CRM/ERP、ローコードで可能なキャリアアップとは(Microsoftのビジネスアプリケーションーキャリアアップ編)DX 365 Life(7)(1/2 ページ)

Microsoftのビジネスアプリケーションはあなたのキャリアをどのように変える可能性があるのでしょうか。

» 2023年06月29日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]

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 Microsoftのビジネスアプリケーションが日本で使われるようになって20年以上がたちました。さまざまな企業がMicrosoftのCRM・ERPの「Microsoft Dynamics 365」や、ローコードソリューション「Microsoft Power Platform」を活用しています。読者の中にも日々の業務で利用している方や、導入支援側でコンサルティングを行っている方もいるでしょう。筆者もこれまで、30カ国以上で100を超える企業とMicrosoftのビジネスアプリケーションに関わるプロジェクトを経験してきました。

 一般的に外資系ソリューションは日本人が好む美しいレイアウトの帳票が採用されておらず、使い勝手も悪いと耳にします。そのため、日本固有の要件や慣習を満たす「ローカライズ機能の充実」が日本でのユーザー獲得には欠かせません。

 一方、外資系ソリューションはデータ抽出が容易であることが多く、ユーザー側でレポーティングを内製化する仕組みは作りやすいようです。「外資系と日系のどちらのソリューションがいいのか」という疑問については、利用される企業の導入目的やプロジェクト体制、既存のITインフラとの相性、予算などによるため、企業の中での議論が重要になります。

 前回(連載第6回)は「ビジネスアプリケーションの学び方やITコミュニティー」を解説しました。本連載では過去6カ月にわたり「IT人材の育成」「ITを内製化することの大切さ」「Microsoftのビジネスアプリケーションがいかにビジネスの成長に貢献するのか」を伝えてきました。第7回となる本稿では、Microsoftのビジネスアプリケーションによって「個人がどのようなキャリアを築けるか」について、筆者の経験も踏まえながら解説します。

この連載について

 本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。

筆者紹介吉島良平(Chief Operating Officer)

約20年にわたって日本を含む31カ国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任。

Microsoft Regional Director

Microsoft MVP for Business Applications

Blog:DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog



 Microsoftのビジネスアプリケーションでは春と秋にメジャーアップデートがあり、新たな機能を随時活用できます。最近では「Copilot」(副操縦士)というAI(人工知能)機能などが追加され、導入支援側にいる場合はこれらの最新情報を学び続けるだけでもマーケットで必要とされる人材になれます。利用者側でアップデートされる機能をタイムリーに身に付けるのは難しいですが、第6回で解説したようにライフスタイルに合わせて学び方を選択するといいでしょう。

語学力を強化することで得られるキャリア

 「グローバルに仕事をしたい」と考える方もいるでしょう。一般的に外資系ソリューションに関わりながら日本で仕事をする場合は「ローカライゼーション(商習慣機能)の拡充」、海外で仕事をする場合は「海外ベンダーやユーザーとのコラボレーション」など、多言語(特に英語)に触れる機会が多くあります。

 英語なんてそのうちAIが何とかしてくれる――。このように考えている英語が苦手な方もいるでしょう。近視眼的な期待値としては可能性もありますが、語学はできるに越したことはなく、上達すると仕事の幅が広がります。

 語学にチャレンジするなら若いうちです。怖がる必要はありません。英語を使う場に身をおけば意外に何とかなりますし、その経験を積む期間が長いほど上達します。語学は努力の結果が確実に出る領域なので、真剣に取り組む価値があります。

ソフトウェアのローカライズに関わることで得られるキャリア

 外資系ソリューションを日本市場に展開する際、重要なポイントになるのが「ローカライゼーション」です。ローカライゼーションのプロになるという選択肢もあるでしょう。

日本語へのローカライゼーションは難しい(筆者作成)

 一般的にソフトウェアのローカライゼーションには「日本語翻訳」「日本商習慣対応機能開発」「各種関連資料作成」などが必要です。翻訳作業は結構厄介で、“製造業のモノづくり”そのものです。筆者はこの業界に入る前、翻訳のコーディネーターとしてITソフトウェアのローカライズに関わる仕事をしていたことがあり、今まさにその経験が役立っています。

翻訳作業は製造業のモノづくりそのもの(Trados StudioのWebサイトを基に筆者作成)

