ローコードが生み出すのは"ごみアプリ"か? それとも"イノベーション"か? Microsoftのローコード(Power Platform編)DX 365 Life(4)(1/3 ページ)

企業がDXを成功させるために、"内製化"は重要なテーマです。「何から始めるべきなのか」「どのように取り組むべきなのか」が分からない人には、「Microsoft Power Platform」がヒントをくれるかもしれません。

» 2023年03月17日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]

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 米国と日本のIT人材分布図によると、米国では7割近いIT人材が"非IT企業"に属しているのに対し、日本は7割以上のIT人材がIT企業に属しています。日本はITそのものをビジネスの武器にできておらず、「このままでは世界においていかれる危険な状況だ」といわれます。

 このような背景もあり、従業員のIT人材化が求められていますが、プロの開発者からは「ローコードって市民開発者がごみアプリを生み出すだけで、結局その後始末に追われるから関わりたくない」という話を聞くことがあります。

 また、連載第3回で「日本ではようやく『DX』(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが一般化し、『ITの内製化』がDXの実現や企業の成長に不可欠だという認識をもつ企業経営者が増えてきた」と書いたところ、IT担当者の方々から幾つかのネガティブコメントをいただきました。

 コメントの中には「当社の経営陣はIT部門をいまだにコストセンター扱いする」「うちの組織はIT人材が枯渇している」「内製化せず全て委託しているから社内にITを語れる人材がいない」「弊社の経営者はクラウドの基盤を触ったことさえない」など、結構辛辣なフィードバックもありました。筆者にも毎月数件の個人的な相談があり、例えば「IT人材も社内業務が分かるヒトもいないけど、プロジェクトを成功に導いてほしい」といった具合です。

 このような状況で「(ローコード)×(内製化)=(日本躍進の秘密兵器)」になるのでしょうか?DX 365 Lifeの第4回となる本稿は、Microsoftのローコードソリューションである、「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)について解説します。

この連載について

 本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。

筆者紹介吉島良平(Chief Operating Officer)

約20年にわたって日本を含む31か国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任。

Microsoft Regional Director

Microsoft MVP for Business Applications

Blog: DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog



”Power Platformの位置付け”

 連載第2回では「ERP」(守りのDX領域=生産性向上)について、第3回目は「CRM」(攻めのDX領域=価値創造)について解説しました。Mixed Reality(複合現実)やAI(人工知能)、そして今回紹介するPower Platformは、Microsoftのビジネスアプリケーション群の中でDXを加速化する中核といえます。

図1 (出典:2022年Buri Kaig筆者作成資料)

 DXは、われわれが市場のニーズに合わせてビジネスモデルや業務をスピーディーに変えていくために必要なデジタルを活用したオペレーションや組織文化、風土であり、企業変革そのものだと筆者は考えます。

図2 (出典:IT人材白書2023)

 DXの取り組みで結果が出ていない場合は、「DX戦略の上位に経営戦略を定義しているか」「DX戦略を経営戦略の実行エンジンと考え、『守りのDX(生産性向上=連続的なDX)』『攻めのDX(価値創造=破壊的なDX)』を事業戦略の両輪の活動として継続しているか」を確認しましょう。

 また、サイロ化された組織やオペレーション、データがDXの阻害要因になっている場合は、以前に解説したMicrosoftビジネスアプリケーション群の導入や社内の文化・風土の変革も有効です。

 「日本人は変化に弱い」と酷評されることがあります。この背景には「規則正しく生きる国民性」があるのでしょうか。それとも「行動の基準を他者のフォローを主体にした『利他主義』があるのでしょうか。ラグビーでは攻撃も守備も陣形を整えて事前の決め事通りにプレーする”ストラクチャー”な戦い方と、型や決め事に捉われず状況に応じて柔軟に判断し、各自が主体的に行動する”アンストラクチャー”な戦い方があります。

 日本でも人気のあるニュージーランドの代表チーム「All Blacks」は、アンストラクチャーな状況で強みを発揮すると言われます。組織力も大切ですが、世界で戦うには個人の力の底上げも重要です。サッカーの世界でも海外でプレーする日本人選手から同様のコメントをよく耳にするようになりました。スポーツやビジネスの世界でも、規律と自立のバランスの中でキャリアを築いていくことがますます必要になっていくでしょう。

