理研は富士通・NVIDIAと連携し、次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT」を開発。AIとシミュレーションを融合し、ゼタスケール性能を目指す。防災や産業応用を含む幅広い利用を想定し、日本の技術力強化に資する。
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理化学研究所(以下、理研)は2025年8月22日、富士通およびNVIDIAと共同で次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT」の設計、開発開始を発表した。理研が主体となり、富士通はCPUやシステム全体の基本設計を、NVIDIAはGPU基盤の設計を担い、3者の技術を結集する国際連携体制を構築した。この計画は従来の「富岳」で得られた成果を継承しつつ、AIとシミュレーションを融合させた世界最高水準の「AI-HPCプラットフォーム」を構築することを目標にしている。
富岳NEXTの開発は2030年頃の稼働を目指して進められている。その特徴はシミュレーション性能とAI処理能力を統合する点にある。従来のCPU中心の設計にGPUを加速部(アクセラレータ)として組み込むことで性能の最大化を図る。これにより、仮説の自動生成や検証、物理実験の自動化を含む「AI for Science」の促進を実現し、科学研究の進め方に大きな変革をもたらすことを意図している。
ハードウェアの設計においては、富士通が開発する次世代CPU「FUJITSU-MONAKA-X」と、NVIDIAが設計する高性能GPUが組み合わされる。CPUには行列演算エンジンを内蔵し、AI推論を低遅延で処理できる機能が備わる予定だ。GPUとの高帯域な接続により、AIトレーニングや大規模シミュレーションに対応できる性能が提供される。これにより、HPC用途における高精度な計算と、生成AIを含む多様なAIアプリケーションの双方に適したシステムが形成される。
ソフトウェアおよびアルゴリズムの革新も重要な要素となっている。理研を中心に、混合精度演算(1つの計算の中で複数の数値精度を使い分ける手法)やサロゲートモデル(計算コストの高いシミュレーションを近似したモデル)、PINN(Physics-informed Neural Network:偏微分方程式の解の値を予測するニューラルネットワーク)などの新しい手法を導入し、ハードウェア性能を超えるアプリケーション性能向上を実現することが目指している。これらの技術革新により、10〜20倍の性能向上が期待できる。日米共同の研究を通じ、CI/CD/CB技術を取り入れた開発環境を整備し、広範なアプリケーションコミュニティとの連携を強化する計画にもなっている。
応用分野としては防災や減災への活用が注目される。東京大学地震研究所の研究グループは、地震発生メカニズムの解明を目的に「マルチスケールシミュレータ」の開発を進めており、広範囲な地殻変動と局所的な地震動を統合的に扱うことで、将来的に災害予測や防災対策に貢献する可能性がある。ものづくりの現場では、AIとHPCを組み合わせることで設計作業を効率化し、最適化される製品開発の自動化が期待されている。
最終的に富岳NEXTは、ゼタスケール級のシステムとして、AI分野で600エクサフロップスを超える性能を目指す。稼働前からクラウド環境を通じてソフトウェアやAIモデルを公開し、幅広い利用を可能にする方針だ。理研はこのプロジェクトを通じて、量子コンピュータとの連携も視野に入れ、HPCと量子コンピュータが融合する未来を見据えた研究開発を実施することで、日本の技術力強化と国際的な競争力向上を実現する構想を掲げている。
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