AI人材は高すぎる 従業員のスキルアップに向けて企業ができることとは?CIO Dive

AI関連のスキルを持つ人材の需要は増しているが、需要の高いITスキルを持つ人材は採用コストが高く、現実的にはリスキリングを選ぶ企業も多い。CIOは従業員のスキルアップのために何ができるのか。

» 2024年11月22日 10時00分 公開
[Jen A. MillerITmedia]

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CIO Dive

 生成AIアプリケーションが職場に浸透するにつれて、CIO(最高情報責任者)は従業員教育の戦略を再考しはじめている。AIが日々の業務でどのように役立ち、社内の業務全体を改善できるかを従業員が理解できるようサポートしているという。

AIスキル持ちは採用コストが高い 選ばれるのはリスキリング

 Gartnerのホセ・ラミレス氏(ディレクターアナリスト)によると、CIOは2つのスキルセットを念頭に置いているという。

 一つはデータベースやネットワーク、ITサポート機能に関連するスキルで、もう一つはレガシーなソフトウェアやインフラを扱うスキルだ。レガシーシステムを使い続けており、ベビーブーム世代の退職が始まっている企業では、AIスキルを持つ、もしくは習得したいと考える若い従業員の不足が深刻になっている。

 需要の高い技術職を充足させるため、CIOは社内外のトレーニング戦略を組み合わせ、サードパーティーのリソースを活用したり、社内の専門家と従業員をペアリングしたりしている。 特に組織がAIを導入する際に、学習文化が醸成されていれば技術幹部は従業員に継続的なトレーニングの機会を提供できる。

 需要の高いITスキルを身に付けた従業員の採用はコストがかかるうえに難しい。AIのような新しい分野では特にそうで、PricewaterhouseCoopersによるとAIスキルを要する仕事には、市場によっては最大25%高い賃金を求められるという(注1)。

 企業はこうした高単価な人材を市場で探すよりも、自社の従業員へのリスキリングに注力する傾向がある。

 プリンタメーカーのLexmark International(以下、Lexmark)は、AIやデータ分析、機械学習などの分野で1年間のコースを受講する機会を従業員に提供している。このトレーニングは米国労働省と共同で開発されたノースカロライナ州立大学のAIアカデミーを通じて行われる(注2)。Lexmarkはこれまで15人編成の6グループをトレーニングし、現在は7グループ目の教育に取り組んでいる。

 Lexmarkのヴィシャール・グプタ氏(シニアバイスプレジデント 兼 最高情報技術責任者)は、「参加者は組織全体から集められるが、そのうちIT部門の従業員は約25%にすぎない」と述べた。マネジャーは受講の候補に値する従業員を推薦するよう促されており、従業員自身の立候補も受け付けている。

 このプログラムは1日3〜4時間の講義を要する場合が多いため、マネジャーの同意が不可欠だとグプタ氏は付け加えた。リーダーは従業員に対し、新しい知識を仕事に応用する機会を与えることで支援できる。

 Lexmarkはコースを修了した従業員を祝うことも忘れない。同社は半年ごとに卒業式を開催して経営陣も出席する。これまでこのプログラムから脱落した者はおらず、従業員の減少もほとんどないという。

自身のペースで取り組める研修を提供する企業も

 こうした1年間のプログラムは、全ての従業員や全ての企業に適しているわけではない。より負担の少ないトレーニングの機会を提供している企業もある。

 ソフトウェア会社のHyland Softwareは、オンライン学習プラットフォームを利用し、従業員がトレーニングセクションの中から「プレイリスト」と呼ばれる講義を厳選して自分のペースで受講できるクラスを作っていると、同社のスティーブン・ワット氏(シニアバイスプレジデント 兼 CIO)は話す。従業員がこれらのクラスを確実に受講できるよう、同社は受講状況を追跡し、最適な目標を設定している。

 ワット氏は従業員が通常業務の一環としてコースを受講できるようにするなどの取り組みによって学習文化を作ることで、トレーニングの参加率を高められると述べた。

 「チームメンバーの自己研さんに必要な時間を与える必要がある。これは、時間外や週末にしかできないことではない」(ワット氏)

  Lexmarkは2024年9月、AIアカデミーのプログラムを受講していない従業員向けに、より幅広い学習の機会を設けた。AIが仕事でどのように役立つかを学べる30分のコースを全従業員が受講し、その後各自の役割や現在の知識に基づいて適切なAI関連コースを選べるようにするための一連のアンケートを実施している。

 会社全体の生産性を向上させるためにAIをどのように適用できるかを見極めるのが目的だとグプタ氏は言う。

若年層へのレガシー技術の継承が急務

 オンライン学習の機会に加え、CIOは自社の従業員という強力なリソースを活用することもできる。

 Gartnerのデータによると、ITリーダーの3分の2が従業員のスキルアップにはメンターシップとコーチングが最も効果的な方法だと回答している。ラミレス氏によると、CIOは将来的に淘汰(とうた)される可能性のある役割の従業員をローテーションで配属するなどの取り組みを行っており、従業員とその上司が次の配属先を見つけられるよう支援しているという。

 同氏は、企業はレガシーな技術スキルの格差にも対処しなければならないと指摘する。

 ベビーブーム世代が引退するにつれ企業は古い技術に関する重要な知識を失っていく。古いコード言語でのプログラミングやメインフレームのメンテナンスなどを行う高齢の従業員が多い公共部門にとっては特に懸念事項だ。

 「新しい人材は単にこの分野に精通していないだけでなく関心もない」(ラミレス氏)

 CIOは知識を付けるための実践的なコミュニティーを作ることも大切だと同氏は言う。退職を控えた従業員には文書化などによってできるだけ多くの知識を後輩と共有し、彼らがこうした役割を引き継げるようにすることが奨励されている。

 CIOはベテラン従業員と同じスキルを持つ人材を探すのではなく、ベテラン人材の役割をスキルごとに分解し、そのスキルを持つ若手人材がそれを引き継ぐなど、スキルを基準とするアプローチも考えられる。

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