より自社に合うERPはどっち? SAP S/4HANAとOracle Fusionを5つの観点で比較

ERPの選定は企業の未来に大きな影響を与える重要な決断だ。SAP S/4HANAとOracle Cloud ERP(Oracle Fusion Cloud ERP)のどちらが自社に適しているか検討する際に考慮すべき5つの項目を紹介する。

» 2025年03月13日 07時00分 公開
[James KofaltTechTarget]

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 ERPの選定は企業の未来に大きな影響を与える重要な決断だ。そして、多くの企業が「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)や「Oracle Cloud ERP」を選んでいる。

 S/4HANAは「SAP R/3」に続く製品で、SAPが主力製品として展開しているERPだ。S/4HANAでは、クラウドサービスや組み込み分析、機械学習機能、現代化されたUIなどのアップグレードがされている。S/4HANAは、SAPのインメモリデータベースであるHANAに構築され、特にリアルタイム分析において高度なパフォーマンスを実現する。

 Oracle Cloud ERPは、「Oracle Fusion Cloud ERP」とも呼ばれ、同社の「E-Business Suite」の次世代製品だ。Oracle Cloud ERPは、クラウドを前提とした新しいアーキテクチャへの移行がされている。Oracleは多くのソフトウェアコンポーネントを一から再構築し、AIを含む機械学習、高度な分析機能、より使いやすい最新のユーザーインタフェースを取り入れている。このシステムはOracleのデータベースで動作し、「Oracle Cloud Infrastructure」(以下、OCI)での運用に最適化されている。

S/4HANAとOracle Cloud ERPを5つの観点で比較

 ERPの正しい選択は、効率性や革新性の実現、成長のための土台の構築につながる一方で、誤った選択は企業に数百万ドルもの損失をもたらす恐れがある。本記事は、ITリーダーがS/4HANAとOracle Cloud ERPのどちらが自社に適しているか検討する際に考慮すべき5つの項目を紹介する。

1.業界への適合性

 S/4HANAは、複雑な製造プロセスを管理する製造業や、業界特有の機能を必要とする企業にとって優れた選択肢だ。特に、自動車や航空宇宙および防衛、公益事業、石油およびガスの業界でビジネスを営む企業に適している。

 S/4HANAは、複雑なサプライチェーンや生産計画プロセス、高度な倉庫管理、資産管理に対応している。SAPはS/4HANA向けに、小売および公益事業、廃棄物およびリサイクル、通信、自動車、航空宇宙および防衛、金融業などの業種に特化した製品を含めて幅広い専門のモジュールを用意している。

 Oracle Cloud ERPは、サービス業に特に適している。Oracleのクラウドネイティブな設計は、迅速な導入と柔軟性を実現し、変化する市場環境や新たな規制要件に迅速に適応しなければならない業界にとって大きな利点となる。これには、金融サービス、ヘルスケア、専門サービス、高等教育などの業界が含まれる。

 特に、Oracleの人的資本管理(HCM)およびサプライチェーン管理(SCM)機能は、サービス業界の企業や複雑な労働力管理が求められる組織にとって優れた選択肢となる。また、2000年代初頭に実行したPeopleSoftの買収以降、Oracle Cloud ERPは高度なCRM機能も提供するようになった。

2.導入方法に関する選択肢

 近年、SAPとOracleはサブスクリプション型の価格設定を取り入れ、クラウドに移行した。しかし、両社は導入オプションについて異なる考え方を採用している。

 S/4HANAはオンプレミスとクラウドの両方が提供されており、ERPを自社でホストしたい企業に対して高い柔軟性を提供している。SAPは自社のクラウドプラットフォームである「SAP Business Technology Platform」も提供しているが、大半の企業はハイパースケーラーのプラットフォームでS/4HANAを運用する形を選んでいるという。

 Oracle Cloud ERPは、クラウドを第一に設計されたソフトウェアだ。クラウド技術を全面的に採用し、オンプレミスのインフラを最小限に抑えたいと考える企業を対象としている。Oracle Cloud ERPはさまざまなクラウドプラットフォームで動作するが、OCI向けに最適化されているため、Oracle Cloud ERPを導入する大半のユーザーはこのオプションを選択している。

3.統合製品

 両社ともに自社のERPと連携する統合型の業務アプリケーション群を提供している。

 S/4HANAの代表的なオプションには、人的資本管理(HCM)業務向けの「SAP SuccessFactors」、調達業務向けの「SAP Ariba」、出張および経費管理業務向けの「SAP Concur」などがある。

 Oracleは、クラウドベースのアプリケーション群として、「Oracle Cloud SCM」や「Oracle Cloud EPM」「Oracle Cloud CX」「Oracle Cloud HCM」などを提供している。

4.カスタマイズ

 S/4HANAでは幅広いカスタマイズが可能だが、その柔軟性はシステムの複雑化や導入コストの増加を招くことがある。カスタマイズには長期的な保守を必要とするものも多く、ユーザーがアップグレードしたり新しいERP機能を採用したりする際に高額なコストを発生させる場合がある。

 Oracle Cloud ERPは設定による柔軟性を重視している。Oracleは、クラウドネイティブな設計と標準機能の充実により、ソフトウェアのカスタマイズを最小限に抑えられると主張している。一方、必要に応じてカスタムアプリやインタフェースを作成し、コアアプリケーションのコードを変更することなく、Oracle Cloud ERPの機能を拡張することも可能だ。

5.導入

 両社ともに企業による導入のプロセスを支援するための体系的な手法を提供している。

 SAPのオプションである「SAP Activate」には、ガイド付き設定やプロジェクト管理ツール、ベストプラクティスに関するガイド、各フェーズのプロセスを示すロードマップが含まれている。SAPの手法は標準化された設定に大きく依存している。

 Oracleの導入手法である「Oracle Unified Method」(以下、OUM)は、従来型およびアジャイル型のプロジェクト管理手法の両方をサポートし、反復的な開発と迅速な提供を重視している。OUMには、要件定義や設定、テスト、変更管理などの主要な活動に関する詳細なガイダンスが備わっている。

S/4HANAとOracle Cloud ERPのどちらを選ぶべきか

 S/4HANAとOracle Cloud ERPのどちらを選ぶべきかは幾つかの要因によって決まる。

 オンプレミスでの導入が必要な企業はSAPを選択するが、クラウドオプションを選べる企業はどちらの企業のERPも選択可能だ。

 自社がビジネスを営む業界も重要な要素となる。SAPの業界特化型ツールが対応している業界でビジネスを展開する企業は、S/4HANAを選ぶ可能性が高いだろう。ヘルスケアや高等教育の業界でビジネスを営む企業は、Oracle Cloud ERPを選ぶ傾向がある。幅広いカスタマイズを必要とし、そのための予算を確保できる企業はSAPを選ぶ可能性が高いだろう。

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