 大きなシステムの翻訳では「Microsoft Excel」をワークスペースにするには限界があり、翻訳業界で名の知れたTradosやLionbridgeのサービスを活用するのも、翻訳の品質を確保するために大きなメリットがあります。

 日本語への翻訳が難しい例として、「Payment」という単語を紹介します。Paymentは日本語で「支払」「入金」といった意味があり、これらを“システム処理に合わせて”翻訳する必要があります。業界知識が必要なのはもちろん、使い方やUI・UXの理解が欠かせません。また、活用シーンが分からなければ正しく訳せないことが往々にしてあります。そのため、翻訳テキストをシステムに取り込んでから「機能テスト」「結合テスト」「ユーザーテスト」を実行し、品質を上げる手順を踏むことが正攻法です。

品質を上げる手順を行う(筆者作成)

 ローカライゼーションには時間と深いスキルが要求されるので、この道の第一人者になると自社のR&D(研究開発)チームにおいて重宝される人材になるでしょう。

ファイナンス/会計知識の習得から得られるキャリア

 MicrosoftのビジネスアプリケーションのCRM(SFA)に関わっていると、「見積もり→受注→請求」とプロセスが遷移(せんい)し、売り上げの仕訳データを他の会計システムに連携もしくは同シリーズ内の「Dynamics 365 Finance」や「Dynamics 365 Business Central」に連携させ、入金消込までの一連の会計データ生成を実務で学べます。CRM側では分析コード別(顧客グループ、商品分類、営業担当、地域など)の売り上げや粗利などについて、経営レポートの作成といった経験ができます。

 エンタープライズ向けのERP(基幹統合業務パッケージ)である「Dynamics 365 Finance & Supply Chain」や、中堅中小企業向けERPであるDynamics 365 Business Centralの導入に関わる方は、各業務で生成される会計仕訳から顧客の月次決算に必要な財務諸表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書など)を作成します。ERPコンサルタントは携わるパッケージソリューションはもちろん、各々の業務にとても詳しくなります。そのうち、顧客のWebサイトを見るだけで、顧客の業務とそこから自動生成される管理会計指標が付帯した仕訳データを頭の中で瞬時にまとめられるようになります。また、監査やレビュー、デューデリジェンスなどの対応でも管理部門から頼りにされます。このように、あらゆる業務を理解できるERPの導入や保守に関わることは、将来皆さんが担うであろうマネジメント業務に必ず役立ちます。

 筆者は「ITや語学、ファイナンス/会計の知識を持つグローバル人材が、他国に比べて日本には少ない」と感じています。会計や経理業務を苦手と思わず知識を身に付けることは非常に重要です。簿記から学びたいという方には「最速簿記/最速FPのYouTubeサイト」などもお薦めです。

グローバルネットワークを構築することで得られるキャリア

 「海外で働きたい」という方には、「海外企業の現地法人で働く」「日系企業の海外現地法人に出向する」「海外のシステム導入を手掛ける」といったアプローチがあります。

 グローバルに働くのは大変なことです。海外に赴任すると現地の仕事に加え、本社が日本であれば日本との会議や日本向けのレポートを作成する必要があるからです。北中南米の時間軸で勤務すると、日本との時差に悩まされます。また、赴任直後は言葉の問題に加え、現地のビジネス環境や商習慣を理解しなければなりません。「日本の常識」は通用しません。法人設立当初や企業買収の直後に日本のやり方を持ち込むと、現場におけるビジネススピードの低下や人材流出につながります。「現地化」が重要なキーワードです。

 Microsoftのビジネスアプリケーションで現地法人のシステムを構築する場合はどのような学びやメリットを得られるのでしょうか。ユーザー企業にいて現地に赴任する場合、ITの経験がなくても現地の管理業務の一環でシステム構築や導入に巻き込まれることがあります。

グローバルでのシステム導入における課題(筆者作成)

 現地では十分なリソース(ヒト・カネ)や時間がないケースがありますが、その中で結果を出すことが必要になります。現地の導入パートナーと協業すれば現地の会計や税制などを学ぶことができ、パートナーを管理する機会があればプロジェクト管理能力や語学力向上が期待できます。

