指示するのは「業務」ではなく「目標」 オラクル開発責任者にAIエージェント戦略を聞いた

米オラクルが発表したAIエージェント「Fusion Agentic Applications」の狙いを、開発責任者のロンディ・エン氏に聞いた。1000超のエージェントを連携させ、単なる記録を超えた「ビジネス成果」の達成を自律的に目指す、同社の設計思想とは。

» 2026年04月28日 07時00分 公開

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

ロンディ・エン氏(筆者撮影)

 米国オラクルは2026年4月、同社の業務アプリケーションである「Oracle Fusion Cloud Applications」に組み込まれるAIエージェント、「Fusion Agentic Applications」を発表した。

 同年4月に都内で開催された「Oracle AI World Tour Tokyo」に合わせて来日した、同社アプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのロンディ・エン(Rondy Ng)氏に、開発思想やAIエージェントへの期待を聞いた。

18カ月で1000超のAIエージェントを開発

 エン氏は、オラクルのアプリケーションにおけるAIエージェントの開発が、極めて短期間で進んだことを明かす。

 「オラクルは長年AIの開発を続けてきた。最初はマシンラーニングや予測能力の強化が中心だったが、これが大きく加速したのは、今から18カ月ほど前だった。生成AIの進化によって、ビジネス活動から生まれる文書や数表などを解読し、ERPなどを通してユーザーに価値を提供できるようになったことが大きい」

 オラクルは生成AIによって、業務アプリケーション内の構造化データ、非構造化データを統合したAIエージェントの開発を進め、18カ月間で1000を超える数のエージェントを生み出した。AIエージェントはオラクル自身の開発スピードを向上させ、既に22種類の業務プロセス別パッケージとして形にしている。

 これらは、複数のエージェントを実務の流れに沿って組み合わせ、一連の業務を完結まで導くものだ。例えば人事の採用業務において、この仕組みがどう機能するのか。エン氏は次のような具体例を挙げた。

 一般的な採用業務のプロセスは次のような流れになる。

  1. 応募者の履歴書を解読し、面接候補を絞り込む
  2. 面接のスケジュール調整
  3. オファーの提示
  4. 採用候補者のより詳細なバックグラウンドチェック
  5. 入社後の手続きサポート

 これらの業務を、採用担当者がステップごとに確認しながら、自動実行できるという。

 「上記の手順は一例で、各ステップの細かい業務の順序や内容は企業によって異なる。オラクルはそれぞれのステップに合わせたAIエージェントを開発しており、複雑なワークフローを管理できるようサポートしている」

 このようなAIエージェントは人事だけでなく、顧客管理や財務会計、SCM(サプライチェーンマネジメント)といった領域で開発されており、各プロセスの自動化を進めてユーザーの負担を減らすと同時に、業務の精度を向上させられるという。

成果を重視するAIエージェントとは

 エン氏は、Fusion Agentic Applicationsの開発思想が、既存のAIエージェントとどう違うのかについて、次のように語る。

 「従来のAIエージェントは、特定の業務における一部のステップやワークフローを完結させるために利用されていた。当社ではそれを『システムズ・オブ・レコード』と呼んでおり、ビジネスの活動を忠実に記録し、ワークフローやセキュリティを強化する静的なシステムだった。しかしFusion Agentic Applicationsは、記録の先にあるビジネスの成果、目標を達成する『システムズ・オブ・アウトカム』を実現する。ユーザーが設定した目標に対し、複数のAIエージェントが『チーム』として連携して動きながら、業務を最後まで進め、目標の達成を目指すシステムだ」

 つまり、ユーザーは業務そのものを指示するのではなく、業務の「目標」を自然言語でプロンプトに書くことで、そのための業務プロセス設計から、実行までをAIエージェントが代行するシステムを作ったという。

 この仕組みはどのように動くのか。最初にユーザーが設定した目標はタスクに分解され、各タスクの「指示」に変換される。その上で、各タスクに特化したAIエージェントが設定され、バックグラウンドで連携しながら情報を送り、要所でユーザーに対してレコメンド、あるいはオプション(選択肢)を提示しながら、最終的に全ての業務を終わらせる。

