「顧客体験をAIがオーケストレートする」 Adobeが定義するエージェント時代の共通基盤「Adobe Summit 2026」現地レポート

Adobeは「Adobe Summit 2026」で、エージェント型AIシステム「Adobe CX Enterprise」を発表した。AIが自律的にワークフローを回す「エージェント時代」を見据え、企業のIT基盤と顧客体験の在り方を再定義する。退任を控えたナラヤンCEOの集大成となる。

» 2026年05月07日 07時00分 公開
[末岡洋子ITmedia]

 Adobeは2026年4月19〜22日(現地時間)、米国ラスベガスで年次カンファレンス「Adobe Summit 2026」を開催した。20日の基調講演ではエンド・ツー・エンドのエージェント型AIシステム「Adobe CX Enterprise」(以下、CX Enterprise)を発表。AIエージェントが企業のワークフローに浸透する時代に向け、顧客体験オーケストレーション(CXO)の再定義を図る狙いだ。

Adobe CX Enterpriseが目玉となった(筆者撮影、以下同)

AIエージェントが消費者とブランドの間に入る

シャンタヌ・ナラヤン氏

 24回目の開催となるAdobe Summitには約1万4000人が会場に集い、オンラインでも世界中の参加者が視聴した。ステージに立ったAdobe会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayan)氏は、「企業はデジタルファーストであるだけでなく、エージェント時代に向けてデジタルスタックを構築しなければならない」と述べる。

 環境は変化している。消費者側では、商品やサービスを探したり調べたりするのにエージェントを使う動きが出てきている。企業側でも業務自動化にエージェントを活用する動きが広がっている。AIエージェントが消費者とブランドの間に入り、調査や比較、推薦をする時代において、ブランド側もエージェントに対応した設計が求められるという。

 マーケティング分野におけるAdobeの製品は「Adobe Experience Cloud」で、既にAI時代に向けて製品ポートフォリオを構築してきた。2018年に打ち出したExperience Cloudを支える基盤の「Adobe Experience Platform」(AEP)は、「Adobe AI」(旧Adobe Sensei)や生成AIレイヤーを加えてきた。

 Adobeでデジタルエクスペリエンス事業部門&フィールドオペレーション部門代表を務めるアニール・チャクラヴァーシー(Anil Chakravarthy)氏は、「AEPは現在、世界中で1日700億件を超える顧客データ活用と35兆件にのぼるターゲット分析を処理している。年間1兆回を超える顧客とのやりとりを支えている計算になる」と話す。2万社を超えるグローバル企業の実績と、データとコンテンツ、ジャーニーにわたるドメイン知識がある。この基盤の上にエージェント型AIを組み合わせる。

エンド・ツー・エンドのエージェンティックAIシステム「CX Enterprise」

 Adobe Summitの目玉であるCX Enterpriseは、前年のSummitの中心だったAIエージェントの発表を受けてのもので、従来のAdobe Experience Cloudを大幅に刷新したものだ。名称変更にとどまらず、AIエージェントとエージェントスキル、Model Context Protocol(MCP)エンドポイントを統合したアーキテクチャへと生まれ変わった。インテリジェンス層とガバナンス層を備え、信頼性が高く監査可能なエージェントワークフローを実現する。

 「必要なのは、エンド・ツー・エンドのエージェント型AIシステムだ。あらゆるチャネルで、カスタマーライフサイクルの適切なタイミングに、パーソナライズされた体験を全ての顧客に届け、最適化できる」(チャクラヴァーシー氏)

 CX Enterpriseは3つのユースケースを軸に構成される。

 1つ目の柱は「ブランドビジビリティ」で、AIサービスやエージェントに自社ブランドが正確に発見、理解されるための基盤となる。チャクラヴァーシー氏は「80%の企業がAIプラットフォームでのブランド露出に大きなギャップを抱えている」と指摘した。

 2つ目の柱は「カスタマーエンゲージメント」だ。Adobe Experience Platformを基盤に、「Real-Time CDP」で顧客の最新状況をリアルタイムに捉え、次に「Customer Journey Analytics」でその背景にあるニーズを深く理解する。そして、「Journey Optimizer」が最も響くアクションを予測して実行。この把握、理解、実行のサイクルを回すことで、顧客一人一人に寄り添ったパーソナライズを実現する。

