人はなぜ「生成AIへの無駄な投資」で失敗するのか バズる技術の落とし穴

急いで生成AIを取り込まなければ取り残される――。2023年、企業の技術投資はAIブームに振り回されっぱなしだった。だが、企業財務の責任者はバズる技術への成果が見えない投資を危惧している。

» 2024年02月05日 08時00分 公開
[Grace NotoCFO Dive]

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CFO Dive

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は2023年の企業にとって最重要課題だった。中でも特にOpenAIの生成AI(人工知能)エンジン「ChatGPT」の発表後は、新技術の可能性をいち早く活用しようとする企業の間でDX投資が活発化した。

 しかし、企業は単にそのためだけにテクノロジーに投資するというワナに陥らないことが重要だ。「むしろ、企業はCFO(最高財務責任者)の視点を持ってDXとテクノロジーの統合に取り組むべきだ」と、米国の技術系人材プラットフォーム「A.Team」の創設者兼CEOのラファエル・ウーザン氏は言う。

 ここで「CFOの視点」というのは、高い目標に到達しない可能性もある全社的なデジタル施策の実装を評価するのではなく、成果に焦点を当てたDX戦略を策定することを意味する。

 「製品エンジニアリングについて考えるとき、まずは結果から考える方が好ましい。CFOの視点に立てば、結果とはつまりROI(投資利益率)を示すものだ」と、ウーザン氏はインタビューで語った。

人はなぜ「生成AIへの無駄な投資」で失敗するのか バズる技術の落とし穴

 コンサルティング企業KPMGが2023年9月に発表した調査資料によると(注1)、企業におけるDXの優先順位は高くなっているが、多くのDX施策は明確なビジネス戦略ではなく、誇大広告に突き動かされて推進されている。同調査によれば、こうした取り組みの半数以上が失敗に終わっているという。

 生成AIに対する過度な無駄遣いは、多くの企業が直面する課題を象徴している(注2)。新興テクノロジーに追随する必要がある一方で、不透明な経済環境から抜け出し、確実に効率化を推進しなければならないという課題だ。

 「ROIをいち早く達成してインフレ環境下でも利益を増やす必要があるが、その裏では私たちが人生で経験したことのないようなスピードでテクノロジーが進化している」とウーザン氏は話す。

 2020年にニューヨークを拠点とするA.Teamを設立したウーザン氏は「企業のDX戦略全体にCFOの視点を適用することで、収益と技術投資のバランスを取ることができる」と語った。企業が結果に焦点を当て、必要に応じてスキルのある専門家を投入するといったアプローチを取れば、より大きな利益につながる可能性がある。

 「大規模なプロジェクトを実行するのではなく、より小規模なプロジェクトをこなすことで、より早く、より多くの変革を実現できる」と同氏は話す。

 「私たちはイノベーションに安易に飛び付かず、基本的にCFOの視点を持って『いま何が最大の問題なのか』を考えるアプローチを取っている。なぜなら、それこそがAIの最も直接的な価値提案であり、ビジネスケースだからだ」

トライ&エラーの繰り返しが効率性と革新性を高める

 CFO自身も、組織が技術への投資の在り方に対処する上で重要な役割を担っている。「最終的にCFOは、どのように価値を評価し、どこに投資すればいいかを他の誰よりもよく知っているからだ」とウーザン氏は言う。

 それにもかかわらず、経済の先行き不透明感から、多くのCFOは横ばいもしくは減少する可能性のある予算の中で仕事をしており、組織のコストセンターとイノベーションのための投資対象をより注意深く監視することを重視しがちだ。このような環境下で効率性と革新性のバランスを取ることを任務とするCFOにとって重要な課題は、ウーザン氏が「反復的な敏しょう性」と呼ぶ概念を学ぶことである。つまり、新しいテクノロジーを素早く実験し、価値を生み出すことだ。

 「これには発見の要素があると認識することが重要であり、特定のテクノロジーによるプロジェクトや製品能力の組み立てにおいて、将来的な収益やリスクを全て予見するのは、実際に実行し、反復してみるまでは不可能だ」と同氏は話している。

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