SAPジャパンは2024年2月、2025年度のビジネス戦略説明会を開催した。記者発表を基にSAPの2025年のビジネス戦略について紹介する。
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SAPジャパンは2024年2月、2025年度のビジネス戦略説明会を開催した。日本法人の売上高は前年比20%増となり、グローバルの2倍のスピードで成長しているという。SAPの2025年のビジネス戦略について説明会で発表された内容を基に届ける。
SAPジャパン社長の鈴木洋史氏は最初に、2024年のグローバル、国内の業績を振り返った。SAPグローバルの2024年業績は、全体の売上高が前年比10%増の341億ユーロ、うちクラウド売上高は同26%増の171億ユーロ、さらに、SAP S/4HANAを示す「クラウドERPスイート」の売上高は同34%増の141億ユーロを計上。クラウドERPビジネスの好調さが示された。
「向こう12カ月に見込まれるクラウドの売り上げを示す重要な指標である『カレント・クラウド・バックログ』は前年比29%増であり、売上高、売上総利益など、全ての重要な指標で見通しを達成または上回る結果となった」(鈴木氏)
グローバルでの2025年の業績予想は、クラウド事業の売上高が前年比26〜28%増の216〜219億ユーロ、営業利益は同26%増の103〜106億ユーロを見込んでいる。好調な業績予想を反映して、株価もこの1年で約2倍の270ユーロ前後まで上昇し、時価総額は日本円で50兆円を突破。世界上位30社に入った。
好調なグローバルの業績をさらに上回る成長を続けているのが日本国内(SAPジャパン)だ。鈴木氏は、金額は非公開ながら、日本法人の売上高は前年比20%増となり、グローバルの2倍のスピードで成長していると説明する。
「日本市場のERPユーザーもクラウドが当たり前の選択肢になった」と同氏は語る。エネオス、資生堂、日本ゼオン、日本航空、富士通などが、SAPのクラウドERPへの移行プロジェクトを進めている。
パブリッククラウド版のERPを採用する企業も、三井情報(MKI)をはじめ増えている。商船三井は、国内はプライベートクラウド、海外拠点はパブリッククラウドのERPを使い分ける2TierのERP構成をとるなど、クラウドERP導入の選択肢が広がっていることを紹介した。
パートナービジネスも拡大している。2024年は新規に41社のパートナーが参加し、国内のパートナー数は500社を突破。その結果パートナービジネスは前年比44%増の売り上げを記録した。SAP認定コンサルタントの数も前年比30%増加し、特にS/4HANA Cloudに関しては約5倍と急増した。パートナーが発掘した案件の受注金額は前年比で約3倍になったという。
2025年のビジネス戦略として、SAPは「AIファースト、スイートファースト」を掲げた。まずAIファーストについて、多くの企業でAI活用のPoCを各社で進めており、効率化への期待が高まっているという。「SAPでは業務アプリケーションにAIアシスタントのJoule(ジュール)を組み込んでおり、ユーザーは自然に活用できる。既に130以上の生成AIのユースケースを組み込んでいる」と鈴木氏は話す。
例えば、調達や在庫管理、需給確認などのSAPの各業務モジュールに組み込まれたAIエージェントが連携し、自動で最適なサプライチェーンの状態を保つ。
「Jouleは各業務のAIエージェントとして業務を連携し、業務プロセスをエンドトゥエンドで実行できるようになる。これが、他にはないSAPのAIの優位性だ」(鈴木氏)
AIエージェントを開発するツールである「エージェントビルダー」もリリースしており、近く日本にも導入予定である。
またSAPは、AIを業務アプリケーションそのもの以外にも、幅広い領域に適用させる。2025年の第1四半期にはSAPの開発言語であるABAPの開発者向けJoule、第2四半期にはSAPのコンサルタント向けJouleを国内市場に提供予定だ。開発要件を入力するだけでコードを自動生成したり、あらかじめSAPのコンサルティングスキルを学習したAIがS/4HANA Cloudの設定を変更する際のパラメーター設定の変更手順を指示したりするという。これによって開発工数の削減と品質向上を両立する。
SAPはAIを活用したビジネスの自動化には、AIが社内の正しいデータへアクセスし、学習することが必要だと考えている。そこで、SAP製品に蓄積されたデータを集中管理し、共通基盤としてAIと連携させるシステムを「SAP Business Data Cloud」として企業に提供する予定だ。
データの統合は、SAP製品だけでなく、他社製品も対象としている。「『Salesforce』や『Google』などで生成されたデータもSAP Business Data Cloudで収集し、自動的に連携させられる」と鈴木氏は話す。
その上でAIが支援するアプリケーションを統合し、ビジネスユーザーが使うことでAIの力を最大限に生かせると考えている。この全体像を、スイートファーストの戦略を実行する「SAP Business Suite」と呼んでいる。
「SAP Business Suiteは、単なるソリューションのポートフォリオではない。AI、データ、アプリケーションの3層を統合することで、イノベーションの継続的循環を生み出し、経営課題を解決する力になる」(鈴木氏)
アプリケーション層とデータ層を分離するためには、基幹業務のカスタマイズをせずに標準的なデータ形式と手順で業務プロセスを回す必要がある。それが、SAPが進めるクリーンコアの取り組みである。「SAP S/4HANAをクリーンに保つことで、ボタン一つで必要なデータが得られるようになり、AIを活用できる環境を迅速に整えることができる」と鈴木氏は話す。
クリーンコアの取り組みでは、コアになるERP(SAP S/4HANA)と周辺のクラウドアプリケーション群(SAP Business Technology Platform)の組み合わせで業務のデジタル化を進める。SAPジャパンは、クリーンコアの導入だけでなく、稼働後にクリーンコアが維持されているかのモニタリングも実施している。
SAPでは「LeanIX」(ITアーキテクチャ管理)、「Signavio」(プロセス管理)、「WalkMe」(アプリケーションの定着支援)など、クリーンコアの運用を実現するための各種ツール群を、買収によってグループに加えている。これらを「ツールチェーン」として企業に適宜提供することでクラウドERP導入期間の短縮、安定稼働を進める。「日本のERPの導入期間は海外と比べて平均2.5〜3倍長く、そのぶんコストもかかっている。ツールの活用で改善していきたい」と鈴木氏は語る。
好調なパートナービジネスについても取り組みを強化する。SAPジャパンは、中堅・中小企業向けの新規ビジネスは100%パートナーによる再販ビジネスを展開しており、広告宣伝による認知度強化や地方への拡販などを進めている。
パートナーに対する2025年の強化策としては、パートナー自走モデルの支援やパートナー教育支援、SAPジャパンによる伴走型協業を進めていく。その他の取り組みとして、同社では防災減災、デジタル人材育成、企業の炭素会計の支援などを掲げている。
SAPのビジネスにおいて中核である企業の基幹システムは、経済産業省の「DXレポート」で「2025年の崖」と表現されたように、システムの老朽化や運用人材の不足による問題に直面している。SAPが基幹システムのモダナイズ、クラウド化やAIの導入を急ぐのは、この日本のITの構造問題を解決するためともいえる。
鈴木氏は、「『2025年の崖』といわれていた問題を、全ての日本企業が2025年中に解決できるとは思わない。また、これから先も企業はさまざまな課題と対峙しなければいけない。そのことは、企業自身が認識しており、これまでも多くの企業が変革を断行している。SAPジャパンは、今回説明した方針や製品戦略を示しながら、挑戦する企業の戦略に沿う形で支援していく」と話した。
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