なぜ、P&G Chinaは「外資苦戦の地」で踏ん張れるのか? アリババが提唱する「ミドルプラットフォーム」とは?事例から見る「中国企業のDX」(1/3 ページ)

生まれた時からさまざまな商品に囲まれてきたZ世代にどうすればモノが売れるのか。P&G Chinaが「脱テレビ」「脱スーパーマーケット」「脱EC」世代に向けて実施した施策と、それを支える「4つのDX」、そしてアリババが提唱する「ミドルプラットフォーム」とは。

» 2024年05月17日 08時00分 公開
[周 逸矢野経済研究所]

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 ネットショッピング大国の中国だが、この4〜5年で韓国のE-MARTやフランスのCarrefour、Auchanといった外資系大手スーパーマーケットチェーンの撤退が相次いでいる。

ECサイトさえも敬遠する Z世代にモノを売るための「4つのDX」

 外資企業が撤退する背景には、アリババ(阿里巴巴集団)が提唱する「ニューリテール」戦略を採る新たな小売り業態の急成長があると筆者はみている。

 ビッグデータ、AIを武器として商品の生産や流通、販売の形態をアップグレードしながら業態構造、サプライチェーンを再構築して、オンラインサービスとオフラインの消費体験や物流経路などを深く融合することを特徴とする小売業だ。

 オンラインショップ(ECサイト)の開設や電子決済、有料会員店舗の設置、3キロ圏無料配達、30分以内宅配などを特徴とするアリババグループの生鮮スーパー「盒馬鮮生」(HEMA)や、高額割引を売りにするライブコマースがその代表例だ。

 これまで大手スーパーマーケットを主要な販売経路としてきた消費財メーカーは激しい競争にさらされるようになっている。

 2020年からの3年間、中国の一部の都市では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防止するためのロックダウンが実施された。これを受けた消費財メーカーにおいてはオンライン販売やマーケティングのオンライン化、生産無人(生産現場に人間の労働者を必要としない生産自動化)化、管理遠隔化などのDX(デジタルトランスフォーメーション)が浸透しつつある。

 従来型のスーパーマーケットを販路の軸とする消費財メーカーの中には低迷するところも現れた。P&G Chinaはこうした中でDXを武器に堅調に売上を伸ばしている消費財メーカーの成功事例の一つだ。

中国におけるP&Gの販売状況

 P&Gの中国進出は1988年に遡る。2024年1月時点で、同社は中国で主に以下の9カテゴリー、約30ブランド、数百点の商品を展開している。

図1 中国におけるP&Gの販売状況(出典:P&G China公式Webの情報を基に筆者が作成) 図1 中国におけるP&Gの販売状況(出典:P&G China公式Webの情報を基に筆者が作成)

 P&Gグループ全体の売り上げや大中華圏(greater china:中国本土の他、香港やマカオ、台湾を含む)の売上推移は下表のとおりだ。

図2 P&Gグループ全体の売り上げにおける売り上げの推移(出典:P&Gグループのアニュアルレポートを基に筆者が作成) 図2 P&Gグループ全体の売り上げにおける売り上げの推移(出典:P&Gグループのアニュアルレポートを基に筆者が作成)
図3  P&G Chinaの大中華圏(greater china)における売り上げの推移(単位:億米ドル)(出典:P&Gグループのアニュアルレポートを基に筆者が作成) 図3  P&G Chinaの大中華圏(greater china)における売り上げの推移(単位:億米ドル)(出典:P&Gグループのアニュアルレポートを基に筆者が作成)

 2020〜2022年度はコロナ禍の影響をポジティブに受けて、売り上げを伸ばした。2023年度は、中国経済の低迷やニューリテール業態間での競争激化などを理由に前年割れとなったが、同社の売り上げの増加にはDXが大きく寄与したと筆者は考えている。

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