“2024年問題”からIT企業のサステナビリティ経営を考える(Microsoftのパートナーが果たすべき真の役割)DX 365 Life(8)(1/2 ページ)

物流業界で課題になっている2024年問題はIT業界でも当てはまると言えます。これらを踏まえ、私たちはどのような取り組みを進めていくべきなのでしょうか。

» 2023年07月28日 08時08分 公開
[吉島良平ITmedia]

 前回(第7回)はMicrosoftのビジネスアプリケーション群に関わることで得られるキャリアについて解説をしました。第8回となる本稿は、Microsoftのビジネスアプリケーションを活用し、日本でビジネスを行うパートナーがいかに「継続的なデリバリー」に挑戦しているか、そしてMicrosoftの年次パートナー向けイベント「Microsoft Inspire」の最新情報の一部を紹介します。

この連載について

 本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。

筆者紹介吉島良平(Chief Operating Officer)

約20年にわたって日本を含む31カ国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任、2023年7月よりTechnosoft Japan Co., Ltd.のPresidentを兼務。

Microsoft Regional Director

Microsoft MVP for Business Applications

Blog:DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog



物流業界だけじゃない、IT業界も真剣に考えるべき2024年問題

 本連載の第5回で「労働供給制約社会がやってくる」と紹介しました。読者の皆さまは自動車運転業務時間の上限が年間960時間以内に制限されることで起こる「2024年問題」をご存じでしょうか。

 物流は社会経済や私たちの生活を支える社会インフラです。しかし、オンライン販売ビジネスの成長や担い手不足、カーボンニュートラルへの対応など、さまざまな課題に直面しています。

 2024年度にはトラックドライバーの働き方改革などを含む、物流業界を魅力的な職場環境に変革するための法律が適用されます。仮に何も対策を講じなければ、2024年度には輸送力が14%、2030年度には34%不足すると予測されます。

 経済産業省と国土交通省、農林水産省は2022年9月、「サステナビリティ経営」「持続可能な物流の実現」に向けて、関係省庁や有識者から成る検討会を設置しました。

 検討会では自動車運転業務時間の制限によって生じる物流への影響や物流プロセスの標準化、効率化を推進するための議論を繰り返し、2023年6月16日の11回目の検討会で終了しました。「序族可能な物流の実現に向けた検討会 最終とりまとめ(案)」が公開されてますので、興味のある方はご確認ください。

 IT業界も2024年問題に向き合う必要があります。同類の課題に直面しているからです。Microsoftの製品を例に説明すると、同社は製品を工場から出荷し、私のようなMicrosoftパートナーが製品に付加価値を付けてクライアントに届けます。私たちはIT業界における物流業者同様の立ち位置といえます。年間の自動車運転業務時間が960時間ということは、月で80時間です。IT業界に置き換えると、0.5人月の稼働(1カ月を20日、1日8時間労働と仮定)に相当します。当然、このような制約があると、一人当たりの収益も減少し、システムインテグレーターなどの売上は格段に落ちるでしょう。

 年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については使用者が時期を指定して取得させることが2019年4月に義務化されました。

 36協定では、臨時的で特別な事業がない限り、月45時間、年360時間の限度時間を超えてはいけないルールになっています。限度時間が適用除外、猶予されている事業や業務(新技術、新商品の研究開発など)についても、労働者の健康や福祉を確保することが義務付けられています。

 労働供給制約社会が到来し、物流業界のように働く時間を厳しく制限される場合、IT企業はどのように収益や従業員の作業効率を上げるべきなのでしょうか。

求められるビジネスモデルの変革

 収益と作業効率を上げる一つの方法として、使用量に基づいた課金システムを採用したビジネスをスタートさせることです。これは企業の収益を安定化させるのに適したビジネスモデルの一つです。しかし、新たなビジネスには初期投資が必要で、利益確保までには時間が必要です。自社の注力領域の強化につながる新たな取り組みであれば最良の選択といえます。

 Microsoftのビジネスアプリケーション領域では既に多くのパートナーが活躍しており、最近の同社の株価上昇を鑑みるに、これからもパートナーの数は増加するでしょう。「Microsoft Cloud Partner Program」(MCPP)に参加すれば、Microsoftがビジネスの拡大を支援してくれるため、後発だからと心配する必要はありません。

MCPPについて(出典:MicrosoftのWebサイト)

 ここからは「持続可能な物流の実現」の検討会で議論された内容をIT業界に重ねながら考えます。

商慣行の見直し

 商慣行は利害関係者間の経緯や先例によってつくられてきましたが、社会や時代の変化に応じて見直しが必要です。

 ただ無駄の削減を目的にするのではなく、取引先やクライアントとの関係性構築やコミュニケーションの強化といった観点から従来の方法を見直しましょう。まずは業務を洗い出し、改善すべき事項を社内で議論します。その上で取引先や、商慣行の必要性を検討しましょう。見直しのメリットを双方で把握し、取引先から理解を得ることはその後の関係を維持するためにも重要です。

業務の効率化

 業務の効率化で初めに取り組むべきことは「長時間労働につながる取引慣行の見直し」です。読者の皆さまの会社では、従業員がどのタスクにどれ程の時間をかけているか把握していますか。

 プロジェクトや開発、保守、R&D(研究開発)などは月次決算で計算するため、稼働を分析している企業が多いようですが、営業やマーケティングなどではそうはいきません。筆者の経験だと、稼働データの可視化は働き方改革にとても効果的です。見えないものを議論するのは難しく、見えるものであればそれらへの改善計画や実行が社内に浸透しやすくなります。「時間=お金」と思って可視化すれば、現場や経営側からの協力が得やすくなります。この内容については筆者が前職時代に実際に取り組んだものを「YouTube」で解説しています。興味のある方は参考にしてください。

 個人的に一番大切だと感じているのは「社内のコミュニケーションの在り方」です。筆者の知人の会社では「意見や議論ができる環境づくり」に取り組んでいます。従業員がやりたいことや気付いた事をいえるように、管理職にはそういうフィードバックの封殺を禁じています。管理職と社長の1on1のミーティングもあるようです。こういうコミュニケーションレベルを維持、改善できると、システム刷新や戦略的事案の推進もうまく進む可能性が高くなります。

 幾つかのMicrosoftのパートナー企業に継続的なデリバリーを行うために実践していることを聞いてみました。以下がその答えです。

 例1:「ローコード領域の伴走支援に関しては、『Backlog』を顧客にも開放し、起票や回答を相互で確認ができるようにしています。そのデータをデータベースに連携し、統合ナレッジベースとして活用しています。また、FAQ的なもので回答効率を上げています。 今は『Microsoft Power BI』で検索できますが、今後はOpen AIのサービスを絡めて自然言語で回答したいです」

 例2:「『Microsoft Dynamics 365』や『Microsoft Power Platform』はSaaSとしての活用割合が高いので、春と秋のメジャーアップデートに向けて学習を進めています。新しい機能の把握や既存のアセットへの衝突がないかどうかを調べ、正しい提案や導入、保守を継続して行うために手は抜けません」

 IT業界は実労働時間や所定外労働時間が他の産業に比べて高く、過重な業務負荷による脳や心臓疾患、精神障害も多い業界です。気分転換は大切です。厚生労働省のWebサイトの「雇用・労働」のページには「取引条件改善など業種ごとの取り組み」、IT産業における「働き方改革」の実践ついての参考になる記述があります。働き方・休み方に関する資料にも有益なデータがあります。人事や経営者には大切な指標になるでしょう。

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