に2回のメジャーアップデートで毎年多くの機能が拡充されるので教育は簡単ではないと思いますが。

溝道氏 長くこのビジネスをやっているので、製品の進化にも迅速に対応できます。サービスインダストリーは人材が全てです。働きやすい職場環境の整備はもちろん、なるべく信じて個人に任せるのが弊社のモットーです。上司はフォローして、全ての責任を取ることが大前提です。

筆者 フォローも時間を要すると思いますが、何か秘訣(ひけつ)はありますか?

溝道氏 信は力なりです(笑)。経験上、人が成長するときは自分で責任をもって行動し、クライアントと一緒に楽しみながら黙々と仕事をするときだと思います。

筆者 社員の方は入社後どのくらいで行動変容が見られるのでしょうか?

溝道氏 約6カ月で成果がみられます。メンバーがクライアントから褒められるときに上司としてやりがいを感じます。

右から溝道氏、吉武牧子氏(ソリューションビジネス本部第一サービス部 副部長)、山田結乃氏(ソリューションビジネス本部第一サービス部)、岡崎 禎氏(取締役副社長)

筆者 Dynamics 365のどこが好きでこのビジネスをしていますか?

溝道氏 Dynamics 365は現代のビジネスアプリケーションプラットフォームとしては“最強”だと思います。「Microsoft Azure」「Microsoft 365」、Power Platformと密連携します。まさに私たちで“味付け”して提供できます。時代と共にニーズや働き方が変わっているので、組織は商慣行の見直しが必要です。生産性の高い組織を作るには変化に強い仕組みや変化を楽しめるチームを持つ必要があります。デジタルを有効活用して顧客の業務や業績に貢献できる企業を目指しています。

筆者 クライアントの課題はそれぞれ異なると思いますが、CRMの導入を検討するクライアントは何か特別な課題を持っているのでしょうか?

溝道氏 エンタープライズと比較すると中堅・中小企業はデジタル化が遅れていて、ITリテラシーが十分でない従業員もみられます。。最近のMicrosoftのメッセージでもありますが、IT業界は人材が枯渇しており、個人がこなすタスクも多いのが現状で、「Do less with more」になりがちです。変化が激しい時代は新たに価値創造しないといけませんが、現実はそう簡単ではありません。「守りのDX」が中心です。極端にいうと、保守は外部に委託して社内の人材は「攻めのDX」を推進すべきです。まずは社内からそういう考えを啓蒙し、変革することが必要です。

筆者 溝道さんの夢は何ですか?

溝道氏 Dynamics 365は世界中で使える業務システムです。日本マーケットで成功したクライアントが海外で勝負する際、伴走しながら業績向上に貢献したいです。ICCは中堅・中小企業の海外展開をサポートしていきます。その過程でクライアントのIT担当者やユーザーと一緒にポジティブな行動変容を起こしたいですね。

Microsoft Inspireが開催 注目のサービスは

 Microsoftは2023年7月19〜20日の2日間で「Microsoft Inspire」を開催しました。初日の基調講演の冒頭では、ユーザーエクスペリエンスからテクノロジーまで一気通貫でAIを活用できる「Copilot stack」の解説がありました。

Copilot stack(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 MicrosoftでCEOを務めるサティア・ナデラ氏は、基調講演の中で5つのサービスについて解説しました。「Bing Chat Enterprise」は機密情報を組織外に出すことなく、安全にAIを活用できます。「Microsoft Entra ID」でログインでき、「Microsoft 365 Copilot」とも連動します。

Bing Chat Enterprise(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 MicrosoftのYusuf Mehdi氏(副社長 兼 コンシューマー部門 チーフマーケティングオフィサー)がBing Chat Enterprizeのデモを見せました。ここではその一部を紹介します。

 一つ目のデモは「Multi model visual search」と呼ばれるもので、テキスト同様に画像やイメージを利用できます。Bing Chat Enterpriseに建物の画像をアップロードし、興味深い建築的要素は何かと質問すると、「『カルトゥーシュ』と呼ばれる装飾で、中央にある世界地図は大航海時代を表している」と示しました。

Multi model visual searchの回答例(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 その次のデモでは、「機密情報と共にContosoの本社ビルの入札用の提案文書を書いてください」と指示し、実際に文章をBing Chat Enterpriseが作成していました。

