職場の隠れた病? 「強さを競う文化」が与える弊害

リクルートマネジメントソリューションズの調査により、職場に根付く「強さを競う文化」がストレスや不公平感を生み、多様性の低下にもつながる実態が浮き彫りになった。

» 2025年05月21日 07時00分 公開
[後藤大地ITmedia]

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 リクルートマネジメントソリューションズは2025年5月19日、職場における「強さを競う文化」に関する調査結果を発表した。

 従業員の働き方や意識が多様化する中で、企業の中に根強く残る「弱みを見せない」「仕事を最優先する」といった価値観が職場にどのような影響を与えているのかを明らかにした。

職場における「強さを競う文化」の実態

 調査は従業員規模50人以上の企業に所属する20〜59歳までの正社員に実施された。主な結果は次の通りだ。

  • 職場における「強さを競う文化」について、「困難があっても平然とすべき」との項目に対し、全体の約7割が肯定的に回答。「弱みを見せないこと」「力強さ・スタミナがあること」についても、それぞれ過半数が肯定的に回答した
  • 回答者の71.3%が、「強さを競う文化」が従業員のストレスや精神的負担を増大させると考えている
  • 「強さを競う文化」の4要素のうち、最も過剰と感じられているのは「仕事を最優先すること」(22.1%)
  • この文化は、成長やモチベーション、パフォーマンスの向上といった肯定的な影響がある一方で、疲弊、公平性の低下、パフォーマンスの低下、多様性の低下といった否定的な影響もあるとされている
  • 「総合職、地域総合職、一般職などの区分がある」企業に勤める人は、「強さを競う文化」の程度や過剰感についての平均値が高い傾向にある
  • 一般社員と比較して、管理職は「強さを競う文化」に対して自身の過剰感や周囲の過剰感の認識が高い。さらに職種区分がある企業では、昇進意欲の高い層は昇進意欲の低い層よりも過剰感や周囲の過剰感の認識が統計的に有意に高い傾向がみられた

 調査では組織心理学者のBerdahl氏らの提唱するMasculinity Contest Culture(MCC)の概念を基に、日本の職場環境に即した独自の設問を設定。「強さを競う文化」の4つの特徴《1》弱みを見せない、《2》力強さ・スタミナを持つ、《3》仕事を最優先、《4》競争に勝つ)がどの程度見られるかを検証した。

 多くの肯定的回答を得たのは「プライベートで困難があっても職場では平然としていなければならない」で、67.4%が当てはまると回答した。「弱みを見せない」「力強さやスタミナがある」といった特徴についても過半数が肯定的だった一方で、「仕事を最優先する」「競争に勝つことが望ましいとされる」は肯定率が50%を下回った。

 また、「強さを競う文化」が職場に悪影響を与えていると感じている人が71.3%を占めた。特に仕事を最優先することは過剰だと感じる人が多い。プライベートな時間も仕事のための自己研鑚に費やすべきだという風潮があるなどの事象が生じていると指摘された。

 一方で「強さを競う文化」が成長意欲やパフォーマンスの向上に寄与しているという意見も存在する。しかし、「疲弊感(がある)」「公平性の低下」「パフォーマンスの低下」「多様性の低下」など悪い影響を職場に与えるとする自由記述も確認された。

 さらに総合職、地域総合職、一般職など職種区分のある企業では、「総合職なのだから高い成果を出して当然」といった期待や同調圧力が「強さを競う文化」の認識を強めている傾向があるという。

 管理職層では部下への配慮や成果責任の重圧などから、「強さを競う文化」に対する過剰感が高く、加えて周囲の過剰感にも敏感であることが示されている。昇進意欲の高い一般社員でも、同様に「強さを競う文化」に対して高い過剰感を持っている。昇進を目指す過程で、自身の意志に関係なく強さを示すことが求められる場面が多い可能性がある。

 本調査により、「強さを競う文化」は職場で一定程度見られ、ポジティブな側面とともにストレスや不公平感といった課題を感じる人も多いことが明らかになった。職場の包摂性やマネジメントの在り方を再考するうえで、本調査は重要な示唆を提供している。

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