米Informaticaは年次イベント「Informatica World 2025」で、AIエージェントに関連する取り組みの大幅強化を発表した。日本に向けては、失敗を恐れず挑戦するよう訴えかけている。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
2025年5月13〜15日(現地時間、以下同)、Informaticaは年次イベント「Informatica World 2025」を米国ネバダ州ラスベガスで開催した。アメリカンフットボールの掛け声を踏まえた「Ready, Set, AI」というキー・メッセージが掲げられ、まさにAI時代に向けて一気にダッシュするタイミングだという意気込みが伝わってくる。
14日午前に開催されたGeneral Sessionでは、CEOのアミット・ワリア氏から新発表の内容が紹介された。同社は以前からAI機能「CLAIRE」を組み込んで活用を進めてきていたが、今回AIエージェントに関連する取り組みを大きく強化した点がポイントとなる。自社開発のAIエージェントして提供される「CLAIRE Agents」は「企業のデータ管理を強化するために設計された自律型デジタルアシスタント」と説明され、高度なAI推論とプランニングモデルを活用し、データの取り込みからデータリネージ追跡、データの品質保証に至るまで、複雑なデータ操作を自動化するという。
また、「AI Agent Engineering」では、他社が提供するAIエージェントなどを組み合わせて複雑なワークフローを処理するためのAIエージェントの開発を支援する。業界標準プロトコル「MCP」(Model Context Protocol)サポートなどで、ハイパースケーラー各社のクラウド環境上でAIエージェントを活用する際に同社のデータ・プラットフォームの機能を活用できるように支援することが狙いだ。
同社は以前から「IDMC:Intelligent Data Management Cloud」(以下、IDMC)というデータ管理プラットフォームを提供しており、データ統合やアプリケーション統合、マスターデータ管理、データカタログなど、企業のデータに必要となる各種機能を包括的に提供している。
古いシステムは業務ごとに独立したサイロ型の構成となっていることから、顧客情報など基本的には同じ情報のはずなのに微妙な差異がある、といった状況が珍しくない。住所を「千代田区大手町三丁目二番地一号」と書くか「千代田区大手町3-2-1」と書くかといった違いや、「千代田区」「大手町3-2-1」のようにフィールドが分割されていることもある。
こうした問題は、課題としては分かりやすいものの解決には多大な手間を要するため、どうしても後回しになりがちだ。これを効率的に解決できる製品としてIDMCは特に古くからITシステムを運用してきた伝統的大企業や、企業買収などでさまざまな業務システムを統合せざるを得なくなった企業などを中心に使われてきた。
一方で、昨今急激にその重要性を増してきているAIは、LLMによる自然言語の応答があまりに巧みなことから誤解されがちだが、別にコンピュータが人間と同様の知性を獲得したわけではない。どのようなデータを学習したかによってその回答の精度や信頼性が大きく変わってくるという特性がある。間違ったデータに基づいてしまうと、間違った回答ばかりを返す使いものにならないAIができあがる。
最新のAIモデルはインターネット上で入手可能なデータも学習に使っているが、企業内に蓄積されている大量のデータはまさに宝の山のままだ。企業内データをいかに活用できるかが今後の企業の競争力に大きく関わってくることは間違いない。同社が長年取り組んで来た企業データ管理プラットフォームの整備は、AIブームの到来によって従来の「特定のユーザー企業に取っては極めて重要だが、派手さがなく目立たないソリューション」という位置付けがガラッと変わったのかもしれない。
同社では、IDMCにCLAIREを組み込んでさまざまな作業支援に活用しており、今回更にAIエージェントという形でより高いレベルでの作業支援を実現することを発表した。この取り組みは、企業のデータ基盤の整備を支援するという従来の取り組みの延長上だが、これとは別の方向性として、IDMCをデータ基盤として上にユーザー企業が独自のAIアプリケーションやAIエージェントを構築することを支援する、という取り組みも始まっている。
Amazon Web ServicesやMicrosoft、Google Cloud、Oracle Cloudといったクラウド事業者やDatabricks、Snowflakeといったデータ分析に強みを持つ企業とのパートナーシップを強化しており、強力なエコシステムを構築している。各クラウド環境では、同社のソリューションをネイティブ提供したり、それぞれのクラウド環境に合わせたレシピを提供することでユーザー企業のAIエージェント構築を支援したりと、データ基盤という確固たる土台の上にさまざまなAI関連の取り組みを充実させ始めたというのが今回のキー・メッセージとなるだろう。
「Ready, Set, AI」という掛け声は、ユーザー企業に対するものであると同時に、同社自身がAIの会社として強力なスタートダッシュを切ったのだという宣言としても理解できそうだ。
なお、ワリア氏にGeneral Sessionの開催に先立って個別に話を聞く機会があったので、その概要を紹介したい。同氏は日本市場に関して「20年以上前に日本市場に参入し、成長を続けると共に大きな投資も継続してきている」とした上で、AIへの対応がグローバルに比べてやや遅れていると言われる日本に対して「AIは脅威ではなく好機と捉えるべきだ。恐れることなく、小さなステップ、小さなプロジェクトを積み上げることで前進することをお勧めしたい」と語った。
同氏はまた、同社の強みとして、業界で最高評価を得ているソフトウェアであること、ポイントソリューションではなくデータ管理の全機能を備えた包括的なプラットフォームであること、世界規模の大企業のニーズに応えられるスケーラビリティを備えていることの3点を挙げた。
日本企業へのメッセージとして同氏は「企業活動には必ず一定のリスクが伴う。新技術の導入も当然同様で、何もかもが完璧で、全てが事前に把握できている、などということはあり得ない。技術が成熟するまで5年待つとしたら、その間に先行した競合には追い付けないだろう。そこで私は、一定のリスクを取って実験してみることをすすめたい。失敗は悪いことではなく、むしろ学びを得るチャンスとして前向きに捉えるべきものだ。わずかな勇気を持って、失敗を恐れずに試してみてほしい」と語った。
同社のソリューションはデータ量などの指標に基づく消費モデルとして価格決定されるが、製品機能個々に対するオプショナルライセンスなどは発生しないため、新たに追加されるAIエージェント関連機能なども、同社製品のユーザーであれば追加コストなしにすぐに試せる。
新機能はまず英語版から提供がスタートするものの、ワリア氏は「日本はわれわれにとっても重要な市場であり、他の製品と同様に新機能に関しても日本語サポートは必ず提供する。日本企業もプレビューに参加していち早く試し、改善のためのフィードバックをお寄せいただきたい」とした。
同社のプラットフォームは、企業のデータ基盤の整備に責任を負うべき立場の、グローバルではCDO(Chief Data Officer)と呼ばれる人が活用するツールと位置付けられる。日本企業においては従来は独立に構築され、サイロ化した個別最適型のシステムが多く、横断的にデータ整備する機運に欠けていたが、クラウドシフトやDX推進が追い風となって、国内でも同社のプラットフォームに関心を寄せる企業が増えているという。
AIの急速な発展は、直感的に分かりやすいアプリケーションのレイヤーでの活用例に注目が集まりがちだが、中長期的な成功を考えた際にはやはり基盤となるデータの整備が不可欠だ。当然ながら、AIに限らず企業活動全体に渡って効率向上や正確性の確保など大きな価値を生む取り組みでもある。これまでデータ基盤の整備を後回しにしてきた企業にとっても、そろそろ積年の課題に真剣に向き合うべきタイミングが到来しつつあると言えそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.