 Bing Chat Enterpriseは2023年8月中旬頃より、Microsoft 365 E5/E3、Microsoft 365 Business Premium/Business Standardのユーザーが利用できます。これらのライセンスを契約していない場合は、1ユーザー当たり月額5ドルでスタンドアロンでも利用できます。大規模言語モデル(LLM)の機能や「Microsoft Graph」、Microsoft 365アプリのデータを組み合わせてユーザーを支援するMicrosoft 365 Copilotは、1ユーザー当たり月額30ドルで利用できます。

 Bing Chat EnterpriseはMicrosoft 365のポリシーを継承し、データがMicrosoft 365のテナント内で論理的に分離、保護されるため、機密情報の漏えいを心配する必要はありません。AIの学習にも使われず、Microsoftもアクセスできないので、セキュリティに不安が残るという理由でAIに取り組まなかった企業も安心して利用できます。

Bing Chat Enterpriseはセキュリティも安心(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 「Microsoft Sales Copilot」は過去のメールなどから情報を得て、「Microsoft Outlook」の予定表に顧客が重要視しているポイントを表示します。「Power Automate Process Mining」(以下、Process Mining)はAIに業務プロセスを理解させるために必要なツールです。つまり、業務プロセスを分析してユーザーに改善提案を促する機能です。

プロセスマップの一例(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 これを活用すれば、営業や人事、財務のプロセスなどを可視化でき、更にはそれらの業務をAIが自動化します。デモでは「自分たちの業務プロセスのどこに問題があるのか」「どうすれば改善できるか」をAIを使って導きました。プロセスのどこがボトルネックになっているか聞くと、「承認プロセスのコンプライアンスチェックに課題がある」と分かり、さらにAIが「Microsoft Power Automate」や「Microsoft Power Apps」を使ってフローの自動化を提案してくれました。

 ナデラ氏は「Azure AI」領域のアップデートも発表しました。「Azure OpenAI Service」はMicrosoftがインフラを提供し、OpenAIがアルゴリズムを生成する。そしてパートナーやクライアントがアルゴリズムに対してアプリケーションを開発してイノベーションを起こすというユニークな仕組みです。これまでの北米領域だけでなく、今後は西欧とアジアなどで利用できるようになります。

 その他、Metaが提供しているAIモデル「Llama2」がAzureと「Windows」で利用可能になったことや、「Microsoft AI Cloud Partner Program」など、さまざまな発表がありました。

 こちらからサマリーを確認できます。基調講演の映像もあります。

 Microsoft Inspireの発表やデモを見た感想ですが、「ついにここまで来たか!」という一言に尽きます。筆者が20年以上前にビジネスアプリケーション領域で仕事を始めたとき、「こうなればいいな」と夢描いていた内容が今回のアップデートで全て実装できるレベルでした。時代の最先端のITソリューションを習得し、継続的にデリバリーすることで、ユーザーの生産性向上に貢献できることは間違いないでしょう。

 先日、東京ドームで野球を、秩父宮ラグビー場とえがお健康スタジアムにラグビーを見に行きました。会場に足を運んだファンをロイヤルカスタマーにするために、行動変容を促す仕組みがあちこちにちりばめられていて、もはやスポーツはエンタメだと感じました。

 東京ドームでは1980年代の音楽を取り上げるという企画をやっており、スクールウォーズの主題歌が歌われたり、子供が球場内をかけっこするレースが行われたりしました。秩父宮ラグビー場やえがお健康スタジアムでは、試合のハーフタイムにベンチ入りしていない選手が会場でサイン会や写真撮影を行い、ファンを楽しませる工夫が用意されました。

 「持続可能なスポーツイベントの実現」のために、関係者がファンに向けて提供するウェルビーイングに感動しました。サービスを提供する側もサービスを受ける側も「楽しい」を感じているときに成長があるはずです。筆者は同時に「クライアントに楽しんでもらえる製品やサービスを届けられているだろうか?」と反省しました。

 ユーザー側が楽しく活用できる「世界最先端のサービス」を、私たちIT企業側も楽しみながら「継続的にデリバリー」して、時代に見合った働き方ができるITビジネスインフラを構築していきましょう。IT業界では、このような取り組みが社会の持続可能性に貢献するサステナビリティ経営の実現につながっていくと筆者は考えます。

 次回はMicrosoftのビジネスアプリケーション領域における導入事例を紹介します。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