キンドリルジャパンが事業戦略説明会を開催。日本企業のシステムモダナイズ支援強化策を打ち出した。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
キンドリルジャパンは2024年6月12日、2025年度の事業戦略説明会を開催した。グローバルでのハイパースケーラー各社との協業に基づき、各業界標準の構成や企業固有のガバナンスルールを適用した事前構成済み構成やDevOps推進のためのインフラ構成を提供する計画で、日本独自の取り組みとしてエンタープライズITのモダナイズ支援ソリューションの開発と提供を始める。
キンドリルジャパン社長のジョナサン・イングラム氏は、説明会の冒頭で、2025年度のゴールを「ITモダナイゼーション」だと説明した。
イングラム氏は「『Kyndryl Bridge』を使って実用的なインサイトを得て長期的に問題が発生する前に予防する。1200以上の顧客がトラブルを未然に防ぎ安定的なIT環境を利用できるようになったことで年間総額20億ドルのコスト削減効果を上げている」として、顧客システムのモダナイズとKyndryl Bridgeの活用によって運用の高度化を進める方針を示した。
同社顧客には「AIX」などのメインフレームユーザーも多いが、これについては「Amazon Web Service(AWS)との戦略的提携に基づき、COBOLプログラムのJava変換ツール『AWS Blu』を活用して顧客システムのモダナイズを支援する」としており、AIXなどのIBMのメインフレームユーザーだけでなく、富士通製メインフレームのユーザー企業のモダナイズ支援にも取り組んでいるという。
AWSとの協業を含むクラウド事業の2025年度の展望について、キンドリルジャパンで同事業を統括する橋本寛人氏(執行役員、クラウド事業本部長)は、「ハイパースケーラー各社との協業を進める。今後、AWS環境を活用して、ビジネスアジリティを高め、セキュリティ統制を保つソリューションの提供を予定している」と、今後のさらなるクラウド事業拡大の意向を語った。
クラウド専業のインテグレータやクラウドソリューションを得意とするコンサルティング企業が多数存在する日本市場において、キンドリルジャパンはどのような価値提供を目指しているのだろうか。
同社の母体となるKyndrylは2023年11月にAWSとグローバルでの戦略的協業契約を締結している。協業の主な目的は両者顧客のIT環境のモダナイズ促進だ。メインフレームからオンプレミスのオープンシステムを含むレガシーシステムの刷新とクラウド化やハイブリッドクラウド化に向けて複数のソリューションを共同で開発している。
KyndrylはIBMから分社後、マルチベンダーでIT環境の構築や運用を支援すべく、各ハイパースケーラーとの協業を積極的に進めてきた。このグローバルでの動きに呼応して、日本企業向けに展開するのが、ガバナンスの効いたセキュアなIT環境を一括して提供するソリューションだ。
ソリューションの軸となるのは同社のコンソールツールであるKyndryl Bridgeだ。Kyndryl Bridgeは、オンプレミスやクラウドの種類を問わずにIT資産の運用状況やセキュリティ情報を可視化、運用するためのポータルだ。現在はこれらの機能に加えてFinOpsに関連する機能も追加されており、Cloud Ops運用のメソッドに即してIT基盤を管理できる。
キンドリルジャパンは、このKyndryl Bridgeを介して、業界別でプリセットされた環境を順次提供する。加えて、企業ごとの個別のセキュリティやガバナンスルールに即した構成メニューも企業と共同で設計・提供する。
これによってITシステムのクラウドリフト検討の前工程に当たる、システム構成検討の手間を大幅に削減し、より早く開発リソースを供給できるようにする。
橋本氏によれば、同社のモダナイゼーションのアプローチは3つの特徴がある。
ICIDSS、GDPRのような、業界標準の法規制やセキュリティ基準に合致したワークロードをプリセットされた基盤環境を提供する。提供するリソースはパブリッククラウドだけでなく、従来からKyndrylが扱ってきたオンプレミスのハードウェアやネットワークなどのリソースも含まれる。
特徴1のような構成済みのリソースを提供するだけでなく、DevSecOps運用を想定した継続的インテグレーションと継続的デリバリー(CI/CD)のための環境も事前構成を用意して提供する。併せて「DevOpsポータル」も提供する。
事前定義テンプレートを顧客とともに設計する。個々の企業の要件に応じたテンプレートを提供する。各社ポリシーに応じたアプリケーションのデプロイを効率化する。
顧客としては従来からの顧客、インフラ運用担当者の他、アプリケーション開発者もスコープに入れている。顧客企業のアプリケーション開発環境の標準化を実現する。当然、本番稼働に向けた運用環境も提供する。
なお、BroadcomによるVMware買収とライセンス体系変更の問題については、同社顧客にとっても無視できない問題だ。これについて記者から質問を受けた橋本氏は「パブリッククラウドへの移行やコンテナ化、他のハイパーバイザーへの移行など多様な選択肢が考えられるため、同社顧客むけにアドバーサリーサービスを展開している。今後はシステム移行やインテグレーションの支援も進める」と回答した。
今回打ち出された日本独自の業界・業種特化型のメニュー提供は、まず高いセキュリティ要件を持つ金融期間向けのリファレンスアーキテクチャから提供を開始する。これを基に他業種向けのメニューも開発・提供する計画だ。AWS環境や各種構成に含まれるソリューション類のセキュリティアップデートにはキンドリルジャパンが対応する。
これらのサービスはKyndryl Bridgeを介して提供する。運用はキンドリルジャパンがマネージドで提供することも可能だ。同環境の構築のみを受け持ち、運用は各社が行うパターンにも対応する。
キンドリルジャパンの澤橋松王氏(最高技術責任者 兼 最高情報セキュリティ責任者)によれば、Kyndryl Bridgeは当初、ITリソースのオブザーバビリティ確保とインサイトに基づくオペレーションの自動化機能が中心だったが、この2年ほどで機能強化を進めた。現在はFinOpsや消費電力の可視化と最適化の機能の他、サイバーレジリエンスとセキュリティパッチ情報やインシデント情報をKyndryl Bridgeで集約して顧客にインサイトを提供する仕組みを取り込んでいる。
Kyndryl Bridgeはマーケットプレースとしての性質も持つ。見積もり請求や発注、契約情報の参照もKyndryl Bridgeを介して行える。今後はKyndrylが提供する約250のサービスを全てKyndryl Bridge経由で提供する計画だ。
監査対応支援のメニューも用意しており、各ハイパースケーラーのネイティブツールを使った運用環境もキンドリルジャパンから提供する。
サービス提供は国内から開始するが、今後、インド拠点などのグローバルでの運用エンジニアのリソースも活用し、サービス提供コストの低減に務めるとしている。
基幹業務システムのように「止まることの許されないシステム」のモダナイズは、アプリケーションの挙動、品質の問題だけでなく、リソース設計やセキュリティ対策のように、事前に検討すべき事項が多く、IT部門にとっては大変重い問題となっている。
特にメインフレームシステムをx86系のオープンシステムに置き換える、といったシステムアーキテクチャの変更が伴う場合はプログラムの変換だけでなく、プログラムの動作基盤となる計算機の挙動など、物理環境そのものへの深い理解も求められる。
メインフレームおよびオンプレミスのx86システムの運用経験に富み、日本企業固有の商習慣に対応した運用ルールに理解があるキンドリルジャパンが、ハイパースケーラー各社のナレッジを生かしてモダナイズ支援を本格化させ、スピーディーに環境を提供しようと活動の幅を広げている状況は、日本企業のDX推進を後押しするものになるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.