SAPの第1四半期決算、クラウド事業が好調 成長の背景と見えてきた課題

SAPの2024年第1四半期のクラウド収益は成長を示し、顧客がクラウド移行やビジネスAI機能の実装を計画していることが分かる。しかし、課題も見えつつある。

» 2024年06月06日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 SAPは2024年第1四半期の業績を発表し、営業利益は前年比19%増と報告した。

 クラウド事業の売上高は25%増の39億ユーロ(41億ドル)であり、the current cloud backup(CCB)は28%増の142億ユーロだった。SAPはCCBを「すでに契約締結済みのクラウド事業の売上高で翌年に計上されるもの」と定義している。

 SAPの好業績の背景には何があるのだろうか。詳細を確認しよう。

SAPのクラウド事業が大きく成長した背景

 SAPは、新たな開示カテゴリー「Cloud ERP Suite」を導入し、第1四半期の売上高は32%増の32億ユーロだった。これは、「SAP S/4HANA Cloud」(以下、S/4HANA)のpublic editionを中心に展開され、オンプレミスのERPをクラウドに移行することを目的としている。

 SAPのクリスチャン・クライン氏(CEO)は、投資家およびアナリスト向けの決算説明会で次のように述べた。

 「Cloud ERP Suiteには、財務や支出管理、人事からサプライチェーンコマースまで、当社の主要な業務プロセスの全てのモジュールと、データおよび分析を含むビジネステクノロジープラットフォームが含まれている。これらのモジュールは、従来のオンプレミスERPと同じ範囲の機能を持っている」

 クライン氏によると、SAPには3つの成長ドライバーがある。1つ目は、インストールして使う前提の大企業向けのERPをクラウドに移行する取り組み「RISE with SAP」だ。2つ目は、中堅・中小企業やグループ企業を対象とした新規顧客向けの取り組み「GROW with SAP」、そして、開発済みまたは今後数年間にリリースされるビジネスAIイノベーションだ。SAPの生成AIアシスタント「Joule」がユーザーエクスペリエンスのフロントエンドとして機能している。

 RISE with SAPの新たな顧客には、チョコレートメーカーのLindt and Sprungli、グローバル製造業のSKF、航空宇宙企業のCurtiss-Wrightが含まれている。世界的な海運企業のMaerskは、SAPおよび非SAPの全体にわたる統合および開発プラットフォームとして、「SAP Business Technology Platform」を採用した。

 SAP社内の再編プログラムは、AI活用など未来志向への移行を進めており、クライン氏は「特にAIなど未来志向の領域で新たな人材を採用できているなど、予想以上に進展している」と述べた。

 「このプログラムは、AIの社内利用を推し進めることで、成長を取り込むと同時に効率性を高めるのに役立つだろう。全てのプロセスにAIを組み込むことで、数億ユーロの効率化を見込んでいる」(クライン氏)

 2024年1月に発表されたこの社内再編は、SAPの約8000人の従業員に影響を与えると予想された。彼らのポジションは、希望退職制度や社内の再教育の取り組みでカバーされる見込みだ。クライン氏によると、2024年終わりの従業員数は、2023年末と同じになる見込みだ。

SAPが顧客を維持すれば健全な収益が見込める

 コンサルティング企業であるEnterprise Applications Consultingのジョシュ・グリーンバウム氏(プリンシパル)は「第1四半期のクラウド事業の成長は、今後の健全な収益の確かな指標になる」と述べた。これは、SAPのオンプレミスERP「Central Component」の顧客や、S/4HANAの初期導入者の大規模な移行による収益が今後計上されることを意味している。

 「今後もクラウドへの移行が進み、それらは膨大な新規収益につながるはずだ。なぜならば、S/4HANAの初期導入者たちは技術的な導入をしただけで、ビジネスの変革をしたわけではないためだ。数千の初期導入者がビジネス変革することがSAPの収益につながるだろう」(グリーンバウム氏)

 これはSAPにとってプラスの可能性だ。一方、グリーンバウム氏は潜在的なマイナス面について「SAPはクラウド移行を計画する顧客を確実に維持しなければならない。S/4HANAの初期導入者は、彼らが望むビジネス変革を実現するために、実質的にゼロから導入しなければならない」と述べた。

 「今後のクラウド移行とそれに伴うビジネス変革には多くの潜在的な収益が伴うが、それはSAPが変革を実現した場合に限られる。そのためには、カスタマイズされたシステムから標準に適合したクラウドシステムへと移行する『クリーンコア』を顧客が実現する必要がある。ここでのリスクは、イノベーションがERPシステムではなく、エッジシステムで起こってしまうことだ」(グリーンバウム氏)

 また、グリーンバウム氏は次のようにも述べた。

 「SAPは顧客に対してクリーンコアを活用して可能な限り標準化された最新のクラウドに移行する必要があると主張しながら、顧客を次のレベルに引き上げるイノベーションをエッジで提供し続けなければならない。この2つのバランスを取るのは容易ではない」(グリーンバウム氏)

業界トレンドに沿った成長

 調査企業であるForrester Researchのリズ・ハーバート氏(アナリスト)によると、SAPの第1四半期クラウド事業の成長は、現在のERP業界のトレンドと一致している。全てのベンダーがクラウドを用いて顧客の環境を近代化しようとしており、AI機能の実装も始めている。

 ハーバート氏は「ERP業界にはやるべきことが多くある。クラウドへの移行が予定されていても、完全なクラウド導入には至っていないものもある。ERP導入でクラウドリフトやRISE with SAPの実装としてカウントされるものの中には、依然としてオンプレミスシステムのデプロイメントが混在していいる。これがSAPに残っている課題の一つだ。クラウド収益の多くは、まだクラウドを完全に利用している顧客から得られていない」(ハーバート氏)

 SAPが取り組むような再編は業界全体の傾向でもある。「ERPベンダーはクラウドやAIの変化に対するニーズを満たすためにリソースを結集しようとしている」とハーバート氏は述べた。ERPベンダーは新たなスキルセットを満たすため、人員を削減したり従業員の役割の一部を再編したりしている。

 「これはAIだけでなくクラウドへの転換でも起きている大きな変化の兆候だ。クラウドへの転換には異なるタイプの作業が必要になる。あらゆる業界の企業、特にテクノロジー業界の企業は時代の流れに乗るため、こうした変化を取り入れる必要がある」(ハーバート氏)

 グリーンバウム氏は、「SAPの再編騒動があった中、この堅調な四半期は注目に値する」と述べた。この再編はウォール街は満足させたようだが全体的な影響はまだ不明だ。

 「投資家はSAPを評価したため株価は上昇した。しかし、この種の再編の裏では大きな混乱が起きており、それが長期的にどのような影響を与えるかを見守る必要がある」と同氏は語った。

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