「RAG」とちょっと違う「Function Calling」とは 性質の違いからユースケースまでAIビジネスのプロ 三澤博士がチェック 今週の注目論文

生成AIの進化が加速する中、企業のデジタル変革を支援する重要な技術として「RAG」と並んで「function calling」が注目されています。この機能により、生成AIが外部ツールやAPIを自在に操り、ビジネスプロセスの自動化や意思決定支援を飛躍的に向上させる可能性が広がっています。

» 2024年10月02日 08時00分 公開
[三澤瑠花ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

この連載について

AIやデータ分析の分野では、毎日のように新しい技術やサービスが登場している。その中にはビジネスに役立つものも、根底をひっくり返すほどのものも存在する。本連載では、ITサービス企業・日本TCSの「AIラボ」で所長を務める三澤瑠花氏が、データ分析や生成AIの分野で注目されている最新論文や企業発表をビジネス視点から紹介する。

「Function Calling」という技術がビジネス界で大きな反響を呼んでいます。2023年6月にOpenAIが発表し、その後MicrosoftやAmazon Web Services(AWS)、Anthropicなどの企業も追従しました。この技術は、生成AIが自然言語を理解し、適切なタイミングで外部システムやAPIを呼び出す能力を持たせるもので、企業の生成AI活用戦略に新たな可能性が開かれました。

 Function Callingは既存の企業システムやデータベース、アプリなどと生成AIを効果的に連携させる方法です。これにより、生成AIは単なる汎用ツールから特定のビジネスニーズに合わせて柔軟に拡張できるツールとなりました。

 RAGとFunction Callingの主な違いは以下の通りです。

  • RAG: 事前に用意された大量の文章やデータベースから関連情報を検索し、それを基に生成AIが回答を生成します。静的なデータや過去の情報を活用するのに適しており、企業の過去の報告書から情報を引き出し、質問に答えることに適しています
  • Function Calling: 生成AIが必要に応じて特定の機能(関数)やAPIを呼び出し、リアルタイムでデータを取得、処理します。動的なデータ取得や、特定の計算を行うのに適しており、リアルタイムの為替レートを取得するのに使用できます

 Function Callingの重要な特徴の一つに、企業のセキュリティ基準を維持しつつ生成AIを活用できる点があります。この技術では、生成AIが企業の定義したAPIを呼び出し、必要な情報の取得や処理を行います。センシティブなデータや重要な処理の多くは企業側のシステムで行われ、生成AIには必要最小限の情報のみが返されます。企業は機密データの取り扱いをより厳密に制御でき、自社のセキュリティポリシーやコンプライアンスに従いながら生成AIの機能を利用ができます。

 金融機関での活用アイデアとしては、顧客の詳細な取引データを生成AIに直接渡すことなく、不正検知に必要な情報のみを処理して渡すことが挙げられます。全ての操作ログを詳細に記録できるため、監査や規制対応も容易になります。

 Function Callingがビジネスにもたらす可能性は多岐にわたります。カスタマーサービスの分野では生成AIチャットbotと社内システムを連携させることで、より的確で迅速な顧客対応が可能になります。顧客の問い合わせを受け、生成AIが自動的に顧客データベースや在庫管理システムにアクセスし、パーソナライズされた回答を提供できるようになります。

 業務プロセスの高度な自動化も実現可能となります。複雑な業務フローを生成AIが理解し、適切なタイミングで必要なシステムを呼び出すことで効率化を促進します。受注処理から在庫確認、発送手配までの一連のプロセスを生成AIが統合的に管理し、人間のオペレーターは例外的なケースの処理に集中できるようになります。

 他にも、データ分析や意思決定の場において、市場動向や顧客行動の変化にリアルタイムで対応するサービスの開発が可能になり、経営戦略立案や製品開発に活用するなどといった活用方法が挙げられます。

 ただし、Function Callingの導入に際しては、いくつかの重要な注意点があります。

 まず、セキュリティリスクの管理が挙げられます。外部ツールとの連携におけるリスクを慎重に評価し、適切な対策を講じる必要があります。また、AIと人間の適切な役割分担も重要です。AIの判断プロセスを監視、検証する体制を整え、人間の専門知識や判断が必要な場面を適切に設定することが求められます。

 さらに、Function Callingは2023年に登場した比較的新しい技術であるため、継続的な学習と技術アップデートへの対応が不可欠です。最新の開発動向やbest practicesを常に把握し、自社のシステムに適用していく必要があります。

三澤の“目”

 このようにFunction Callingは正確でリアルタイム性のある情報を生成AIで扱えるため、ビジネスの効率性と競争力を大きく改善する可能性があります。自社のシステムなど信頼できるシステムから直接正確な情報を取得できるため、誤った情報の生成リスク(ハルシネーション)が大幅に低減します。また、常に変化する情報についてもリアルタイムで取得し、活用できます。専門的な知識を要するタスクの自動化や既存システムやデータベースとの効率的な連携も容易になります。

 生成AIの進化は急速に進んでおり、Function Callingはその最前線にある技術の一つです。この技術を戦略的に活用することで、企業はより正確で効率的な運営を実現し、新たな価値創造の機会を見いだせるようになるでしょう。

著者紹介 三澤瑠花(日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ)

AIセンターオブエクセレンス本部 AIラボ ヘッド

日本女子大学卒業、東京学芸大学大学院修士課程修了(天文学) フランス国立科学研究センター・トゥールーズ第3大学大学院 博士課程修了(宇宙物理学)。

2016年入社。「AIラボ」のトップとして、顧客向けにAIモデルの開発や保守、コンサルティングなどを担当している。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.