それ、最新LLMを使う必要ありますか? 見直される従来型AIの価値とはCIO Dive

ChatGPTの登場以降、テックリーダーはLLMを自社に導入しようと夢中になっている。しかし、従来型のAIや機械学習(ML)で事足りるケースもあるため、トレンドに流されず必要な技術を的確に見極める目を養うことが大切だ。

» 2024年06月28日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 発展を続ける大規模言語モデル(LLM)の技術に企業の期待が高まる中、企業の技術幹部らは、2024年5月14日(現地時間)にマサチューセッツ州ケンブリッジで開催された「MIT Sloan CIO Symposium」で、LLMへの認識を広げるとともに理解を深める必要性があると強調し、慎重になるよう促した(注1)。

生成AIは万能ではない まずは従来のソリューションに目を向けよう

 分析コンサルティング会社Mathematicaのアキラ・ベル氏(シニアバイスプレジデント兼CIO《最高情報責任者》)は次のように語っている。

 「組織のあらゆるところでAIを求める声が上がっている。そのうちどれだけの人がそのニーズを正確に理解しているのだろうか。彼らは本当に何か解決すべき問題を抱えているのか、それともただゲームに参加したいだけなのか」(ベル氏)

 新技術は人々の熱意をかき立て、CIOへの期待を高める。しかし新たなツールは既存の実績あるITソリューションの価値を毀損(きそん)する可能性もある。

 「人々は今、AIという言葉を非常に大ざっぱに使っている。生成AIと従来のAIや、AIとは別の技術を使った自動化との違いを理解してほしい」(ベル氏)

 ベル氏は生成AIへの関心を利用して組織全体のIT IQを向上させたいと考えている。2022年の「ChatGPT」のリリースで世間の認識が変わる前からあるAIにも可能性を見いだしている(注2)。

 「CIOとしての私たちの仕事の一つは、生成AIに振り回されて利用できる他のあらゆるツールを無駄にしないようにすることだ。私たちは、従来のAIがもたらす恩恵を完全に活用し切れていない。自動化作業もデータサイエンスも機械学習の活用もまだできていない」(ベル氏)

従来型AIの活用法

 ベル氏は、Home Depotのファヒム・シディキ氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼CIO)や、ServiceNowの最高デジタル情報責任者であるクリス・ベディ氏と共にパネルに登壇した(注3)。

 3人のCIOは過去1年間の成功事例を振り返りながら、将来の技術計画について考察した。

 Home DepotはGoogle Cloudとのパートナーシップを活用し、自社の約2500店舗の在庫管理を改善した(注4)。この動きは、OpenAIが生成AIブームのきっかけとなる数年前から始まっていた(注5)。

 シディキ氏はハイパースケーラーの機械学習機能やコンピュータビジョン機能を活用して自社ツールを構築したと説明した(注6)。このツールは生成AIとの統合で恩恵を受ける可能性もあるという。

 「倉庫全体の写真を従業員に撮影させて視覚処理を行うために、エンジンをトレーニングする技術が必要でした。運用を拡大するにはローテクなソリューションが不可欠で、ハイテクと変革のバランスを取る必要があった」(シディキ氏)

 Home Depotはインセンティブを用意して作業をゲーム化し、現在では毎月400万枚以上の画像を取得している。同社全体で175以上のAIパイロットプログラムが稼働しており、その中には生成AIを使ったものもあれば、従来の機械学習に頼ったものもあるとシディキ氏は言う。

 ベディ氏によると、ServiceNowは生成AIの可能性を引き出すために2つのアプローチを採用したという(注7)。同社はこの技術を使って既存のプロセスを少しずつ改善する一方、より野心的なユースケースも模索している。

 同氏によれば前者は達成しやすく、カスタマーサポートやソフトウェアエンジニア、販売員を強化する生成AIアシスタントがこれに当たるという。技術的には既にこれらのタスクに対応できるレベルに達しており、 同社では20以上の生成AIユースケースを実運用しているという。

 「より大きな課題は、従業員がより興味深い仕事をするためにはどんなプロセスを技術に任せるかを考えることだ」(ベディ氏)

生成AIと既存の技術の統合で生まれる化学反応

 多くの技術主導型の企業と同様、ServiceNowとMathematica、Home Depotにも従来型のAIプログラムがあった。強力なテックリーダーがいなければ、これまでのAIへの取り組みはLLMの影に隠れて停滞する危険性がある。

 「私たちは皆、機械学習を使って興味深いことをしていたが、ChatGPTが登場したとき、多くの人が機械学習を見限ってしまった」とベディ氏は語り、この技術にはまだ未開拓の価値がたくさんあると指摘した。

 ベル氏は、生成AIの機能を既存の技術と統合することに将来性を感じている。

 「生成AIと機械学習や自動化を組み合わせることで、魔法のようなことが起こるだろう」(ベル氏)

 IT企業Genpactのサンジャイ・スリバスタバ氏(チーフデジタルストラテジスト)は、生成AIが注目を集めている今こそ、CIOは機械学習や自動化への取り組みを推進するために新技術を活用し、より広範な計画を進めることを望んでいる。

 スリバスタバ氏は、ベル氏とは別のパネルで次のように語った。

 「これがCIOのすべきことだ。生成AIへの熱狂は非常に高く、人々はそれに非常に集中している。この勢いを利用して全てのデータサイエンスやデータ基盤、機械学習を推進するのだ。生成AIはそのさらに先にある」(スリバスタバ氏)

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