AIエージェント活用を阻む“予算の壁” セールスフォースらの新機能は打開策になり得るか?Weekly Memo

企業にとってはあらかじめAI利用コストを想定できないと投資が決まらない。そうなると予算が立てられず、ROIの見通しもつかない。そんな企業のAIエージェント活用に立ちはだかる“予算の壁”を打破するにはどうすればよいのか。セールスフォース、IBM、マネーフォワードが提供を開始した最新機能はその打開策となるのか。

» 2026年08月24日 13時30分 公開
[松岡 功ITmedia]

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 企業が生成AI、そしてAIエージェントを活用する中で、使えば使うほどコストが跳ね上がるという課題が浮上している。そこで、AI利用コストを可視化してROI(投資対効果)を出せるようにマネジメントするツールをITベンダー各社が提供し始めている。

 筆者が気になるのは、企業にとってあらかじめAI利用コストをある程度想定できなければ、投資の意思決定が難しくなることだ。

 投資が決まらなければ予算が立てられず、ひいてはROIの見通しもつかない。この課題は、とりわけこれから活用が本格化するAIエージェントにおいて深刻になるのではないか。企業のAIエージェント活用に立ちはだかる“予算の壁”をどのように打破するか、ベンダーとユーザー企業が協力して着地点を見いださなければならないだろう。この話題の最新の動きを取り上げながら、その着地点を探る。

セールスフォースのAI利用コスト管理ソリューションとは

 「企業でのAI活用が進むにつれて、AIエージェントの乱立とAI利用コストをどうマネジメントするかが、新たな課題として浮かび上がっている」

 セールスフォース・ジャパンの三戸篤氏(専務執行役員 製品事業統括本部 事業統括本部長)は、同社が2026年8月17日に開いたAIエージェント活用に向けた機能強化に関する記者説明会で、この分野の新たな課題についてこう述べた(図1)。

図1 AIエージェント時代に浮上した主な課題(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

 今回の機能強化は、上記の課題に対応するためのソリューションを提供するもので、その全体の内容は発表資料をご覧いただくとして、ここではAI利用コストの話にフォーカスする。

セールスフォース・ジャパンの三戸篤氏(専務執行役員 製品事業統括本部 事業統括本部長)(筆者撮影)

 三戸氏は新たな課題となっているAI利用コストのマネジメントについて、「当社の調査によると、AIモデルのトークン消費量は今後4年で24倍に急増すると見込まれている。より良いAIモデルをデプロイする以上に、効果的なAIアーキテクチャの構築がAI時代の勝ち筋になってきている」との見方を示し、図2に記載されたユーザー事例を紹介した。

図2 AI利用コストマネジメントの課題(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

 その上で、AIとAPIが稼働する利用環境の中でそれらのトラフィックとトークン消費を管理してコストの可視化とガバナンスを提供する「MuleSoft Omni Gateway」と呼ぶソリューションを新たに提供することを明らかにした。図3に示した機能が新ソリューションで加わったもので、AI利用コストの可視化については左上に記されている。

図3 MuleSoft Omni Gatewayの機能(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

 AI利用コストの可視化については、他のITベンダーも相次いで新ソリューションを打ち出している。ここでは以下の2社の動きを紹介しておこう。

 まず、日本IBMは2026年8月18日、米IBM社がAIトークンの利用コストを含むAI関連支出と、測定可能なビジネス成果を結び付けて可視化できる「IBM Apptio AI Value & ROI」と呼ぶソリューションを9月末までに提供開始することを発表した。このソリューションを導入した企業は、「売り上げやコスト、スピード、生産性、リスクといった指標に基づいてAI施策の進捗や成果を把握できる」とのことだ。

 同社によると、この新ソリューションの投入は「企業のAIへの投資拡大に対し、その成果を適切に説明し、評価を強化するニーズに応じたもの」としている。

課金形態の“揺らぎ”が続く中で見いだしたい着地点

 もう1社は、会計ソフトをはじめ法人向けバックオフィスSaaSを提供するマネーフォワードだ。同社も2026年8月17日、法人のAI利用コストを一元管理するソリューションの提供を開始すると発表した。

 新ソリューションは、法人のAI利用コストをダッシュボードで可視化する「マネーフォワード クラウドAIトークン管理」だ。さらに同社が提供している「マネーフォワード ビジネスカード」をAIツールの決済専用カードとして活用し、AI関連支出を集約・一元化できる仕組みも整備する。これにより、「法人におけるAI利用の実態を透明化し、ガバナンス強化とROIの最大化を支援する」としている。

 マネーフォワード クラウドAIトークン管理は、AI利用コストや利用量をダッシュボードで可視化し、一元管理できるプロダクトだ。API連携などでデータを取り込み、「ChatGPT」や「Claude」などのAIモデルについてユーザーごとに利用量を確認できる。また、期間を比較することでAI利用コスト増加の要因を特定しやすくなり、社内の適切なAI活用を実現するという(図4)。

図4 マネーフォワード クラウドAIトークン管理のダッシュボード画面イメージ(出典:マネーフォワードの発表資料)

 また、マネーフォワード ビジネスカードは、カードごとに上限額や用途を指定できる「カードコントロール機能」や、バーチャルカードを複数枚提供できる。これらの点を活用し、AIツールの決済専用カードとして、支払い先をAIツールのみに限定した運用が可能だ。これにより、AI関連とその他の支出を分けて管理し、AIの支出管理を一元化できるとしている。これは、すなわちクレジット決済だ。

 同社ではこれらを通じて、「AIトークン利用量の可視化」と「AI利用コスト管理」の両面から、企業のAI活用におけるガバナンス強化を支援する構えだ。

 このように、ITベンダー各社からAI利用コストを可視化してマネジメントできるようにするソリューションが提供されつつある。冒頭でも述べたように、企業にとってはあらかじめAI利用コストをある程度想定できなければ、投資の意思決定が難しくなる。投資が決まらないと予算が立てられず、ひいてはROIの見通しもつかないというマイナスのスパイラルに陥ってしまうことを筆者は危惧する。この課題は、とりわけこれから活用が本格化するAIエージェントにおいて深刻になるのではないか。

 セールフォース・ジャパンの三戸氏にこの点を会見で聞いたところ、同氏は次のように答えた。

 「AIエージェントについては課金形態がどうなるか、まだ不透明な状況なので、コストを予測するのは現時点で難しい。課金形態については、従量課金(コンサンプション)と定額課金(サブスクリプション)がしばらく入り交じって、ROIにどう結び付けるかでバランスを模索していく形になるだろう。課金形態の“揺らぎ”がしばらく続く中で、お客さまの声を十分にお聞きしながら着地点を探っていきたい」

 企業のAIエージェント活用に立ちはだかる“予算の壁”をどのように打破するか。AIエージェント活用に向けたマネジメントの中でも、AIエージェントの普及そのものへの大きな障害となる課題だと、筆者は考える。三戸氏が言うように、ベンダーとユーザーが合意形成していくことで着地点を見いだしていきたいものである。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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