 3つ目の柱が「コンテンツサプライチェーン」で、生成AIコンテンツ制作の「Adobe Gen Studio」が計画から制作、配信、測定までを管理する。さらに今回、これら3つのユースケース全体をカバーする統合アナリティクスシステム「Adobe CX Analytics」も発表された。

 CX Enterpriseのエージェント層の中核となるのが「CX Enterprise Coworker」だ。「ビジネス目標を多段階のアクションに変換し、複数のエージェントを調整して実行する」とチャクラヴァーシー氏は説明する。

 例えばクロスセル強化という目標を与えると、オーディエンスセグメントの構築、クリエイティブアセットの準備、パフォーマンス計測までを自律的に進め、マーケターの承認を経てキャンペーンを実行する。MCPとAgent-to-Agent(A2A)の標準規格に基づいたオープンなアーキテクチャを採用しており、今後数カ月以内に一般提供を予定している。

 インテリジェンス層では、2つのエンジンを備える。「Adobe Brand Intelligence」は、ブランドガイドラインを静的な文書から「学習し続けるシステム」へと進化させる。チャクラヴァーシー氏は「承認、却下、レビューフィードバックといった定性的なインプットから継続的に学習し、全てのエージェントがブランドに沿ったコンテンツを生成、検証できるようにする」と述べた。「Adobe Engagement Intelligence」は顧客生涯価値の最適化に特化したデシジョニングエンジンで、オーディエンスの重複チェックやタイミング、チャネルの最適化を担う。

エコシステムを強化、Microsoftとのネイティブ連携をデモ

 CX Enterpriseの特徴の一つが、オープンなエコシステムへの強いコミットメントだ。AdobeはAmazon Web Services(AWS)やAnthropic、Google Cloud、IBM、Microsoft、NVIDIA、OpenAIとの連携を拡大し、企業がタスクに応じて最適なAIモデルを選択できる環境を整える。「Adobe Marketing Agent」は、「Microsoft 365 Copilot」で一般提供が開始された他、「Amazon Q」「Anthropic Claude Enterprise」「ChatGPT Enterprise」「Gemini Enterprise」「IBM watsonx Orchestrate」でもプレビュー版としての展開が始まっている。

 基調講演では、CX EnterpriseとMicrosoft 365 Copilotのネイティブ連携をデモで見せた。ホテルのマーケティングチームを想定したシナリオで、地域マーケターがキャンペーンを立ち上げた後、マーケティング統括者が「Microsoft Teams」からキャンペーンパフォーマンスをそのまま確認。「南フランス、リビエラキャンペーンの収益をオーディエンス別、チャネル別に見せて」と入力すると最新のインサイトが表示されたり、「毎週火曜日に自動でPDFレポートを送付する定例ミーティングを設定して」と入力すると、レポート生成から配信スケジュールの設定まで完結したりする様子を見せた。

Microsoft 365 Copilotとのネイティブ連携が示された

 「CX Enterpriseをユーザーが作業する環境に届ける」とチャクラヴァーシー氏は述べた。

 この他、代理店、システムインテグレーターとの協業も推進する。dentsuやOmnicom、Publicis、WPPといった主要グローバル代理店がAdobeのAI技術を活用して顧客にカスタマイズされたソリューションを提供すること、Accenture、Capgemini、Deloitte Digital、PwCなどのグローバルSIが各産業向けのソリューションを構築することも発表された。

 2026年3月にCEO退任を発表しているナラヤン氏はステージから会場に向かって、「われわれは、変化の真っ只中にある。クリエイティビティとマーケティングがAIによって再定義され、スピード、パーソナライゼーション、スケールの可能性が根本から変わろうとしている」と話す。しかし、変わらないものもある。素晴らしい体験を創るのは「(これからも)人間だ。ツールが創るのではない」とナラヤン氏。

 18年に渡りCEOとしてAdobeを率いたナラヤン氏は、それまでのパッケージソフトウェアからSaaSへの転換、OmnitureやMarketoの買収を通じてCreative CloudからExperience Cloudへと事業を拡大し、デジタルマーケティングという市場カテゴリーそのものを作り上げた。今回のAdobe Summitは、その集大成となる最後の基調講演となった。

(取材協力:Adobe)

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