IKEAから学ぶ“AIとの適切な距離感” 大切なのはガバナンスも含めた土台づくりCIO Dive

AI規制の厳しい欧州において、IKEAは当初からAIガバナンスを重視したAI戦略に注力している。そして技術よりも成果に焦点を当てる独自のアプローチにより、業界内での先進的な立ち位置を確立した。同社のAIへの取り組みを探る。

» 2025年04月04日 10時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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CIO Dive

 テックリーダーたちはAIを導入する前に包括的なAIガバナンスのガイドラインを作成することを求められてきた。

 しかし、IKEA Retailのフランチェスコ・マルゾーニ氏(CDAO《最高データ・アナリティクス責任者》)は技術を中心に据えるのではなく、成果に焦点を当てるという異なるアプローチを取っている。

 同氏は「CIO Dive」に対し、以下のように述べている。

 「私は同僚や役員会と共にAIの方向性やロードマップ、AIの未来像を描くことに取り組んできた。ただし、それを正式な『AI戦略』と呼ぶことはしていない。その背景には、AIに関する全ての取り組みをわれわれのビジネスの優先順位と組織のロードマップに確実に結び付けるという考えがある」(マルゾーニ氏)

IKEAが考える“AIとの適切な距離感”

 IKEAのAIガバナンスに対するアプローチは、責任ある人間中心のアプローチに基づいている。マルゾーニ氏によるとそれは、開発における正確性や透明性、人間による監視を優先し、AIを特定の機会や課題の解決手段としてのみ活用することを意味する。同社はこの技術を積極的に活用していく意向だが、AIを単独で語ることはしない。

 同社はAIガバナンスチームが確立されたガイドラインに従ってAI技術を活用できるよう取り組んでいる。技術者や弁護士、政策の専門家、デザイン志向のメンバーで構成されるこのチームは「どのように運用し、どのようなプロセスが必要なのか」を定義しているとマルゾーニ氏は語る。

 AIのユースケースは、個人の生産性向上、最適化、顧客体験の向上の3つの主要分野に集中している。

 IKEAでは約3万人の従業員がAIを利用しており、より付加価値の高いAIアシスタントの開発を進めている。AIを活用したサプライチェーン最適化の機会も模索している。例えば、配送時間の最短化やコストを最小化するための貨物の積載順序の最適化などが挙げられる。CX(顧客体験)においては、主にパーソナライズを目指している。

 「私は単に生成AIの話をしているわけではない。これまでの価値の大部分とまでは言わないが、古いながらもいまだに多くの価値を提供している優れたML(機械学習)モデルがある」(マルゾーニ氏)

 IKEAはAI技術の過度な流行には慎重な姿勢を取っているものの「ChatGPT」登場後の生成AIブームを無視していたわけではなかった。マルゾーニ氏のチームはその勢いを利用し、リテラシーとガバナンスに関する取り組みを進めた(注1)。

 「DXの最初の波であるeコマースに関しては、業界内の他の企業と比べて導入が遅れていた。しかし、AIに関しては後発ではなく先陣を切りたいと明確に意思決定をした」(マルゾーニ氏)

責任あるAIとガバナンスを実現するために

 IKEAのAIガバナンスは、継続的な改善を伴うプロセスとして組織全体で一貫して取り組まれている。2019年に同社は最初のデジタル倫理ポリシーを策定して責任あるAIをコアバリューの一つとし、2021年には責任あるAIポリシーと専任チームを立ち上げた。

 この取り組みでIKEAは生成AIに迅速に対応できる体制を整えることができた。

 同社はOpenAIの「GPT Store」でAIツールをリリースした最初の企業の一つであり、「Azure OpenAI Service」を早期に採用した(注2)(注3)。2024年にはAIスキルアップの取り組みを開始した企業の第一陣に名を連ねた(注4)。

 また、IKEAはEU(欧州連合)のAI協定(AI Pact)にも署名しており、欧州委員会のAI法にいち早く準拠することを約束している(注5)。参加企業はAIガバナンスの導入、高リスクのAIシステムのマッピングの実施、AIリテラシーの促進を誓約した。

 「これはわれわれの責任ある姿勢やデジタル倫理への取り組みを守るためのものだ。AI法が施行される以前から一貫してその方針を掲げてきた」(マルゾーニ氏)

 マルゾーニ氏によると、同社は2025年3月初めの施行期限前にEUのAI法の主要な3つの義務をすでに達成していたという(注6)。

 「高リスク、もしくは禁止されているユースケースの見直しについては、チームはこの12カ月間、休むことなく多くの作業を行ってきた」とマルゾーニ氏は語る。当初のアプローチはどちらかというと受動的だったが、現在はより能動的なプロセスへと移行しており、提出されたユースケースが承認される前に準拠していることを証明する必要があるという。

 「率直に言うと、この取り組みは非常にスムーズで迅速に進んだ」(マルゾーニ氏)

 現在、PorscheやMastercard、Adeccoなど、180近い企業がEUのAI協定に署名している。責任あるAIとガバナンスに継続的に取り組んでいる企業はコンプライアンスの面で有利になると考えられるが、それでも容易ではない(注7)。

 企業は世界中のAI規制を順守するうえでの最大の懸念事項として、導入の遅れとコスト増を指摘している(注8)(注9)。トランプ政権が国内外でAI規制緩和戦略を推進する一方で、EUで事業を展開する企業はより高い規制水準を満たさなければならない(注10)(注11)。

 「なぜ当社がAI協定に参加すべきなのかを周囲に説得するのに時間はかからなかった」(マルゾーニ氏)

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