2024年の9月13日に「新リース会計基準」の確定版が発表されました。本記事では、IFRS16号の際の「苦い経験」を基に、基準適用に伴うシステム検討の必要性について考察していきます。
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2024年の9月13日に「新リース会計基準」の確定版が発表されました。本連載では、確定した最新の基準にのっとって「何が変わるのか」の基礎から紹介した上で、Excelで対応できる/できない企業の特徴や、システム検討の考え方についても解説していきます。
2024年の9月13日に「新リース会計基準」の確定版が発表され、「原則として全てのリース契約がオンバランス対象となる」ことが決まりました。しかし、影響の大きい小売や不動産などの業種では既にシステム検討まで進んでいるケースもあるものの、多くの企業ではまだ自社への影響も把握できておらず、「『Microsoft Excel』(以下、Excel)で対応できるのでは?」と考えているケースもあるのではないかと思います。
一方で、今回の基準の元となった「IFRS(国際財務報告基準)16号」を適用した企業の中には、システム導入を見送った結果、経理部のオペレーションが非常に煩雑となり、方針転換を余儀なくされた例も多く存在しました。本記事では、IFRS16号の際の「苦い経験」を基に、基準適用に伴うシステム検討の必要性について考察していきます。
新リース会計基準は、2023年5月にASBJ(企業会計基準委員会)によって草案が公表されました。新基準では、企業が不動産や設備などの資産を借りて使用するリース取引のうち、これまでオフバランス計上されていたリース契約(オペレーティングリース)についても、原則としてオンバランス化が義務付けられます。
すでにIFRSや米国会計基準でもオンバランスが義務付けられており、日本も足並みをそろえる形です。新基準が適用されると、日本の会計基準を適用している多くの会社で総資産が増加し、総資産利益率(ROA)などの財務指標が悪化する可能性があります。中でも、小売や運輸などの業界は影響が大きいとみられています。
まずIFRS16号とは、リース会計の規則を定めた基準です。従来のリース会計基準では、リースは「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に区分され、オンバランス化されない契約も多く存在していました。一方で、IFRS16号では、原則として全てのリース契約がオンバランス化されることになりました。
IFRSでは、2019年1月以降の会計年度においてIFRS16号が既に適用されており、多くの企業が新しいリース会計基準に対応してきました。この基準では、リース契約の期間の初期測定や再見積など、今回の日本基準と同様の規定が設けられており、多くの企業が対応に苦慮してきた事例があります。
以下では、実際にIFRS16号に対応した企業の事例をご紹介しながら、今後日本の新リース会計基準の適用でも起きると予想される課題と、何に気を付けるべきなのかについて解説します。
ある製造業A社(売上高500億円)は、本社では日本基準での会計処理をしていたものの、規模が大きい海外拠点(主に東南アジア諸国)を保持しており、各拠点ではIFRSを適用していました。
当初A社はIFRS16号の会計処理については海外拠点に任せる予定だったものの、現地スタッフで複雑な処理の統制を取ることが不可能という判断に至り、情報を集約して経理処理を全て本社で実施することに決定しました。
オンバランス化する契約を精査すると、海外拠点の賃借不動産や、物流拠点で利用しているフォークリフトなど、さまざまな資産が対象として上がり、監査法人と会計的な議論を進めているうちに時間がなくなりました。当初はシステムを検討する予定でしたが、導入の時間が取れないことから、暫定的にExcelで計算式を組んで対応することにしました。
具体的な運用としては、各拠点に四半期毎にExcelファイルを送付して、差分となる契約を収集した上で、経理側で集約・計算します。Excelに自前で複雑な計算式を組み、計算に不足があれば随時修正して現場に展開し直します。集計ミスや誤入力も発生しやすく、現場から古いバージョンのファイルで提出されることも頻発して本社経理は対応に追われました。
四半期ごとに経理部が疲弊していることから、現在A社は固定資産システム全体の入れ替えを検討しており、IFRS16号に対応できるシステムを導入する方針です。
関西に本社を持つ小売チェーン企業B社(売上高約1500億円)では、経営環境の変化によって急きょIFRSを適用することが決定しました。B社は多数の店舗を持っており、不動産契約は数百件以上に上ります。当初、外資系のERPシステムを利用していましたが、リース会計に関する機能が不足していたため、十分な会計処理ができないことが分かりました。
急ぎの対応が求められたため、システムの見直しや新しいシステムの導入を検討する時間がなく、Excel管理で暫定対応を決めて運用を開始します。当初は問題なかったものの、時間が経過するにつれてExcel対応に伴う課題が噴出しました。
最も大きな問題になったのは、契約更新に伴う「再見積」の対応でした。B社ではリース期間=契約期間となるようレギュレーションを定めたため、不動産契約が毎月更新されるたびに再見積の処理が必要となります。Excelで簡易に組んだ計算式では、再見積の際に必要となる計算や増減仕訳の作成に対応ができず、発生の度に個別のシートを作成して計算が必要になっていきました。
こうした経緯からExcelでの運用が限界に達し、B社はリース会計のためのシステムを個別に検討、導入するに至りました。
このようにIFRS16号の対応の際には、多くの企業でシステムの検討が追い付かず、Excelなどでの運用が開始した後で苦労を重ねた経験がありました。
国内における新リース会計基準の適用も、強制適用は2027年4月以降になるとはいえ、システムや現場を含めた運用検討を考えると決して余裕があるとはいえず、検討は「待ったなし」と言えます。そこでワークスアプリケーションズは、今回の確定版公表に合わせて新リース会計基準概要のセミナーを開催します。あずさ監査法人から山本勝一氏と金井猛氏をお招きし、新基準の概要や草案との差分、プロジェクト推進時の留意点について解説いただきます。
本連載では、確定した最新の基準にのっとって「何が変わるのか」の基礎から紹介した上で、Excelで対応できる/できない企業の特徴や、システム検討の考え方についても解説していきます。
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