 経験がないと最初は大変な思いをするでしょう。しかし、プロジェクトを現地のパートナーと共に成功に導くと、貴重な経験を得られるのはもちろん、プロジェクトに関わったメンバーとの絆が深まり、一生続くネットワークになります。グローバルの知見が深くなれば次の赴任先も日本以外になることが多く、結果としてグローバルでビジネスを行うプロとして日本本社からも評価されます。

 筆者も前職時代、ある国でお世話になった方が別の国の担当者になるということが多々ありました。素晴らしいキャリアを築いている方に共通しているのは「語学力」に加えて「人間力」です。各国の文化を知り、その国で生活している人をリスペクトする。これを普段からできている方は常に成功体験を得ています。

 システム構築を担当するベンダーの方にとっても、現地のパートナーと過ごす時間はプライスレスです。複数の国で導入を経験すると「国が変わってもやることは同じだ」と気付くでしょう。英語圏以外の国でプロジェクトを行う場合は互いに母国語でない英語を使うので、「自分の伝えたいことは半分も伝わらない」と思ってください。

 語学に自信がなくても「伝えようとする努力」「理解しようとする努力」が大切です。これは語学力よりもコミュニケーション能力です。英語ができればプロジェクトを成功に導けるわけではなく、お互いをリスペクトして時間を大切に使うことで、チーム内の「ノールックパス」や「ノールックキャッチ」ができるようになっていきます。ぜひ、グローバルにDC(Developer Community)を創り上げてください。必ず良いキャリアになるはずです。

Microsoft Partner-VAR(Value Added Reseller)/ISV(Industrial Solution Vendor)で得られるキャリア

 筆者はMicrosoftのビジネスアプリケーション領域のパートナーVAR(Value Added Reseller:付加価値再販業者)であるパシフィックビジネスコンサルティングに20年間勤務していました。業種業態を問わず導入や開発、コンサルティングを経験し、ありとあらゆる知識を身に付けました。

 一方、各業種業態の知識は浅いと感じます。それを差し引いても多くのビジネスプロセスをユーザーから学び、多くの国でシステム構築したことはとてもいい経験です。さまざまな国の商習慣を学んだことや海外パートナーとのネットワーキング、グローバルイベントでのプレゼン経験、業種別ソリューションの開発、日本やアジア数カ国の商習慣に対応したローカライゼーションの開発、IT業界特有の工数管理と可視化、IT業界のビジネスプロセスの構築に関われたことは人生の財産です。

 現在は自動車業界の車両販売や車両サービス(Dealer Management System:DMS)をビジネスのコアにするMicrosoftのビジネスアプリケーション領域のパートナー企業Technosoft Automotive(ISV(Independent Solution Vendor:業界別ソリューション開発ベンダー))に勤務していますが、前職との大きな違いは業界知識の深さが求められることです。

 自動車業界はディーラーのエージェンシーセールスモデルの変革やジェネレーティブAIへの対応、ローコードを活用したソリューションの開発要望の増加、カーボンニュートラルなど、変化が非常に速いです。また「オートモーティブ業界の小売システムはこうあるべき」という定義も非常に重要です。「乗り物=ソリューション」「交通ルール=導入・開発手法」「運転手=コンサルタント/エンジニア」の3点セットを自動車業界に適した仕組みとして顧客に届ける必要があります。

Technosoft Automotiveのソリューション(筆者作成)

 OEMの販売会社で利用するSAPとDMSの連携はもちろん、近年はOEMの販売会社にMicrosoft Dynamics 365 Finance and Supply Chainを導入し、それをディーラー側に構築したDMSと連携させるプロジェクトも出てきており、前職での経験をフル活用しながら業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)実現に取り組んでいます。

Technosoft Automotiveソリューションの連携イメージ(筆者作成)

 Technosoft Automotiveに入社以降、自社開発のソリューションであるディーラーマネジメントシステムを構築するために必要なビジネスプロセスは理解しましたが、OEMやディーラーのような車両に関する知識が足りないため、今後は整備の学校に通わないとダメかなと考えています。

オートモーティブ業界に必要なデータ連携と今後の展望(筆者作成)

 未来を見越して時代のニーズを先取りすることは、商機を勝ち取るビジネスマンには欠かせません。Microsoftのビジネスアプリケーションに関わると、同社の製品やサービスの知識だけでなく、包括的な経験を積むチャンスがあります。国内外のパートナーで働きたいという方は、各パートナーの人材募集要項を確認してください。

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