内製化が進めば、SIerはいらない? 元IT部門の筆者が考える「内製化時代のパートナーの条件」甲元宏明の「目から鱗のエンタープライズIT」

「内製化が進めばSIerに頼る必要はないのでは」と考えがちですが、筆者の考えは違います。では、内製化を進める企業はパートナーをどう選ぶべきでしょうか。RFP評価以外に重視すべきポイントとは。

» 2024年12月13日 08時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

この連載について

 IT業界で働くうちに、いつの間にか「常識」にとらわれるようになっていませんか?

 もちろん常識は重要です。日々仕事をする中で吸収した常識は、ビジネスだけでなく日常生活を送る上でも大きな助けになるものです。

 ただし、常識にとらわれて新しく登場したテクノロジーやサービスの実際の価値を見誤り、的外れなアプローチをしているとしたら、それはむしろあなたの足を引っ張っているといえるかもしれません。

 この連載では、アイ・ティ・アールの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)がエンタープライズITにまつわる常識をゼロベースで見直し、ビジネスで成果を出すための秘訣(ひけつ)をお伝えします。

「甲元宏明の『目から鱗のエンタープライズIT』」のバックナンバーはこちら

 内製化を進める日本企業が増えています。ただし、自社システムの全てを内製でまかなう企業は現在も今後もないと言ってよいでしょう。そして、どれだけ内製化が進んでもITベンダー(IT製品メーカーやSIerなど)との付き合いが重要なのは変わらないと筆者は考えます。

 AIがあらゆることを処理してくれる時代がいつか来るかもしれませんが、もしそんなことになったらIT部門もなくなるかもしれません。今はまだ、そのことは考えないことにしましょう(笑)。

なぜ内製化が進んでも「SIerはいらない」と言えないのか?

 この連載の3回目に「ユーザー企業とSIerがタッグを組んで『スピード』『アジリティ』『イノベーション』を実現してほしい」と書きました。

 「内製化が進んでも、パートナー企業との付き合いが重要だ」と筆者が考える理由は、次の通りです。

 先進テクノロジーの活用方法や、自社ITアーキテクチャの設計・構築、自社に必要なツール・サービスの選定や調達、自社エンジニアの育成などについては、内製化が進んでもベンダーの支援を必要とする機会は増えることがあってもなくなることはないからです。

 単発プロジェクトを依頼するベンダーにこれらの支援は期待できないので、中長期的に付き合えるベンダーを見つけることが非常に重要です。

「RFP評価」だけでのパートナー選定は危険

 筆者はかつてIT部門に所属しており、中長期的パートナーを自ら選定した経験があります。現在は顧客企業の中長期的パートナーを選定する支援を手掛けています。これらの経験から言えることは、中長期的なパートナーとしてのベンダー選定は容易ではないということです。

 多くの企業がパートナーに求める自社要件に対する充足度や、保有技術者の充実度、ビジネス戦略・ロードマップなどの各種項目から構成されるRFP(Request for Proposal:提案依頼書)をベンダーに提示し、その評価に基づいて選定していますが、「それだけでは危険だ」と筆者は考えています。

 RFP評価も大事ですが、それ以上に重要なのが、ベンダーの担当者の存在です。どんなに素晴らしい商品やサービスを提供していても、自社を担当する営業担当者や技術者とうまく付き合えなければ、良いパートナーシップは構築できません。

 結局は人とのつながりが最も重要と言っても過言ではありません。「ベンダー担当者を心から信じることができるかどうか」――。これが中長期的パートナーとしてベンダーを選定する際に重要な鍵となります。

 IT業界は人材の流動性が高いので、もし信じるに値する担当者を1人見つけられたとしてもその人がずっと同じ会社に在籍しているとは限りません。ただし、信じるに値する担当者が複数人存在する企業の文化は、自社に適していると判断してよいと思います。

 筆者の経験では、「企業文化」は確実に存在します。担当者を評価することは、企業文化を評価することと同義なのです。

信じるに値するベンダー担当者の見極め方

 では、「心から信じることができる担当者」かどうかをどのように判断したらよいでしょうか。筆者はこのような質問に対して、「その担当者にITに関する確固たる思想や信条があるのかどうかで判断しましょう」と答えています。

 これまで「クラウドが時代の流れです」といって販促活動していた営業担当者がオンプレミス主体のソリューションを提供するベンダーに転職して、「もうクラウドは時代遅れです。今はオンプレミス回帰の時代です」なんて言ってきたら、その人を信じられるでしょうか。

 中長期的パートナーが、顧客であるユーザー企業のIT戦略やロードマップを強力に支援してくれなければ困ったことになります。自社で扱う製品の宣伝しかしなかったり、注文さえ取れれば何でも売ったりする営業担当者を心から信じられる理由がありません。

 「クラウドは良いですよ」と言う営業担当者には、「なぜクラウドが良いのか」と質問してみましょう。その人が自ベンダーの宣伝文句以上にクラウドに対する思想や信条を語れるのであれば、信じるに値すると判断して良いでしょう。

 ただし、どんな良好なパートナーシップを築いていても、何らかのきっかけでトラブルが発生する時があります。その時に自ベンダーのビジネス上の論理や都合で顧客と争うのか、ITの観点で何が顧客企業に適した解決策を提示するのかでは雲泥の差があります。

 担当者を十分に評価せずにベンダー選定した場合、前者になる確率が高いと筆者は考えます。

 「心から信じることができる担当者」を判断することで、自社の強力なパートナー企業を見いだし、長い付き合いをして素晴らしい成果を両社で獲得しましょう。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウドコンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手掛ける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR