導入事例から学ぶ、他社のDXの取り組み状況(Microsoftのビジネスアプリケーションー導入事例/「ONE TEAM」編)DX 365 Life(9)(2/3 ページ)

» 2023年08月31日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]

事例2:Dynamics 365 CRM/ERP・Power Platform導入事例 「全従業員が同じ目線で経営を議論できる企業風土を醸成」

 パナソニックソリューションテクノロジーは、自社の目標達成に向けてMicrosoft製品を活用しています。最適な製品選択や生産性向上、データ活用のためのシステムアーキテクチャの構築など、多くの企業の手本になる導入事例です。同社は約半年の検討期間を経てプロジェクトに着手し、約2年間で結果を出しました。

 同社が製品選定で注目したのは「多重入力が無くなるかどうか」です。機能面での検討も重要ですが、近年重要視されている「アプリケーションのコンポーザル化」においては、“アプリケーション間のデータ連携”が肝になるため、リアルタイムでデータを同期できる「Dual-write」(二重書き込み)が重要でした。

パナソニックソリューションテクノロジーの取り組み(出典:パナソニックソリューションテクノロジーの提供資料)

 CRM領域とERP領域の連携では、マスターや伝票関係の連携が不可欠です。この業務シナリオを補完するDual-Writeはシステムアーキテクトを考える上で重要です。今後、多くの企業で参考になるアプリケーションのデザインパターンといえます。

 パナソニックソリューションテクノロジーは、プロジェクトで結果を出したメンバーを評価する仕組みを持っています。

パナソニックソリューションテクノロジーにおける評価制度の一例(出典:パナソニックソリューションテクノロジーの提供資料)

 表彰などの取り組みは大きな意味を持ちます。現場の取り組みに対して全社的に共感し、慰労できる組織は強くなるからです。このような取り組みは企業努力のたまものであり、多くの企業の参考になるでしょう。

パナソニックソリューションテクノロジーにおける評価制度の一例(出典:パナソニックソリューションテクノロジーの提供資料)

 パナソニックソリューションテクノロジーの導入を担当した日本ビジネスシステムズは、Dynamics 365やPower Platformの開発を得意としています。

事例3:Microsoft 365、Teams・Dynamics 365 ERP、Power Platformのグローバル導入事例 「海外38拠点でDynamics 365を導入」

 ある製薬企業は、世界38拠点でDynamics 365を導入しました。注目すべき点の一つ目は「製薬業界でデファクトだったERPではなく、『Dynamics 365 Finance and SCM』を選定した」点です。

 日本企業は“初物”の導入といったリスクを取らないことが多いですが、同社はチャレンジし、結果を出しました。CSV対応に関する業界ルームも多岐にわたるため、試行錯誤しながら仕組みを構築しました。国別の商習慣に合わせてシステムを導入し、開発、保守できるMicrosoft製品の強みを生かしながら、38拠点という規模でのプロジェクトを成功させました。

 2つ目の注目すべき点は、他のRPA製品を使うのではなく既存のMicrosoft製品との連携をPower Platformで実現し、「Microsoft Teams」(以下、Temas)によって、チームのコミュニケーションを活性化したことです。セキュリティ対策にも「Azure Sentinel」やAI(人工知能)を活用し、“攻めのDX”に向けた基盤整理を進めています。

アバナードによる導入の一例(出典:アバナードのWebサイト)

 同社のグローバルにおけるシステム導入を担当したアバナードは、海外拠点を生かしたグローバルプロジェクトの遂行が得意です。Microsoft製品の包括的な導入や開発、管理もできるので、Microsoft製品でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進したい企業には重要なITベンダーになるかもしれません。

事例4:Power Platformの導入事例 「生産現場のデジタル化、市民開発者の育成」

 花王は製造記録表や設備、分析機器の検査記録表、原材料の在庫管理カード、危険物の保管リストなどのペーパーレス化に取り組みました。花王を含む製造業の現場管理者は、“現場視点”な施策導入やデジタル人材育成という目標を掲げており、同社の事例は有益です。

花王が取り組んだデジタル化(出典:花王の提供資料)

 花王では市民開発者が国内10工場で260以上のアプリ開発に携わっています。筆者はそんな花王の事例紹介の中で、以下の文章に着目しました。

 「取り組みの中で、多くの人の協力や理解を得られたことが大きいです。アプリを導入する際、現場の作業員は導入の目的や意義を学ぶために学習が必要でした。日常業務の一部を中断する必要がありましたが、周りの従業員は協力的で、その重要性を真摯に理解してくれました」

花王が取り組んだデジタル化(出典:花王の提供資料)

 筆者は花王の取り組みがまさにONE TEAMだと感じます。市民開発者の育成を組織でフォローし、良い結果につなげました。日本が労働供給制約社会に向かう中で、IT人材は更に枯渇します。業務を熟知し、改善アイデアを多く持つ現場の従業員が自ら手を動かし、アプリを開発しようとする組織風土は重要です。

 本連載で伝えてきた「Developer Experience」の文化を生産現場で育まなければなりません。それによって、花王は300種類以上の在庫管理カードを電子化し、和歌山工場での原材料の在庫管理作業時間を480時間も削減しました。

 見逃してはいけないのが次の発言です。

 「Power Appsの普及で、市民開発者が一から学べる環境が整いました。ITの知識が少ない開発者にはありがたく、アプリ開発は今後の必須スキルになると思います」

 現場でアプリ開発が必須のスキルになると宣言されています。これは「Growth Mindset」(グロースマインドセット)といえるでしょう。このような意見は周りの従業員にもプラスの影響を与えるはずです。

