西海市はkintoneを基盤としたAIサービスを全庁に導入して年間2000時間以上の業務削減を実現した。ChatGPTでは「狙った内容が生成されない」という悩みを抱えていた同市は課題をどのように解決したのか。
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「ChatGPT」をはじめとする生成AIサービスの利用が進んでいる。しかし業界、業種に特有の業務で利用する際には「狙った内容が生成されない」「出力内容が求められる水準に届かない」といった課題が生じやすい。西海市はこの課題をどう解決したのか。
サイボウズは2024年12月20日、西海市(長崎県)が生成AIとサイボウズが提供するノーコード/ローコードツール「kintone」を利用した取り組みを開始したと発表した。
西海市はそれまで一般用途向けの生成AIサービスChatGPTを利用していたが、自治体特有の業務に利用する中で期待通りの内容が生成されず、生成AIを十分に活用できない状況にあった。kintoneを基盤としたAIサービスの導入によって同市は年間で2000時間以上の業務を削減した。西海市はどのように課題を解決したのか。
西海市がAIサービスを適用したのは、答弁書作成といった特定分野に特化した回答の他、画像内の文字起こし、翻訳などの業務だ。
kintoneを基盤として、西海クリエイティブカンパニーが提供する自治体向けAIサービス「ばりぐっどくん」を全庁に導入した。kintoneを生成AI活用の基盤としたのは、自治体向けのセキュアなネットワークを介して業務事務サービスを提供するLGWAN-ASPを経由してアクセスできるためだ。同市は両備システムズが提供する「R-Cloud Proxy for kintone」を利用してkintoneにアクセスし、「ばりぐっどくん」を利用している。
西海市の熊本英哲氏(さいかい力創造部 情報推進課 DX推進班 課長補佐)は「生成AIにはセキュリティ面の懸念が拭えないが、kintoneはLGWAN-ASPを経由することで自治体でも安全に利用できる」とコメントする。
答弁書作成といった専門性の高い分野での利用を可能にするものは何か。サイボウズは、「ばりぐっどくん」は、西海市が公開している過去の情報を追加学習することで、西海市の業務に合わせた内容をアウトプットできるとしている。
議会答弁書作成においてkintoneで質問を入力し「回答スタート」ボタンを押すと過去の議事録などの公開情報を活用して生成AIが回答を返す。
kintoneを介すことで生成AIが作成した内容を編集できる。西海市は今後、kintoneのコメント欄を利用して他部署のメンバーと情報共有やディスカッションを通じて、さらに業務効率の向上させたいとしている。
西海市が活用している生成AIの種類と用途
- 議会答弁 教えてばりぐっどくん: 議会答弁用の原稿を作成する
- ノーマル 教えてばりぐっどくん: 汎用(はんよう)的な利用をサポートする
- 要約ばりぐっどくん: さまざまな文章の要点をまとめる
- 翻訳ばりぐっどくん: 外国語と日本語の双方向翻訳をする
- 音声文字起こしばりぐっどくん: 音声ファイルからテキスト化する
- 画像文字起こしばりぐっどくん: 紙媒体の情報をテキスト化する
- 議事録整形ばりぐっどくん: 音声などから文字起こしした情報を議事録の体裁に整える
kintoneを基盤とした生成AIの試験運用開始から2カ月後に実施された全庁アンケート調査によると、57%の職員がログインし、各モデルの合計で年間2072時間の業務削減効果が確認された。また、約9割の同市職員が「kintoneと生成AIの有効性を実感している」と回答した。
西海市は今回のkintone導入を生成AIの活用促進の足掛かりとして、ITの知識がなくても業務改善に必要なアプリケーション(アプリ)をノーコード/ローコードで開発できるkintoneを使ってDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に取り組むとしている。
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