AI利用が日常化しつつある中でも、AI導入の障壁は依然として存在している。ある調査で判明したコストでも法的リスクでもない「ある項目」とは。
ソフトウェア会社のTeamViewerが調査会社のSapio Researchのデータを基に作成した報告書で、ITリーダーの多くがAI導入の障壁と考えている項目が明らかになった。
1400人のITおよびビジネス意思決定者を対象に実施された調査に基づくこのレポートによると、「コストの高さ」や「セキュリティや法的リスク」よりもITリーダーの票を多く集めた項目があるという。それは何か。
まず、同レポートでは、ITリーダーのAI関連リスクへの認識に触れている。ITリーダーはAIのリスクを認識しつつも、AI導入が拡大する中でより強い自信を示しているという(注1)。
同調査ではITリーダーの3分の2がデータ管理やスキルギャップ、シャドーAIなどのAI関連リスクを「管理できる」と回答した。経営陣や技術リーダーの多くは、AIの導入に伴う障壁やリスクを認識している。それなのに、「リスクを管理できる」と考えるのはなぜだろうか。
同レポートによると、過去2年間の実験やベストプラクティスの収集といった試行錯誤を経て、チームのスキルに安心感を覚えている意思決定者もいる。ITリーダーの10人中約7人が、「AIの活用に当たって、少なくとも一定のノウハウがある」と感じており、「ノウハウが不足している」と回答した割合はわずか3%だった。
また、企業で意思決定者する回答者の4分の3以上は少なくとも週1回はAIを使用しており、そのうち3分の1以上は「毎日AIを使用している」ことも判明した。
TeamViewerのロバート・ハイスト氏(CISO《最高情報セキュリティ責任者》)は報告書の中で、「自信を持って指揮を執り、あらゆるリスクを軽減するために必要な措置を講じることは経営陣の役割の一部だ。ITリーダーが自身の能力を自負していることは驚くことではない。AIの可能性を過度に宣伝する“誇大広告”が強調される段階を過ぎたとはいえ、AIにはまだ多くの実験や微調整が必要だ」と述べた。
企業がより多くのAIワークロードに備えて取り組みを進め、技術基盤をモダナイズを進める中、ITリーダーらはAIの欠点を解決するために、増加の一途をたどるベンダーやソリューションに目を向けている(注2)。
AIのユースケースが拡大する中で、リスクを軽減することは企業にとって極めて重要だ。調査会社のGartnerは「AIのプライバシーやセキュリティ、リスクのためのツールに投資する企業は、そうでない企業よりも35%増収になる」と予測しているが、これらのツールにはコストがかかる。また、ITリーダーはアクセス管理やガバナンスの強化といったAIのセキュリティ確保にリソースを割かれるため、企業支出は「15%以上増加する」と予想されている。
厳格な管理体制を整えたとしても、CIO(最高情報責任者)は無謀な行動を取るわけにはいかない。一部のベンダーはAIの能力を過大に宣伝しておきながら期待外れの成果しか提供できておらず、企業は慎重に精査する必要がある(注3)。
TeamViewerの報告書によると、AIの導入が進んでいるにもかかわらず、ほとんどのリーダーはビジネスシナリオの予測や意思決定の支援について、人間が監督することなくAIに一任するところまでは進んでいない。
TeamViewerのメイ・デント氏(最高製品・技術責任者)は「近い将来、真に自律的な働きをするエージェント的なAIが登場する日が訪れるのは確実だ。しかし、現時点では人間の監視なしに複雑なアクションを成功させられるほど、技術が成熟しているとは思えない」と報告書で述べた。
TeamViewerの報告によると、ITリーダーの5人中2人近くが導入の障壁として指摘するのが「教育不足」だ。次いで「導入コストの高さ」「セキュリティや法的リスクへの懸念」「従業員のストレスや不満の増加」が挙がっている。
一方で意思決定者は、いくつかの障壁をそれほど大きな課題とは捉えていないようだ。「セキュリティ上の懸念がAIの利用を妨げている」と答えたのはわずか11%だった。
(注1)The key AI trends transforming businesses worldwide(TeamViewer)
(注2)Tools to solve AI’s trust problem come at a cost(CIO Dive)
(注3)How CIOs can respond to AI vendor red flags(CIO Dive)
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