「一般的な生成AIに顧客は興味を示さない」 PwCはChatGPTをどう売るのか?CFO Dive

PwCは3年間で10億ドルを生成AIに投資するという発表に続き、ChatGPT Enterpriseの再販業者となることを公表した。すでに顧客の9割以上が生成AIを導入している一方で、実用化にはいまだハードルがあるようだ。

» 2024年07月05日 07時30分 公開
[Grace NotoCFO Dive]

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CFO Dive

 2024年5月29日(現地時間、以下同)に発表された契約によると、4大会計事務所の一つPricewaterhouseCoopers(以下、PwC)は、生成AIプロバイダーOpenAIの企業向け「ChatGPT」製品の最大の顧客であり、最初の再販業者となるという(注1)。

「一般的な生成AIに顧客は興味を示さない」 PwCはChatGPTをどう売るのか?

 PwCのブレット・グリーンスタイン氏(パートナー兼生成AIリーダー)は、「2023年8月に初公開されたOpenAIの企業向けツールを、当社が提供するサービスと組み合わせて企業に再販する」と述べた。

 「財務チームやCFO(最高財務責任者)に販売する場合、一般的な生成AIは興味を持たれないだろう。彼らが興味を持つのは、請求書や契約書をより適切に処理する方法だ」(グリーンスタイン氏)

 この取引は、生成AIソリューションがビジネスにどのような影響を与えるかを金融の専門家が注目している中で実施された。

 「財務責任者は、この技術を請求書などのバックオフィス機能だけでなく、財務の中で起こる出来事にどのように適用できるかを検討している」とグリーンスタイン氏は述べた。すなわち、自然言語を通じてデータと対話し、よりセルフサービスに近いユースケースを実現するといったことだ。

 「財務責任者はビジネス全体にわたる技術の効率とメリットを評価する重要な立場にある」とグリーンスタイン氏は言う。AIの投資対効果を検討することは、技術が財務機能にさらに浸透するにつれて、将来的にCFOの重要な役割を担う可能性が高いと「CFO Dive」は以前報じている(注2)。

 「われわれは、CFOがITやマーケティング、HR、その他彼らが扱うあらゆる共有サービスに対し、生成AIがいかに大きな変革をもたらすかという理解を促してきた」(グリーンスタイン氏)

 グリーンスタイン氏は「ChatGPT Enterprise」の再販価格に関してはコメントを避けた。PwCが再販業者として活動できるようになることに加え、OpenAIとの提携により、米国と英国の従業員はMicrosoftが支援する最新AIモデル「ChatGPT-4」にアクセスできるようになるという。

 グリーンステイン氏は他の市場について、「世界の他の地域では独自の展開計画を検討している。われわれは独立したネットワークを持つ企業なので、それぞれが自分たちのペースや戦略、採用を決められる」と語った。

 「生成AIを従業員に取り入れることで、われわれの監査や税務、コンサルティングサービスをビジネスや業界に関する幅広いソリューションで補完できる」とPwCはプレスリリースで述べている。プレスリリースによると、PwCはすでに税務申告書のレビューや提案書の作成、ダッシュボードやレポート作成、その他の実用的なアプリケーションなどのプロセスを支援するカスタムGPTを開発しているという。最新のChatGPTモデルの統合は、そのようなサービスの強化に役立つ。

 OpenAIとの提携は、PwCが顧客向けサービスおよび監査人や従業員が利用するツールに生成AIソリューションを組み込むための最初のステップにすぎない。2023年、PwCは3年間で10億ドルを生成AI技術に投資し、さらに10億ドルを監査サービスに投入することを発表した(注3)。同じく4大会計事務所のKPMGやDeloitte Touche Tohmatsuも歩調を合わせており、両社とも2023年中に生成AIへの取り組みと資金提供を発表している。

 さらに、生成AIはすでに職場により広く浸透しつつあり、「決定的な転換点」を迎えているとPwCは述べている。2024年5月29日の発表によると、同社はすでに1000社ある米国のコンサルティングクライアントのうち950社で生成AIを活用しており、多くの監査顧客とこの技術の適用について話し合っていることから、技術の利用に対する関心と需要が高まっているようだ。

 「Bloomberg」のレポートによると、専門家がAIのユースケースを検討する中、OpenAIの企業向け製品は2023年8月の発売以来急速に導入が進んでおり、2024年4月の時点で60万人以上のユーザーを獲得しているという(注4)(注5)。

 このような急速な導入は技術が有望であることを示しているが、一方で、企業がワークフローにAIを取り入れる動きが鈍いことを示唆する報告もある。欧州委員会の調査によると、EU(欧州連合)域内の従業員10人以上の企業のうち、2023年にAIを業務に活用したと回答したのはわずか8%で、特定のユースケースの人気が集まっていることが分かった(注6)。例えば、文章を生成するよりもさまざまなワークフローを自動化したり、意思決定を支援するためにAIを利用したりする企業の割合が高かった。

 「Reuters Institute for the Study of Journalism」が実施した別の調査によると、生成AI技術の個人利用はまだ比較的まれで、ChatGPTを日常的に利用している米国の調査回答者はわずか7%だった(注7)。

 企業はAIソリューションを迅速に導入しているが、企業変革の初期段階であるとグリーンスタイン氏は言う。

 「AIができることと、企業がそれを採用し変革する能力との間には乖離(かいり)があるだろう」(グリーンスタイン氏)

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