事例5:Dynamics 365 Finance、Power Automate、Azure MLの導入事例 「入金消込AIシステムの構築」

 続いては複合機ビジネスからソリューションビジネスへの移行を目指す富士フイルムビジネスイノベーションです。同社は「製品・サービスDX」を軸に、バックオフィスの変革を図る「業務DX」、人材の育成を担う「人材DX」の3本柱を掲げました。同社はDynamics 365のCRMとERP、Azureを中心にクラウド化を推進し、業務とシステム間のギャップを、Power PlatformやMicrosoft 365を活用して解消しました。

 同社はAIを使う業務シナリオを考える中で、「入金消込業務への活用」を重要視していました。従来は毎月10万件を超える入金があると、売掛金明細(得意先元帳)を手動で消さなければならず、非効率でした。事例紹介の中にも記載がありますが、「1件の入金に対して、120万枚の請求書の中から10枚をひも付ける作業」は考えるだけでぞっとします。

 富士フイルムビジネスイノベーションはAzureにある仮想マシン(VM)や「Azure Storage」「Azure Machine Learning」「Azure コマンド ライン インタフェース」(Azure CLI) を利用してシステム構築し、RPAを介してAzureやDynamics 365と連携するシステム設計を採用しました。

富士フイルムビジネスイノベーションの入金消込サービスの概要(出典:富士フイルムビジネスイノベーションの提供資料)

 自動入金消込処理はミスが許されない重要なプロセスで、AIを活用しても完璧にはできないため、人による作業も残っています。

富士フイルムビジネスイノベーションにおけるAI活用の変化(出典:富士フイルムビジネスイノベーションの提供資料)

 この事例で注目したのは次の文章です。

 「現場とのヒアリングの中で、システムの精度に直結する“特徴”を見つけ出し、違和感のある部分に関しては『こういったパラメータが必要なのでは』という議論を重ね、アジャイル的な開発サイクルでAIの改善を進めました。業務部門と技術部門の密接なコミュニケーションが効果を発揮しました」

 現場におけるベテラン従業員の勘と経験を取り入れながらシステム設計するのは難易度が高いです。プロジェクトチームのメンバーが互いに補完し合いながら取り組みを推進したのだと思います。

 「従来の入金消込業務ではツールの導入やロジックの適用で66%の入金が自動消込できていたが、本プロジェクトで残り34%の手動消込分も効率化を実現」「PoC(概念実証)の段階では手動消込作業の約10%を自動化する目標だったが、技術部門や業務部門などが改善を重ね、現在は約20%の自動化を達成」「自動化した部分以外で7割を超える正解率で消込候補を出すことができ、手動処理の時間を短縮できた」といった結果が生まれていることも素晴らしいですが、今回の取り組みで「バックオフィス業務の効率化におけるAIのコア技術を獲得」できたことは、自社での試みをクライアントに外販できる攻めのDXの武器を得たといえるでしょう。

 富士フイルムビジネスイノベーションは業務ロジックの組み込みやセキュリティポリシーへの適用が必要だったため、独自AIを開発しました。AzureのVMやAzure Storage、Azure Machine Learning、Azure CLIを活用してシステムを構築いた経験は貴重です。AIを活用した入金消込が必要な企業も多いので、他の企業でも同ソリューションの活用事例が出てくるでしょう。

Microsoftのビジネスアプリケーションの導入事例(出典:日本マイクロソフト社のWebサイト)

事例6:Dynamics 365 Sales、Customer Service、Field Serviceの導入事例 「日本全国165カ所のサービスネットワークに順次展開、本格運用」

 UDトラックスは国内約6万台のトラックの情報を24時間365日体制で収集しており、アフターセールス領域にも注力しています。筆者は以下の2つの文章に注目しました。

 「カスタマーセンターに勤める従業員が顧客対応する際、作業指示書や請求書の作成、次回の整備予約など、複数のシステムで作業が必要でした。仮に単一のシステムで作業を完結できれば、現場作業を効率化できます。さらに、単一のシステムにあらゆるデータが集約されれば、データに基づいた意思決定が迅速に行えます」

 「車検がこれだけのビジネスになっている国は日本だけです。今まではグローバルで利用している業務システムに改修を加えて対応していましたが、それでは限界でした。そこで、日本の商習慣に合った新たな顧客情報管理プラットフォームを探しました」

 データを1つのプラットフォームに集約する、必要な日本の商習慣に対応するというのは正しいアプローチです。そして機能や信頼性、費用の面からDynamics 365を選定しました。「Dynamics 365 Customer Service」「Dynamics 365 Sales」「Dynamics 365 Field Service」をシームレスに連携させ、同社のアフターマーケットを支えるプラットフォームの構築に成功しました。

UDトラックスが目指すデジタル化(出典:UDトラックスの提供資料)

 UDトラックスの経営者は導入事例の中で「現場での活用が進み、Dynamics 365にデータが集約されることで、より先進的なDXが可能になります。最終的にUDトラックスがお客さまやステークホルダー、現場の『Better Life』を実現するのが私たちの目標です」と話しています。企業の存在意義とシステム刷新プロジェクトのゴールがリンクしています。各自が企業の「パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー」(PMVV)に立ち返りながら、プロジェクトを推進したことで作り上げられた導入事例だと感じます。

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