 本稿はDXを加速化する事業戦略として、アンストラクチャーな状況においてノールックパスを出せる強固な「DX」(Developer Experience)を作り上げることがいかに企業の競争優位性にインパクトを与えるかを紹介します。

”自社の戦力を理解せずに敵に闘いを挑むのは難しい”

 Power Platformには、可視化や分析を行うBIツールとして「Microsoft Power BI」(Power BI)があります。Gartnerは分析とビジネスインテリジェンスプラットフォームのリーダーとしてPower BIを高く評価しています。

図3 (出典:Gartnerの資料)

 経営陣にとって重要な数字を表すBIツールがNo.1の評価を得ているので、それにネイティブにつながるPower Platformや「Microsoft Dynamics 365」(CRM/ERP)を選定する企業が増えるのは当然かもしれません。

 筆者は攻めと守りのDXを戦国武将のものに例えて説明することが多く、自国の「兵数」(農兵、足軽、騎馬)、「武将数」「兵糧収入」「農地」「生産性」「肥沃度」「治水」「人口」が不明だと戦に向けての戦略立案は難しいとお伝えしています。

 例えば従業員のスキルやスケジュールが分からなければ、新たなフィールドサービスやプロジェクトサービス、事業を起こすチームを立ち上げる場合に誰かの「鉛筆なめなめ」や「勘ピューター」に頼ることになります。

 売上実績や予算、案件の売上見込み、受注率などが可視化されていなければ、「あといくらで目標達成なのか」「どの案件に注力すべきか」「営業担当者の誰を重点的にサポートすべきか」などの動き出しに時間を要します。サイロ化されたデータを特定の個人が収集して「Microsoft Excel」(以下、Excel)で頑張ってPivotするようでは関係者が主体的に動き出すことは難しく、ノールックパスは出せないし受け取れません。

図4 (出典:Microsoftのセミナー資料)

 テレワークとオフィスワークのハイブリッドというアンストラクチャーな状況下でデータに基づいた判断をする企業文化を作るためには、全従業員が活用できるBIが必要です。世界の90%のデータはこの3年で生成されてきたものです。現時点でBIの活用が遅れていてもこれから取り組めばいいのです。ただし、迅速に取り掛かることは重要です。データは企業の武器になります。

 筆者がこれまでPower BIを構築してきた中で、コロナ禍における稼働工数分析は特に役立ちました。自分やチームの稼働実績、傾向などの分析からプロアクティブで主体的に動き出せました。現場担当者に投資した組織は平均4倍近い投資収益率を実現するとも言われます。変化の激しい時代に企業が最も投資すべきは企業の原動力である従業員なのです。

図5 (出典:筆者のDirections Asia登壇資料)

 閾値を定義しその値をキーに通知する機能「Power BI Metrics」は現在、「Power BI Pro」のライセンスに含まれています。「Power BI Desktop」で構築したレポートをPower BIのSaaSであるPower BIサービスに発行しますが、共有する場合にはPower BI ProもしくはPower BI Premiumの有償ライセンスが必要で、高度のAIやデータマートなどの機能を利用する場合はPower BI Proの上位版ライセンスPower BI Premiumが必要です。

図6 (出典:MicrosoftのWebサイト

 新たなアプリケーションや言語を習得せずに、Excelの全てのクエリやデータモデル、レポートを簡単に流用し魅力的な対話型ダッシュボードを作成できるのもPower BIの利点です。

図7 (出典:筆者のPower BI Desktop)

 Microsoft 365を普段から利用するユーザーであれば、Excelのクエリやデータモデル、レポートをPower BIダッシュボードに接続し、Excelのビジネスデータの収集や分析、公開、共有が迅速にできるので、アンストラクチャーな状況になりがちな働き方でもスピーディーな可視化と分析を武器に必要なインサイトをチームで掘り下げられます。その結果、ノールックパスを送ることもできます。まずは自社のリソースを可視化することで、今までにない気付きや盲点に巡り合えるかもしれません。

 また、Power BIは経営指標を可視化する用途だけでなく、セミナーのパンフレットラグビーワールドカップのような世界的なイベントアンケートの調査結果などの可視化にも便利です。

図8 (出典:筆者の講演資料)

 さまざまなデータソースから作ったレポートを多様なデバイスで利用できるPower BIはアンストラクチャーな働き方に合ったツールといえます。

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