「JP1 Cloud Service」で生成AIを用いた運用効率化、自動化サービスをリリースした。多数の国内ユーザーを抱えるJP1への生成AI実装が進むことで、国内のIT運用の変革は加速するか。
生成AIの業務利用が進んでいる。顧客サービスの向上や業務の効率化などさまざまな適用領域がある中で、情報システム部門にとって期待が高いのは、ITシステム運用の効率化だろう。以前から機械学習(ML)を含むAIを運用の効率化や自動化に適用する取り組みは行われてきたが、生成AIはこれらの取り組みをさらに大きく飛躍させる可能性を秘めている。
例えば、人の手では対応できないほど増え続けている業務量の削減が挙げられる。現在では、システム障害やセキュリティインシデントが発生したときに、一次切り分けや初期対応が非常に難しくなっている。判断に必要なシステムやデータが膨大になり、データの収集だけで多大な時間がかかることが増えているためだ。
また、学ばなければならない専門知識やノウハウが増えるとともに、対応できる人員が限られることも大きな課題となっている。システムによっては深刻な人手不足に悩まされており、知識やノウハウを継承できない事態にも直面している。
このような状況に対して「生成AIに対する現場の期待はかつてないほど高まっている」と現場の声を代弁するのは、日立製作所の大坪一紀氏だ。
日立は2024年2月1日、JP1のSaaS(Software as a Service)版である「JP1 Cloud Service」において、生成AIを用いた運用効率化と自動化に関する実証実験の開始をアナウンスし、自社実践を進めてきた。そこからわずか3カ月弱の2024年4月24日には、顧客提供に十分な品質を確認できたとして正式な機能としてリリースしている。
4月24日に発表された内容によると、実証実験においてアラート対処方法に関する生成AIの回答内容の正当性を評価し、9割以上のアラートで正しい対処方法を回答していることを確認した。生成AIの回答に、対処方法だけでなく根拠となるマニュアルなどの引用元の表示も追加することで、運用オペレーターの判断を支援できるものになっているという。実際に、日立グループの運用監視業務においては、初動の判断時間を約3分の2に短縮できたとしている。
実証実験に着手するに当たり、大坪氏はその狙いを次のように語っていた。
「デジタル化の進展に伴って、オンプレミスと各種クラウドのハイブリッドな活用が増えた。それに伴い、システム環境はますます複雑化し、運用チームへの負荷は増え続けている。実際にお客さまからよくうかがう声としては『問い合わせ対応に時間が取られる』『障害原因の切り分けが難しい』『手順書の改訂や報告書作成に時間がかかる』『運用を自動化したいがなかなか進まない』などがある。人材不足や作業の属人化、システムのブラックボックス化といった従来の課題への対応もますます難しくなり、『生成AIで何とかできないか』という問い合わせが急増している状況だ」(大坪氏)
日立では、生成AIを含めたAIやDXにおける取り組みを「Lumada」として推進中だ。自社の取り組みや顧客との共創を進めるなかで知見やノウハウを集め、それを自社製品やサービスに組み込んで顧客にフィードバックしている。生成AIについても同社の統合システム運用管理製品「JP1」への適用がいよいよ始まっている。
以降では、日立グループのシステム運用管理の実証実験においてどのように生成AIが活用されているかを見ていこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.