AWSが実施した調査によると、日本企業はあるスキルを身に付けた労働者に給与を15%高く支払う意向があることが明らかになった。ただし、雇用主と労働者の7割近くがそのスキルをどのように育成すべきか迷っているという。
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実質賃金が25カ月連続で減少する中、いかに給与を上げるか。Amazon Web Services(以下、AWS)がその参考になりそうなレポートを発表した。
同調査は、日本国内1600人以上の就業中の社会人と雇用主500人を含むアジア太平洋地域9カ国の約1万5000人の労働者と約5000人の雇用主を対象に実施された。
同調査によると、AIが本格的に活用されるようになると、日本の雇用主は「AIスキルや専門知識を備えた労働者に対して15%高い給与を支払う」意向があることが分かった。特にIT部門(21%)、研究開発部門(20%)などで大幅な昇給を考えているという回答が多かった。
また、日本の労働者の86%は、AIスキルによってプラスの影響をもたらす項目として、「大幅な昇給」だけでなく、「仕事の効率化」や「知的好奇心」「仕事の満足度の向上」などがあると捉えていることが明らかになった。
世代を超えて国内の労働者の62%が、「キャリアアップを加速するためにAIスキルの習得」に関心を寄せており、Z世代の77%、ミレニアル世代の72%、X世代の60%、さらに引退を考えるベビーブーム世代でも54%の労働者がAIスキルを身に付けたいと考えており、「AIスキル習得コースが提供されれば受講したい」と回答した。
また、AIスキルを備えた労働力によって、日本において非常に大きな生産性向上をもたらす可能性があることも明らかになった。調査対象となった雇用主は、AI技術が、「反復作業の自動化」(56%)、「コミュニケーションの強化」(50%)、「ワークフローや成果の改善」(47%)などを促進し、38%の生産性向上を予測しており、労働者も同様にAIによって38%の生産性向上が可能だと考えていることが分かった。
AWSは「日本では目を見張るようなペースでAIによる変革が進んでいる」と分析している。雇用主の78%以上が「2028年までにAI主導の組織になる」と回答しており、80%の雇用主がAI導入で最も恩恵を受けるのは「財務部門」だと考えていた。AIが大きな価値を生む原動力になる財務部門以外の部署としては、「IT部門」(79%)や「ビジネスオペレーション部門」(78%)、「法務」(75%)、「セールス&マーケティング」(73%)、「研究開発」(70%)、「人事」(65%)が多くの票を集めた。
会話やストーリー、画像、動画、音楽などのコンテンツやアイデアを素早く生成する生成AIは、AIの中でも特に注目されている。今回の調査対象になった雇用主の79%、労働者の71%が、「今後5年以内に仕事で生成AIツールを利用するようになる」と予想している。その最大のメリットとしては、雇用主の52%が「イノベーションと創造性の促進」を挙げ、「タスクの自動化」(51%)、「ワークフローと成果の改善」(49%)が続いた。
アマゾン ウェブ サービス ジャパンの安田俊彦氏(執行役員 サービス & テクノロジー統括本部 統括本部長)は、「生成AIは、ビジネスを変革する大きな機会をもたらすと期待されている。官民を問わず、エンタープライズからスタートアップまであらゆる企業においてAIの活用が急速に進む中、イノベーションを創出する環境を最大限に整え、生産性の向上を図っていくためには、AIスキルを備えた人材がさらに必要になる。今回の調査は、AIスキルが将来の労働力において不可欠であることを示している」と述べた。
今回の調査によって、AIスキル不足も顕在化した。回答者の68%が、「AIスキルを持つ人材の雇用を優先事項として考えている」と答えた一方で、「必要なAI人材の確保に苦労している」を選択した回答者は82%に上った。
スキルトレーニングへの認識不足も明らかになった。雇用主の68%がAI人材育成のためのプログラムを「どのように実施すればよいかわからない」と回答した。労働者の66%も「AIスキルをどのようにキャリアアップに役立てればよいのかわからない」と答えている。
AWSは、日本の雇用主がAIのトレーニングプログラムを実施し、労働者に対して新たに得たAIスキルセットに見合う役割を提供するために産官学連携強化が重要だとしている。
Asia Internet Coalition(アジアインターネット連盟)マネージングディレクターのジェフ・ペイン氏は、「私たちの日常生活にもますます多くの技術が浸透する中、各国政府は将来を見据えた賢明な政策を立案し、私たちが共有する未来を形成するうえでAIが果たす役割に好影響をもたらすよう、進捗(しんちょく)をうまく舵取りをしていかなければならない」と説明する。
(注)AWSが今回実施した調査結果の詳細は「加速するAI活用:AIスキルに関するアジア太平洋地域の雇用主および労働者の意識調査」と題するレポート(英語)として2024年6月14日に公開された。
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