SAPがクラウドファースト戦略に“ますます必死” クラウド移行はもっと「簡素化」できる?CIO Dive

クラウドファースト戦略をまい進するSAP。数十年かけてカスタマイズしたオンプレミス版からの移行を渋る顧客を多く抱える同社が、クラウド移行を後押しするために発表した新製品と施策とは。

» 2025年07月03日 08時00分 公開
[Matt AshareITmedia]

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CIO Dive

 SAPは、2025年5月20日(現地時間、以下同)に開催した年次イベント「SAP Sapphire」で、オンプレミス型ERPからクラウド型ERP「SAP S/4HANA」への移行を簡素化するために、5つの業務別ソフトウェアバンドルを発表した。

結局、クラウド移行はどのぐらい簡素化できる?

 今回発表された「SAP Business Suite Packages」は財務やサプライチェーン、人事、調達、顧客体験(CX)向けにカスタマイズされている。SAPの発表によると(注1)、各バンドルにはERPのSAP S/4HANAに加えて分析プラットフォーム「SAP Business Data Cloud」「SAP Business AI」のツール群、「SAP Business Technology Platform」の制御プレーンが統合されたという。

 近年、顧客にクラウド移行を促してきたSAPだが、長年オンプレミス版を使ってきた顧客の中には一度にクラウドに移行するのが難しい事情を抱えた企業も存在する。こうした中で、同社はクラウド移行を進めるためにさまざまな新製品や施策を打ち出している。これらはクラウド移行をどのぐらい簡素化するのか。

 SAPはオンプレミス版「ERP Central Component(ECC)」の標準サポートを2027年に終了しようとしている(注2)。今回の動きは同社の戦略の転換を示している。SAP Americasとグローバルスイート部門の最高収益責任者兼プレジデントを務めるヤン・ギルク氏は、「CIO Dive」に対して、「これは大きな簡素化だ。もはや顧客自身がこれらを統合する必要はなくなった」と語った。

 SAPは、ECCの膨大なユーザー基盤をS/4HANAへ移行させることに専念してきたが、それらの動きは現在、顧客をクラウドに誘導するための多角的な取り組みへと進化している。

 SAPは2025年1月、移行を計画している一部の顧客に対し、ビジネス継続を支援するサポートの提供期間を2033年まで延長した(注3)。同年2月には、データ分析プラットフォームを提供するDatabricksと提携し、Business Data Cloudの分析プラットフォームを提供した。

 2024年、SAPは「RISE with SAP」のインセンティブプログラムに移行クレジットを追加し(注4)、AIアシスタント「Joule」にエージェント機能を搭載した。さらに製造業や小売業向けに業界特化型の統合機能を展開した(注5)。クラウド移行を支援するため、同社のクリスチャン・クラインCEOは2024年7月、RISE with SAPの全ての顧客に専任のエンタープライズアーキテクトを配置することを約束した(注6)。

 ギルク氏は、次のように述べる。「大手企業をはじめとする多くの顧客にとって、ビジネスの基幹システムとなるERPをクラウド版に一気に完全移行することは難しい。数十年もかけて作り込んだカスタマイズが数多く存在するためだ」

 ギルク氏は「業務単位で小規模に移行しながら、技術的負債を段階的に解消する方がはるかに負担が少ない」と付け加えた。

 ITサービス企業であるKyndrylは、旧親会社であるIBMのテクノロジースタックの切り離しを進めている。同社はRISE with SAPを活用して18カ月かかる移行を円滑に進めるために財務機能を最優先に位置付けた(注7)(注8)。その後、Kyndrylはこの移行経験を基にRISEに特化したコンサルティング事業を立ち上げた。

 「財務プレミアムパッケージを詳しく見ると、基本的には管理系のERPであることが分かる。コアとなる財務機能や調達業務、受注管理、プロジェクト管理、『Sales Cloud』、出張および経費管理のための『SAP Concur』など(注9)、非製造企業が基幹業務を遂行するために必要な機能が全てそろっている」(ギルク氏)

 SAPはこれらのバンドル製品を展開する一方で、SaaS型のERP製品と移行のためのフレームワーク「RISE with SAP」との切り離しも進めている。

 「もはやRISE with SAPは購入できない。われわれは、RISE with SAPをあくまで手法と位置付けている。顧客が購入するのは、SaaS型ERP製品のプライベートクラウドパッケージか、ビジネススイートパッケージかのいずれかだ」(ギルク氏)

 ギルク氏は、同社が使っている用語が分かりにくい点について認めた。「SAP S/4HANA Cloud Private Edition」はパブリッククラウドで動作する。SAPは大規模な既存顧客がECCからS/4HANAに移行するのを、最終的にパブリッククラウドにつながるハイブリッド型プライベートクラウドオプションの提供を通じて支援する。

 「これはわれわれが2025年に実施した大きな変更で、顧客に理解してもらうには時間がかかると考えている。われわれはこれを、全てをSaaSに移行したくないと考える顧客や、移行が難しい顧客向けの代替案だと考えている。S/4HANAのオンプレミス版を導入すれば、将来的なクラウドへの移行は主に技術的な作業で済むようになる」

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