ファイントゥデイは基幹システムをクラウドで再構築し、AIエージェントの早期導入を進めている。RPAでは難しかった「経験やナレッジを伴う推論業務」の自動化に取り組み、予定より半年前倒しで本番稼働を実現した事例を紹介する。
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2026年4月に開催された「Oracle AI World Tour Tokyo」の事例講演に、パーソナルケア商品大手のファイントゥデイのIT部門担当者が登壇し、AIエージェント開発について説明した。
同社は「Oracle Fusion Cloud ERP」をはじめとしたアプリケーションと連携し、在庫調整をはじめとする基幹業務の自動化エージェントを短期間で開発している。講演では、AIエージェントに適した業務の見極めなど、独自のノウハウが紹介された。
ファイントゥデイは2021年に資生堂のパーソナルケア事業が独立して創業した。「TSUBAKI」や「fino」「SENKA」「uno」「Ag」「SEA BREEZE」などの知名度の高いブランドを製造販売する。年商は2000億円を超え、そのうち海外での売り上げが約60%を占めるなど、グローバルに事業を展開している。
2021年の設立から足早に、独自の基幹システムを構築、安定化を進めてきた。オラクルの「Fusion Cloud Applications」を導入し、サプライチェーンやERPを、国や地域をまたいでワンインスタンスで運用している。「受注から現金化、調達から決済といったミッションクリティカルな領域を担っており、一部の工場を除いて、システムの全てをSaaSやクラウドを使ったサービスインテグレーションで構築している」と小室氏は説明する。
同社は、基幹システムの基盤が確立した2025年、次のステップへの取り組みを模索していた。その中で、でオラクルの「AI Agent Studio」のリリースを知ったという。
基幹システムとして同社が導入済みのFusion Cloud Applicationsには、既にAIエージェントが組み込まれており、活用できる状態にあった。「サービスの利用価値を最大化するため、2025年からAIエージェント実装に向けたPoCを開始した」と小室英彦氏(IT本部 BITA1部バイスプレジデント)は話す。
次に小室氏は、業務の性質に応じたAIエージェントの使い分けについて説明した。
基幹領域については、精度や統制、説明責任や監査対応をしっかりと確保してワークフローを効率化していく方針を掲げている。そのため、決定論的でルールを重視する「ワークフロー型AIエージェント」としての開発を進めている。
一方で、マーケティングや商品開発におけるアイデア出しなどの業務では、消費者や市場の理解を深め、アイデアを拡張していくことが求められる。そこでは、思考の頻度やスピードを上げるために、確率論的推論を重視するAIエージェントをデータプラットフォームに組み込むなど、ベストオブブリードで活用を図る。
小室氏は、AIエージェントの導入に当たって、単なるシステム導入にとどまらず、ビジネスに貢献することの重要性を語る。
「どんなビジネスの、どういったプロセスを自動化するのか、『モデリング力』をしっかりと持つことが重要だ。その上で、AIエージェントを適材適所で検討しなければいけない」
モデリング力を向上させるため、同社はビジネスとITの両面にコミットしてソリューションを生み出す「BITA」(ビジネスITアーキテクト)と呼ばれる人材の育成に力を入れている。教育や実践の機会を通じて育成されたBITA人材が中心となり、同社のAIエージェントの活用を推進しているという。
続いて、同社のBITA人材のリーダーとして活動する、同社の槙智史氏(IT本部 BITA1部マネジャー)が登壇し、具体的な実践事例と今後の展望について語った。
槙氏は、基幹領域におけるAI活用を改めて考察した。その中でAIエージェントの役割について、こう語る。
「決定論的なプロセスが基本となる業務において、人間が推論で補っている部分、例えば知見やナレッジのところを含むプロセスは、AIエージェントに置き換えられると考えた」
受注や在庫管理の責任者を例に挙げると、適正な在庫水準の維持やシステムへの登録手順などには、さまざまなルールが存在する。このような業務において、従来のRPAではなくAIエージェントを活用する真の価値は、経験やナレッジに基づく推論業務までカバーできる点にある。
「ルールを定めて動かすRPAと比較して、AIエージェントは、自律的に分析、判断、推論までしてくれる。いわば『頭と手足』がそろったアプリケーションだ。ただし、この自律的な処理を実現するには、組織内の暗黙知や形式知を、AIの核となるプロンプトに言語化してインストールするプロセスが必要になる」
講演では、自律的な推論による在庫分析と提案のデモが公開された。ユーザーがチャットで「在庫状況を分析してください」と指示を出すだけで、背後でAIエージェントが自動的に動き出す。A倉庫とB倉庫の在庫水準を調査し、あらかじめ適正と設定された比率(7対3)に対し、現状が8対2に偏っていることを把握する。そして、「これだけA倉庫からB倉庫に動かすといいですけど、どうですか」と在庫移動を自律的に提案してくる。この一連の動作が紹介された。
この流れの中で、人は内容を確認して承認(アプルーブ)するだけでよく、その後はAIエージェントが組織間転送の処理を実行し、結果をユーザーに通知する。「作業時間の削減だけでなく、『Oracle Database』への登録に必要だった作業もゼロにできる」と、槙氏は抜本的な効率化による効果を紹介した。
この在庫水準の調整に加え、今後は定番商品の指定や不良在庫の廃棄処理、新しい販売網への在庫移動といった複雑な条件に対応させることで、AIの価値をさらに高めていく方針だ。調達やオーダーマネジメントといった他業務への横展開や、IT部門によるシステムアップデート時の検証作業などへの応用も視野に入れている。
槙氏のチームは、これらの開発したAIエージェントを、業務部門に対してデモで見せた。すると、想定を超える反響を呼んだという。
「関係会社への対応依頼メールを自動配信する機能が欲しいという依頼があり、早速追加開発して提供した。現場と伴走しながら、小さい成功を積み重ねていくことが大事だと思う」(槙氏)
同社ではAI展開の想定時期を2026年10月に設定していたが、本講演の時点で既に、特定領域での本番稼働を実現している。「開発が大幅に前倒しできたのは、パートナー、オラクルを交えた勉強会やハンズオンによって、急速に技術レベルを上げることができたからだ」と槙氏は説明する。
AIエージェント活用の先進企業であるファイントゥデイは、さらに開発を加速させている。AIエージェントのプロセスに人を介在する『ヒューマンインザループ』の処理を実装したエージェントも開発し、既に1つが出来上がったという。
「現在も特定の定型業務の自動化や、異常検知に向けた新たな開発が、驚異的なスピードで進められている」(槙氏)。2026年度下期には、AIエージェントの領域を拡大し、可能な限りの定型業務自動化を推進していく計画だ。
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