製造拠点においては、先進センサーやロボット、運送AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)、立体倉庫、5G通信、遠隔制御といったデジタル化が進んでいる。これらによってフレキシブルな設計や生産、自動選択、自動出入庫、ダークファクトリー(スマート工場)などを実現している。
同社はコロナ禍前に物流網を見直し、従来の1層構造から2層構造に変更した。
第2層のFDCの用地を選定する際には、最適な場所を選ぶために過去の取引データを分析し、シミュレーションした。こうして、2020年に始まったロックダウン中も、同社の物流サービスは順調に機能した。
販売代理店(スーパーマーケットやEコマースメーカーなど)の販売データや在庫データ、運送データをリアルタイムに把握することによって運営状況の可視化や商品の欠品率の低減、顧客満足度の向上、在庫の削減、コスト構造の「見える化」、荷卸時間の短縮、物流リードタイムの縮小、トラブル発生時の追跡、デジタルツインによるサプライチェーンのモニタリングや診断、シミュレーション、将来予測などを実現した。
同社は今後、「千場千鏈」(千の需要に、千のサプライチェーン方式で対応する)を目標として、サプライチェーンのさらなる最適化を図る予定だ。
中国のZ世代では「脱テレビ」「脱スーパーマーケット」に続いて、「脱EC」が常態化しつつある。彼らに向けたブランディングをどうすべきか。従来のマーケティングツールは一切通用しないというのが筆者の見解だ。日用消費財全体がコモディティ化した昨今、商品を大量に売りさばくためにはコンテンツが必要だ。今のZ世代に興味を持ってもらえそうなコンテンツとして、筆者は次の2つが有効だと考えている。
抖音(「TikTok」の中国における名称)をはじめとするライブコマースプラットフォームは、通販サイトへの出店にかかる各種仲介手数料がほぼ完全に省ける他、ユーザーとリアルタイムに会話ができることが利点だ。
P&G Chinaは抖音でライブコマースのアカウントをカテゴリー別・ブランド別に開設している。自社ストリーマー(配信者)の育成に挑戦すると同時に、有名ストリーマーのライブコマースにも出品している(この場合はストリーマーへの仲介費が発生する)ことで、新たな販路の開拓に力を入れている。
2017年以降、中国の若者の間では、現実世界への不満をテーマとするスタンダップコメディー「脱口秀」(英語の「Talk Show」の発音を置き換えた当て字)が大流行している。中でも、人気を博しているのが、上海笑果文化传媒が企画したインターネット番組「吐槽大会」(Roast)と「脱口秀大会」(Rock&Roast)だ。話題性のある有名芸能人が多く出演することから、どのシーズンも閲覧数は数十億回に上り、「新しい産業を生み出した」という声もある。主な視聴者層は、Z世代の中では比較的年長の90後世代(1990年代生まれ)だ。
この成功を受けて、スタンダップコメディーとのコラボレーションがマーケティングツールの一つとして定着した。P&G Chinaも、定期的に有名ロースター(Roaster:吐槽大会の出演者)と提携して、視聴者を笑わせながら商品をさりげなくPRする手法を採っている。
このように、P&G Chinaは外資系という枠に囚われず、中国市場の動向にいち早く適応し、中国におけるベンチマーク企業の経験を吸収し、速やかに行動に移した。これらがP&G ChinaのDXを成功に導いたカギだと筆者は考えている。
P&G Chinaの取り組みが、中国市場の最前線で活躍する日系企業で働く読者の参考になれば幸いだ。
2005年矢野経済信息諮詢(上海)入社。約300分野の合計約400件の調査案件を幅広く経験し、中日両国企業のビジネスマッチングも担当。xEVや自動車サプライチェーン、IT全般、商業施設および不動産、電子機械、化学素材などの調査を実施。ニッチな調査ニーズへの対応を得意とする。日本語学習歴は30年。
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