「AI導入はチームスポーツだ」 小売り大手のIT幹部がこう断言する理由CIO Dive

ある大手小売りチェーンは、AIエージェントの導入に向けたIT基盤の整備に取り組んでいる。「AI導入はチームスポーツだ」と語るIT幹部が示す、企業がAIの導入と運用において押さえるべきポイントとは。

» 2025年09月21日 08時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]
CIO Dive

 大手美容小売りチェーンのUlta Beautyは3年にわたって基幹システムのモダナイゼーションに取り組んできたが、まだ立ち止まるつもりはないようだ。同社は勢いを利用して、未来の働き方であるAIエージェントの導入に乗り出そうとしている。

なぜ、AI導入が「チームスポーツ」なのか?

 Ulta Beautyに2年間在籍しているマイク・マレスカ氏(最高技術変革責任者)によると、同社はAIエージェントを導入するためのIT基盤強化に取り組んでおり、従業員と顧客の体験の向上を目指しているという。

 マレスカ氏は、「AI導入はチームスポーツだ」と語る。一見無縁そうなチームスポーツとAI導入の間にどんな共通点があるのか。この言葉を通じて同氏が強調する、AIの導入と運用において経営幹部が確実に押さえるべきポイントとは。

 まず、マレスカ氏は「CIO Dive」に対して次のように語った。

 「まずは基盤を整える必要がある。AIエージェントの本当の力が発揮されるのは2026年で、Ulta Beautyのストーリーの一部として登場することになるだろう。AIエージェントはまだ初期段階にあるが、われわれは取り組みを迅速化させている」

 大半の企業も同社と同じような状況にある。将来に対する大きな期待を抱きつつ、AIエージェントを本格的に導入する前に課題の解消に取り組んでいる。コンサルティング会社のPwCが2025年5月に発表した調査結果によると、企業の上級幹部の約4分の3が、今後1年以内にAIエージェントが自社にもたらす競争優位性は大きいと見込んでいる(注1)。

 「私のような立場の人間は、AIエージェントについて考えないわけにはいかない」(マレスカ氏)

 経営コンサルティング企業であるMcKinseyが2025年7月24日(現地時間、以下同)に発表した科学論文や特許出願、株式投資、人材需要、検索エンジンにおける検索傾向や報道などを分析したレビューによると(注2)、AIエージェントは最も急成長しているテクノロジートレンドの一つに位置付けられている。一方、企業はベンダーの「過剰な宣伝」に直面している(注3)。AIエージェントベンダーは自社のツールやサービスを顧客に売り込もうとした結果、現状のAIエージェントができる機能に比べて過剰と感じられる宣伝になる。

 Ulta BeautyはAIエージェントがマーケティングとデジタル店舗の運営を改善し、その他の効率化を可能にすると期待している。意思決定の合理化とパーソナライズされた体験に対する支援も有望なユースケースだ。

 「一部のAIエージェントは店舗スタッフに活用してほしい。接客中の顧客の購入履歴を表示したり、最適な商品を薦めたりするなど、顧客との関わりをサポートできるようにしたいと考えている」(マレスカ氏)

変革におけるガバナンス

 Ulta Beautyは技術基盤の強化を進める一方で、将来を見据えた中核事業の成長と再編を軸とする、より広範なビジネスの変革にも着手している(注4)。

 Ultaの現在の戦略は、数字が振るわなかった幾つかの四半期決算を経た後、2025年1月にCEOに就任したケシア・スティールマン氏によって同年3月に策定された(注5)。変革の取り組みとコスト最適化の施策を連携させるため、スティールマン氏はマレスカ氏の役職を最高技術・情報責任者(CTIO)から現在の最高技術変革責任者に拡大した。

 「これらの2つの役割は非常に相性が良い。結局のところ、全てはビジネスのためのプロジェクトだ。われわれはビジネスプロセスを変えようとしており、新しいテクノロジーは常にそうした変化をもたらす。そのため組織再編やチェンジマネジメントのトレーニングに注力している」(マレスカ氏)

 特にAIに関して、同社は段階的な仕組みで従業員のスキル向上を図っており、AIシステムが慎重に検証されるようにし、透明性を確保し、倫理的な利用を促し、コンプライアンスの徹底を支援している。スキル向上のプログラムは、Ultaのチェンジマネジメント戦略の一環であると同時に、ガバナンスの取り組みの一部でもある。

 「段階的な仕組みと従業員に対するAIの活用のためのトレーニングを通じて、データガバナンスをどう機能させるべきかについて適切な形を確立できた。われわれはアーキテクチャを審査するあらゆるプロセスにガバナンスを組み込んでおり、新たな機能を構築する際には、中核となるシステムでAIが何を扱うのかを的確に把握できるようにしている」(マレスカ氏)

 同社のAI委員会もこうした取り組みを支える役割を担っている。委員会はマレスカ氏をはじめとする経営幹部で構成されており、各プロジェクトやツールが全社的な戦略と一致するように調整している。

 マレスカ氏は「AIの導入はチームスポーツだ」と述べた。

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