生成AIへの期待は大きいが、導入プロジェクトの半数以上が失敗しているという。鳴り物入りで導入したにも関わらず成果に繋がらないのには、共通の落とし穴があった。プロジェクトを成功に導くために、リーダーが見直すべきポイントを解説する。
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企業は生成AIに大きな可能性を感じている一方で、多くの困難に直面している。技術的なギャップから初期の計画段階でのつまずきまで、テクノロジーの責任者たちは導入が遅れる理由を数多く抱えている。
Gartnerの著名なバイスプレジデントであるアラン・チャンドラセカラン氏は2025年6月に開催したウェビナーで次のように語った。
「組織はユースケースの適切な順位付けに根気強く取り組まなければならない。あなたのところにも、生成AIの活用方法に関する素晴らしいアイデアを持った人々が次々と訪れるはずだ。しかし当然ながら全てに対応するだけの予算やリソースはない」
企業は生成AIに関する取り組みを進めながらさまざまな課題に直面している。Gartnerの調査によると、企業における生成AIプロジェクトの半数以上が失敗に終わっているという。生成AIの成熟度を誤解していたり、ビジネス上の価値との結び付けに失敗したり、AIリテラシーへの投資が不足していたりするなどCIO(最高情報責任者)たちはさまざまな落とし穴にはまっているのだ。
企業は手をこまねいているわけにはいかず、CIOたちは成果を出す必要に迫られている。Snowflakeの調査によると(注1)、ビジネスおよびITの分野のリーダーたちは、生成AIを誤った形で活用すれば市場における自社のポジションを損ない、自身の雇用の安全も脅かされると認識している。また多くの企業は、市場の不安定さに直面する中で(注2)、プレッシャーを和らげる手段として生成AIに期待を寄せている。
IT分野のリーダーたちはリスクを抑え、計画プロセスを強化し、関係者を巻き込むことで課題に立ち向かうことができる。以下では生成AIプロジェクトが失敗する5つのパターンと、CIOが取るべき対応策を紹介する。
CIOたちはビジネスにおける目標と技術的な取り組みを初期段階から適切に結び付ける必要がある。
チャンドラセカラン氏は「プロジェクトが失敗する最大の理由は、ビジネスにおける価値を生み出せないためだ」と語る。同氏は、ユースケースの選定や優先順位付けのための明確な枠組みがなかったり、成果を測るための明確な指標が設定されていなかったりすると、このような問題に直面する可能性があると付け加えた。
チャンドラセカラン氏は企業に対して、自社に合わせた優先順位の指標の作成を推奨している。指標が整えば、CIOたちはどのユースケースに注目すべきか、またビジネスを支援するポイントがどこにあるかを把握できるようになる。
検討すべき問いとしては、「データの準備は整っているか」「実行できる可能性はどの程度あるか」「どのようなリスクが発生しそうか」などが挙げられる。
「最終的な目標は、ビジネスにおける価値が比較的高く、かつ技術的に実現可能なユースケースに取り組むことだ」(チャンドラセカラン氏)
生成AIはビジネスの課題の全てを解決するものではない。場合によっては、従来型のAIを活用したアプローチやシンプルな自動化、それらを組み合わせたアプローチがより優れた結果をもたらす。
「生成AIはツールボックスの中にある数多くのツールのうちの一つに過ぎない。重要なのは、ユースケースに応じて最適なツールや手法を選び、それらをうまく組み合わせる方法について考えることだ」(チャンドラセカラン氏)
生成AIが適切な解決策だったとしても、企業はベンダーのツールやサービスに多額の投資をする前に、それらをテストおよび検証しなければならない。
「現在、多くのベンダーがAI製品の成熟度について過剰に宣伝している」(チャンドラセカラン氏)
生成AIツールの信頼性と高品質なレスポンスの生成を確実にすることは、有意義な導入のために非常に重要だ。
AIによる成果を追求するあまり従業員への投資を怠る企業は、苦労を長引かせるだけだ。
チャンドラセカラン氏は「AIを導入したからといって、すぐに定着するわけではない」と述べた。従業員がツールの使い方を的確に理解して初めて、生産性の向上や情報収集の効率化といったメリットが得られる。リテラシー向上のためのプログラムや個別トレーニングの作成、実施により、雇用に関する不安を和らげることもできる。
「世界中のあらゆる従業員が、AIの影響について考え始めている。皆が、自分の仕事がいつかAIに奪われるのではないかと不安に感じているのだ」(チャンドラセカラン氏)
チャンドラセカラン氏は企業に対して、従業員の不安に正面から向き合い、スキルの研修に関するロードマップを提示するような、透明性のある率直な対話の場を設けることを推奨している。
「従業員の中にある不安や疑念、迷いに丁寧に向き合うことは、リーダーが取るべき非常に重要なステップだ」(チャンドラセカラン氏)
チャンドラセカラン氏によると、生成AIプロジェクトで見落とされがちな重要な要素の一つがチェンジマネジメントだという。
ツールへのアクセスやワークフローへの組み込みが容易でなければ、従業員はそれらのツールを避けるようになるだろう。さらに、従業員が「ツールを使うと自分の仕事がなくなるかもしれない」と感じてしまえば、導入は停滞する。
チャンドラセカラン氏は「私たちはツールを単に導入するだけでなく、従業員がそれらを使いこなせるようになる方法を見付けなければならない。同氏は、AIの活用を具体的な職務に結び付けて整理する「エンパシーマップ」(共感マップ)という手法が役立つと説明した。
ツールの設計や導入にあたって、ユーザーからフィードバックを得ることも有益な手段だ。
チャンドラセカラン氏は企業に対して、責任あるAIの導入を後回しにすべきでないと警告する。後回しにすると、事実と異なるアウトプットの生成や偏ったアウトプットの生成、安全性の問題などが頻発し、プロジェクトの失敗を超えた深刻な事態を招く恐れがある。
「AIを活用したシステムについて説明できる状態を確保しなければならない。モデルのライフサイクル全体を管理し、発生する恐れのある敵対的攻撃も防ぐ必要がある」(チャンドラセカラン氏)
CIOたちは責任ある取り組みを組織にどのように取り入れるかというビジョンを明確にし、社内外に発信することでリスクを回避し信頼を築くことができる。具体的には、公平性の確保および偏りの是正、倫理、リスク管理、プライバシー、持続可能性、法規制への準拠といった観点を含む方針や実践を示すことが求められる。
「トレーニングプログラムを各チームに普及させたり、責任あるAIの枠組みを分かりやすく伝えたりできる推進役を社内に配置することが重要だ」(チャンドラセカラン氏)
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