 具体例でいうと、製造業で、調達担当者がFusion Agentic Applicationsに対して「この設計とこのBOM(部品表)に基づいて、的確な部品を調達してほしい」という指示を出したとする。するとシステム内のAIエージェントが、調達条件を整理したドキュメントを作成し、その基準に合うサプライヤーを検索し、候補社のリストをユーザーに返す。ユーザーが一社を選択すると、そのサプライヤーとの交渉と採用決定、発注および発注書の作成までを自動化できるという。

 この例でいう成果は「条件に合う部品を手に入れる」ことであり、システムは条件を満たすサプライヤーを選択するところでユーザーの介入を求め、それ以外は自動化プロセスを実行することで成果を達成する。

 重要なのは、ユーザーの確認が必要なポイントで、システムがユーザーに対して選択肢を提示することだとエン氏は語る。

 「Fusion Agentic Applicationsでは、人が介入する『ヒューマン・イン・ザ・ループ』の仕組みを採り入れている。単純な転記などの業務はエージェンティックな運用に置き換わるが、業務プロセス全体のオーナーであるマネジャーやオペレーターは、人間としての意志決定にかかわる存在として、引き続き主要な役割を担う」

決定論的にAIを動かすためのこだわり

 AIエージェントは各ベンダーが開発しているが、オラクルの強みは何か。エン氏はこう答える。

 「AIが使うデータがどこにあるかが重要だ。他社のAIエージェントは、さまざまな場所にあるデータを集めてから作られるため、データの複製が必要で、セキュリティ設定も一からやらなければいけない。それに対してオラクルは、AIとデータが同一のガバナンスで管理され、リアルタイムに動作する。当然レスポンスもよく、一貫性も高い」

 また、SaaSモデルであるアプリケーションの継続的進化も、ユーザーの負担を軽減し、評価が高いという。Oracle Fusion Applicationsは現在1万4000以上の組織が利用している業務アプリケーションスイートであり、その機能を連携して自動化できるAIエージェントへの期待も高いといえるだろう。

 もう一点、オラクルがAIエージェントの開発でこだわったのが、AIから業務に耐える確実な回答を得るための仕組みだ。実務で使う以上「AIだから、たまには間違う」ということは許されないからだ。

 「オラクルでは、AIの出力がその都度変わり得るといった『確率論的』な挙動ではなく、一定のルールや根拠に沿って動くといった『決定論的』な挙動に近づけるため、さまざまな手を打っている。まず、ユーザーによるAIへの指示や目標が明確でない場合、エージェントは確認を求める。また、AIが導いた結論がどのようにして至ったのかのロジックを、ユーザーが確認できる『監査可能性』も提供する。加えて、実行前に社内のルールに合わせた厳しいガードレールを設定することも可能だ」

 AIエージェントが正しい業務プロセスをたどるためのこれらの機能と、前述した要所で人間が介在するヒューマン・イン・ザ・ループの構造によって、結果についての正確性を高めている。

 また、当初はユーザーが確認していたステップも、同じ判断で進めてよいと分かれば、以後はAIが自動で処理できる。AIはユーザーの指示や判断を踏まえて処理の精度を高め、段階的に自動化の範囲を広げられるという。

オラクルのビジネスモデルは変わるのか

 その一方で、こんなことも予想される。Oracle Fusion Applicationsが導入されると、同アプリケーションが扱う業務は徐々に自動化されていく。そうするとアプリケーションにログインするユーザー数も減っていくのではないかという懸念だ。ユーザーアカウントの数で課金しているオラクルにとって、ユーザー数の減少は問題にはならないのか。

 エン氏はこう答える。「ビジネスモデルというものは、常に変わり、進化していくものだ。AIエージェントが導入されることによって、例えば財務領域では、会計士のユーザーが減るようなことが考えられるかもしれない。しかし人間による介入は依然として必要であり、当面大きな影響はない。今後もし、大きな変化が表れてくれば、課金の体系を処理ベース、あるいは価値ベースへと変える可能性はあるが、すぐには必要ないと考えている」

 AIエージェントが業務を完遂することになれば、データの運用やガバナンスはますます重要性を増す。データベースソフトウェアの老舗であるオラクルは、その強みを業務アプリケーションの世界でもフルに生かそうとしている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR