SAPとNVIDIAが提携、生成AI活用の促進へ 最高AI責任者が語る舞台裏

SAPとNVIDIAが提携を発表した。両社はSAPのクラウド製品でビジネスに特化した生成AI機能を顧客が構築できる環境を目指すようだ。両社の提携の概要を確認しよう。

» 2024年05月23日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 SAPとNVIDIAは、ユーザーが全てのSAPのクラウド製品で生成AI機能を構築、展開できる環境の提供を目的に提携する。

 この提携は、SAPが生成AIなどの機能を製品に組み込み、経営に役立つデータを提供する「ビジネスAI」の導入の促進を目的としている。SAPのクラウドアプリケーションを通じて、SAPのAIアシスタント「Joule」などビジネスに特化したAI機能を提供する考えだ。両社の提携の概要を確認しよう。

SAPとNVIDIAの提携の目的は

 この新しい統合は、2024年3月18日週の(以下、現地時間)「NVIDIA GTC 2024」で発表された。両社が構築を試みる機能は、2024年内には利用可能になる予定だ。

 SAPとNVIDIAは、SAPのクラウドアプリケーションポートフォリオに生成AIを統合する予定だ。これには、データ管理のための「SAP Datasphere」、アプリケーション開発のための「SAP Business Technology Platform」(BTP)、マネージドクラウドサービスの「Rise with SAP」が含まれる。

 SAPは、NVIDIAの生成AIファウンドリーサービスを使用して、特定の領域のシナリオに適した大規模言語モデル(LLM)を微調整し、「NVIDIA Inference Microservices」プラットフォームを使用してアプリケーションを展開する。

 SAPのフィリップ・ヘルツィヒ氏(最高AI責任者)は「SAPのパートナー戦略は、すでに存在する技術をSAPが構築する必要はないという考えに基づいている」と述べた。

 ヘルツィヒ氏は、TechTarget Editorialのインタビューで次のように述べる。

 「AIの技術は急速に進化しているため、新しいコンポーネントをインストールしたり変更したりするための柔軟なアーキテクチャが必要だ。非常にオープンな戦略で、ユーザーは目の前のタスクに最適なモデルを選択して使用する」(ヘルツィヒ氏)

 NVIDIAとの提携は、SAPにおける生成AI活用のため、複数のLLMをGPUレイヤーやDGXクラウドプラットフォームレイヤーをはじめとするNVIDIAのさまざまなレイヤーに統合する。

 ヘルツィヒ氏によると、SAPはソフトウェアレイヤーにおける提携も拡大しており、NVIDIAのNeural Modules(NeMo)フレームワークを使用して生成AIモデルを構築、カスタマイズしている。NeMoには、SAPアプリケーションで実行されるSAPやサードパーティーのデータに安全にアクセスするための検索拡張生成機能が含まれている。

 「私たちはJouleの中で検索拡張生成と呼ばれる機能を使っている。そこでは、コンテンツモデレーションや検索のためにNeMoのフレームが活用されて、意味検索アルゴリズムの向上に役立っている。それを『HANA Cloud Vector Engine』のベクトルに格納する。その後の検索では、良い埋め込みモデルを得るためにランク付けを再び実施する必要がある」(ヘルツィヒ氏)

提携はAIの導入に役立つだろう

 調査企業のConstellation Researchのホルガー・ミュラー氏(アナリスト)は「SAPとNVIDIAの提携は驚くべきことではない。ほとんどのベンダーにとって、ポータブルなAIアプリケーションを構築するための最も簡単な選択肢だからだ」と述べた。

 また、ミュラー氏は「これらは全てSAPが自社のクラウドアプリケーション向けにAIをパッケージ化するためのものだ。SAPの顧客がBTP上で自社のカスタムAIを構築できるようになるかどうか、またその時期については未知数だ」とも述べた。同氏は、SAPが2024年6月に開催するカンファレンスで、AIアプリケーション開発に焦点を当てると予想しており、これは企業向けテックベンダーが競争力を維持するために必要な動きとしている。

 「この領域ではOracleが先行している。Oracleは、Oracle Cloud上で開発できるが、SAPは『Amazon Web Services』(AWS)、『Google Cloud」、『Microsoft Azure』(Azure)で開発しなければならない。そういった意味でこの領域における競争は公平ではない。AWS、Google Cloud、Azureでの開発には利点と複雑さがあり、SAPは出遅れている」(ミュラー氏)

 エンタープライズ業界の分析企業Diginomicaのジョン・リード氏(共同設立者)は、「提携の強化はSAPにとって賢明」と評価した。同氏は「AIの導入を成功させるには、NVIDIAがもたらす計算能力と、SAPがもたらすドメイン固有のデータの両方が必要だ」と述べた。

 一方でリード氏は、「NVIDIAの株価が急騰し、SAPの株価が急上昇しているにもかかわらず、ビジネスAIに関する投資利益率の全貌が見えていない」と注意を促した。

 「まだ初期段階であり、生成AIの計算にかかる総コストの低下が求められる。これはNVIDIAとSAPが引き続き取り組むべき問題だ」(リード氏)

 リード氏はまた、この提携はオンプレミスではなく、SAPのクラウドアプリケーションに焦点を当てていると指摘した。

 「これらのイノベーションを最適に活用する方法についての議論が必要だ。オンプレミスで効果的なAIを実現できるかどうかは価値ある議論で、SAPの方向性は非常に明確だ」(リード氏)

 リード氏は「SAPがクラウドに注力することは、ロードマップを計画する上で有益だ。また、顧客にとってオンプレミスのAIオプションの可能性を閉ざすことにはならない」と述べた。それでもSAPは「なぜこの方向を選択したのか」そして「顧客にとってどのようなトレードオフがあるか」を明確にする必要がある。

 「これは複雑な議論だ。クラウドはAIサービスに役立つが、重要なのはデータモデルとデータガバナンスの状態だ。まだ初期段階のため、どのようなアプローチが最も効果的かを見極めるために、今後の展開を確認する必要がある」(リード氏)

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