AnyMindグループは、日本を含むアジア圏を中心に企業のマーケティング、ECサイト構築・運用やサプライチェーンの支援を実施し、2023年度は前期比35%増の売上を記録している。同社の成長を支えているOracleのERP「NetSuite」の活用方法や、その効果を聞いた。
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AnyMindグループは、日本を含むアジア圏を中心に企業のマーケティング、ECサイト構築・運用やサプライチェーンの支援をしている企業だ。日本人2人がシンガポールで事業を開始し、現在は日本をはじめ15の国や地域で23拠点を展開している。2023年3月に東証グロース市場に上場した。
売上は急拡大しており、2023年度は約334億円で前期比35%増を記録している。2023年の海外売上比率は54%、従業員数はグローバルで約1600人、日本人比率は約24%(2023年12月末時点)となっており、文字通りのグローバル企業だ。同社の成長を支えているOracleのERP「NetSuite」の活用方法や、その効果を聞いた。
牛山隆信氏は以前、国内でクロスボーダーマーケティングを支援するスタートアップを経営していた。2020年から同社に事業ごと合流し、AnyMindグループの一員となった。現在はAnyMind Japanの取締役として日本拠点の経営に携わっている。
同社の事業は、独自に開発したEC、サプライチェーン支援のためのプラットフォームと、その上で稼働する10のアプリケーションをクライアント企業に導入するビジネスモデルを採用している。
牛山氏は「ソフトを入れて終わりではなく、そのソフトを使ったマーケティング施策の実施やサプライチェーン改革を、当社のメンバーがクライアント企業に伴走して支援していきます。これを『BPaaS』(Business Process as a Service)と呼んでいます」と説明する。
そんな同社がビジネスで最も重視しているのはスピードだ。
「変化が激しいアジア市場で勝つためには、すぐに使える仕組みを立ち上げるのと同時に、きめこまやかなオペレーションをきちんと回さなければいけません。そのため、単に各国に支店を置いているだけでなく、現地のビジネスをやり切れるチームを組織しています。マーケティング領域で、そこまで覚悟を決めて現地に拠点を構えている企業は非常に少ないと思います」(牛山氏)
事実、同社のクライアントはグローバル企業が多く、国際色も豊かだ。例えば漢方医薬品や化粧品を提供している再春館製薬は、シンガポール、タイなどへの進出時に同社の協力を仰いだ。米国の口腔洗浄器のメーカーであるウォーターピックは、日本市場への進出に際して、オンラインマーケティング・EC支援のパートナーとして同社を選んだ。さらに、シンガポール、タイなどのアジア圏では、現地企業が他国への市場拡大時に同社のサービスを利用している。牛山氏によれば、マーケティングやECに関するグローバル展開の支援において同社の認知度は確実に高まっているという。
主にアジア圏でビジネスを展開する同社は、当然国や地域によって扱う通貨が異なり、各国での売り上げは現地通貨で計上される。創業当時は、オンプレミスのERPを使用していたため、月次、年次の決算をするためには、各リージョンの決算を現地通貨で集計し、それを各通貨の換算レートで円にそろえ、本社のERPに入力していた。そのプロセスは全て人の手による作業で、現地法人、本社とも大きな負担となっていた。「月次決算をまとめるために、前月末の締め日から20〜25日かかっており、各拠点の数字が確定するまで約1カ月の空白が生まれていました」(牛山氏)
この状況を改善するため同社は、ERPの刷新を検討する。その際最も重視したのは、前述の通り多通貨への対応だ。同時に、急成長に伴う業務量の増加にも耐えられる拡張性も必要だった。検討の結果、この2つの課題に対応できるシステムとして、クラウドERPの「NetSuite」を採用した。
「当社は今後も、新たな国や地域へ進出することを計画しています。その度に、財務会計システムを現地の通貨や会計制度に合わせるカスタマイズを繰り返すことは、とてもではありませんが耐えられません。次期ERPは世界各国の通貨、制度に標準機能で対応しているシステムであることが条件でしたが、この時点で、NetSuiteほぼ一択の状況でした。また、当社のように急成長している段階の企業にとっては、業務処理のボリュームが増えても、システム拡張を意識しなくてよい、クラウドERPが必要でした」(牛山氏)
上場の要件を満たすためにも、決算処理の短期化、作業の効率化は大きな課題だった。NetSuite導入後は、前述の通り25日前後かかっていた月次決算も、15日程度で完了している。「各リージョンにおけるほぼリアルタイムのデータは、はじめからNetSuiteの中に入っていて、通貨レートの変換も済んでいるため、決算処理をいつでも始められる状況になっています。そのため、何日まで処理を完了させればいいかを考えて、そこから逆算して作業を始めればよくなりました。元のデータを集めて変換する作業をしていたころと比べて、雲泥の差があります」と牛山氏はNetSuiteの導入効果を語る。
同社の事業の根幹を担うマーケティングプラットフォームとクラウドサービスについても、根底にある思想は標準プロセスの採用だ。海外企業のM&A案件も多いため、買収した企業に同社のプラットフォーム導入をいかに早く導入できるかが、買収成功のカギを握っていると牛山氏は話す。
その思想は、財務会計の統合についても全く変わらない。仮に別の会計システムを使っていても、NetSuiteに切り替えることが買収後のPMI(買収企業の統合プロセス)で極めて重要になる。
「各国の拠点がNetSuiteという共通言語でビジネスを語れるようになりました。今後新たな国や地域へ進出する際も、まずNetSuiteを導入して、事業をスタートすることに決めています」(牛山氏)
また、財務会計だけでなく、管理会計の領域でもERPを活用する動きが広まっているが、同社の場合、ERPによる管理会計機能は補助的な役割にとどまっている。
「当社はスピードを重視しているため、普段の意志決定は、現場の顧客管理システム(CRM)や顧客に導入しているシステムのデータを直接見ることで行っています。また新規拠点の開設など、大きな意志決定の際は、CEOが直接現地に出向いて状況を確認することも欠かしません。ERPから出てくるデータは、ある意味『答え合わせ』的に見ている場合が多いと思います」と牛山氏は語る。
成長段階の企業にとっては、ERPに何もかも託すのではなく、適材適所のツールを使って判断を下すことも理にかなっている。
株式上場がゴールではなく、上場によってさらに成長スピードを加速させているAnyMindグループ。複雑なグローバルオペレーションを吸収し、迅速な経営判断を助けるクラウドERPは不可欠な存在となっている。
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